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精悍そうに見えるけど。
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2009年01月30日
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田酒もあっけなく蒸発してしまったので、 |
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踏み切りを渡るとその先は細い上り坂になっている。 舗装されてなく土ぼこりを舞い上げ車は勢いよく坂道を上がっている。 ボクは助手席に座って、カーナビの画面を覗き込んでいた。 「坂を上がって2本目を左ですね」と言っているのに、あっけなく2本目を過ぎてしまった。 振り返ると、ケーキ屋の前でペコちゃんが手を振って笑っていた。 「ねー、ケーキ屋さん過ぎてしまいましたよ」運転手はあわてて、車を引き返した。 運転手の顔を見ると、知らない人だった。30歳後半といったところか、ボクより10歳以上は老けているようだが、何でも入社したばかりの新人だという。「ふ〜ん新人さんなのですか」。運転手は何も答えない。答えないのだけれど、「ケーキ屋さんに行きたいんだ」といっている。 なんでこのおじさんがケーキ屋さんに行きたいのか?という疑問の前に、ん?なんでボクは、この車に、この知らない人と乗っている?と思った。それは謎でありながら、実際そういうことになっているようだ。運転している新人さんは何かを言っているようだけど、ボクには何も聞こえてこない。車内を見渡してみると、妙に年代ものライトバンだ。シートは薄汚れていて茶色いシミもそこらじゅうに目立つ。ステアリングの中央に薄汚れた英文字でBLUEBIRDのエンブレムが貼られていた。「懐かしいコレは初めて勤めた会社の工場便の車じゃないか。20年も以前の話じゃないか」。20年も前にタイムスリップしてた。その瞬間に、運転している人の顔に見覚えがあることに気づいた。でも、思い出せない。かなり年長と思っていたその運転手は、確かにボクより年長だが、今のボクよりは10歳くらいは若く見える。妙な気がしたが、そこにいるボクはまだ20歳代のまま助手席に座っていた。 ケーキ屋によほどこだわるのだろうか、何度も同じ道を行ったり来たりしている。 同じ道筋のはずなのに、気づけばまったく別のところに出ていた。カーナビにももうケーキ屋を示すものは何も無く、ただただ田畑が連なるばかりだった。足元の傘が邪魔で仕方なかったので、体をかがめて傘を掴んで前を見ると、土が剥き出しの枯れ枝が覆い重なる木立のトンネルの道。年代もののブルーバードはひた走っていた。 ボクは荷台に乗り風邪に吹かれている。見上げると、梢に鳥が1羽止まっていた。「なんだろー、あーっ、キレンジャクだーー」。ボクは大きく叫んだが運転手にボクの声は届かないらしい。スピードを緩めない。なのにボクは双眼鏡を握り締め車の横に立っている。車は止まっていて、運転手もいない。 双眼鏡の先には、後ろ向きに成長2羽とかわいい幼鳥3羽がひとつの幹で戯れていた。 「カメラカメラ」ボクは、カメラを探すも持っていないことに気づく。同時に、コンデジをカバンから出してパワーボタンを押した。コンデジでも十分撮れる距離だ。あせりながらもどうにかパワーが入ったが、画面はなぜかプレビューにならない。撮影画面にはならず再生モードで、次から次へと人の顔ばかりがフラッシュバックのように出てくる。ほとんどが知らない撮った覚えのない顔ばかり。おじさん風の顔ばかりの中で、唯一分かる顔があったがそれは、ゴッホの自画像だった。なぜそんなものが保存されているのか分からないが、とにかくメディアが満杯だ、とぼやきつつ見上げると、横を向いた顔はアカコッコ。もう一度カメラの準備を試みたがどうにもならない。とにかく観察しておこうと顔を再び上げたときには、アカコッコファミリーはすでにどこかに去っていた。あーしくじった。まぶたに残像を残していると、ボクはスピードをあげる車の荷台に乗り傘を差し雨をしのいでいた。 確かブルーバードのライトバンのはず、なんでむき出しの荷台があるのか分からない。 頭上にはまた、キレンジャクが枝に止まっている姿がいくつも流れていった。 いったいこの車はどこに行くのか。森の中をさまようようにどんどん進んでいく。 そのとき、天の声が振ってきた。 「時間ですよー」。時計を見ると7時。ようやく目が覚めた。 夢の世界は思想天蓋。どこまでも続く田園地帯とどこまでも続く林道。出てくる建物は、なぜか不二家のケーキ店のみ。時代考証も20年前にタイムスリップした自分と当時乗ったことのある薄汚れたブルーバードバン。もしボクが、浅田二郎だったら、地下鉄に乗ってくらいに演出しながら大きなドラマができていたのかも知れない。もし、ボクが内田康夫だったら、20年前のボクの姿を浅見光彦に見立て、その田園風景を旅情たっぷりに道案内してくれただろう。思えば思うほど、自分は凡人中の凡人Tamagoroでしかないのがつまらない。せっかくの小説にヒントともなりうるエピローグを夢にもらいながら、それがそれですべてとして終わってしまうのだ。あの薄汚れたブルーバードバンにしたって、ノスタルジーのかけらも残さず、田園風景の中をひた走る光景だって旅情をたっぷる引き立てるエピソードがあったはずだ。突然のシーン転換はストーリの転換だったのだろうが、その先の発展を補うことなくあえなく終了してしまう。これではやはりボクはボクでしかない。あーかなしい性。。差がありすぎるなー、現実と理想。。目が覚めてある意味ホッとしている夢から覚めた寝ぼけた自分がいた。
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