とぼとぼ Tamagoro

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「透明な遺書」

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あーっ、やってしまいましたー。

「今日は寒いから温まって帰ろう」・・・・・

それが良くなかったー。




有楽町のホームに着いたのは、8時。いつもよりもかなり早い時間だった。

しかし、次に来るのは「小手指」行き、その次は「飯能」行き。どちらも西武線乗り入れの電車だった。

東武線の住人にとって、全くもって用のない電車なのだ。「ブラックホールだー」などと独り言をつぶやく。

こういった場合、玉梧郎はいつだって、直通の東武線まで待つのだ。

なのに、時間が早いこともあり、体が暖まっていた強みもあり、すぐに来た「小手先」行きに乗ってしまったのだ。



いつの間にか寝ていたらしい。

気がついたのは、西武線に乗り入れて2つ目の駅「練馬」だった。

「あーっ、やっちまったー」と叫んでも、すでに時遅し。

こうなれば、周囲の人に悟られないように平生を装いながら、何食わぬ顔をして降りていかなければならない。



降りるところまでは、難なく練馬の住人のように(?)降りた。

次の難関は、どうやって改札に向かわず、反対のホームにぬけぬけと進むかだ。

幸いなことに同じようなヤツがいた。

目の前のそいつにつられるように改札口とは違う反対ホームについて行く。

人の後についていくことで、心安らぐ自分の心の小ささを感じながらも、なぜかしらホッとしていた。

しかし、その男、反対ホームに向かうかと思ったら、ゴミ箱に飲み干したペットボトルを捨て、

何食わぬ顔で改札に行ってしまった。

突然身を翻し、フェイントをかけられ、行き先を見失ったミッドフィルダーのように、

玉梧郎は一瞬立ちすくんだ。そして、独りおめおめと人並みとは別の方向に向かうのだった。




なんとか反対ホームに着くことに成功すると、すぐに来た「和光市」行きに乗り込み、

本を開いて周囲の視線から逃れようとした。

誰もその事実を知るよしもないのに、悟られまいとする努力を惜しまないのも玉梧郎なのだ。

バッグを開け、2/3ほどを読んで遂にストーリーの山場を迎える「透明な遺書」を没頭しようとした。

「えー? ない。ない。ない。どこにもない。どうしたのだろう?」

バッグの中から脇のポケット、さらにはバッグの裏側まで探したが、どうしてもない。

ようやく気づいたように、小さな声で「しまったー」。

練馬で降りるとき落として来てしまったらしい。視線を中に泳がせ、やり場のない怒りに震えていた。

雨などあたらないですんだのに、乾ききった傘だけはしっかり握っていた。




駅の書店がまだ開いていたので寄ってみた。

蛍の光が流れるまで探したが、結局「透明な遺書」は見つからなかった。

その代わり、興味のない3冊を手に持ち、蛍の光にせかされ会計を済ませていた。

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