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電車に乗るときみぞれだったが、降りると粉雪に変わっていた。 「ねえ、着いたの?」 「いや」 「ここは?見たことある駅よ」 「君が良く寝ているから、起こせなくて1周してしまったんだよ」 「あら、雪になったのね」 「んん、そうだよ」 「乗るときはみぞれだったのにね」 「君がずっと寝ているからだよ」 「寝ているのもいいものね。積もるかしら、きれいねー。」 「東京は雪に弱いから積もっても困るさ」 「でも、朝起きたら一面の雪景色なんて。ロマンチックだわ」 「何言ってんだか」 「ステキじゃなーい」 「おととい、滑ってころんだの、だれだっけ?」 「あらっ」 「あははは」 「神様、どーか積もりませんように・・・」 「ほら、手が冷えるぞ」
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電車で1時間
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この書庫をはけ口にして、明日もがんばりたいィ〜。かな。
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確かに玉梧郎は疲れていたのかもしれない。 今日は、終日モニターを睨むように、あるいは覗き込むように、作業に集中した。 座りっ放しで筋肉が硬直するのを感じながら、遠くなる視力の向こうに気力もうせていった。 そんな疲れたを引くずるように、どうにか帰路のメトロに身を預けた。 手の中では、福山の鞆の裏で起きた事件を浅見光彦がいよいよ名推理を疲労する場面だというのに、 浅見は何も言わない。なぜいわないのかと思うまもなく活字が闇の中へと吸い込まれていったのだ。 目を覚ましたとき、幸いヨダレはたらしていなかったが、反対側の鏡に映る近くに座る女性の視線が 気になった。このだらしない寝姿を見られているのではないかと、玉梧郎は恥部でも見られたように あせっていた。その視線の先はまさか自分ではあるまい、とは思うのだが、そんなの当たり前だ。 それでも、怖いもの見たさとでもいうのか、玉梧郎は、窓ガラスに映る女の顔と見ていた。 見ているうちに、女の顔の中にある目や鼻、口がだんだんとなくなっていく。 あるのは顔の輪郭と炸裂しそうな髪の毛だけ。身の毛がよだつというのはこういうことなのだと悟ったとき、 女そのものの姿が消えていた。 玉梧郎は、ハンカチを出し噴出す冷たい汗をふき取った。ふき取ると同時に、今日の疲れもふき取った。 メトロは乗換駅の明るいホームに止まって、出発の合図を待っていた。
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今夜は風はなかった。雨はすでに上がっているが路面には水溜りが点在している。 乗換駅のホームで玉梧郎は電車を待っている。それほど寒さを感じてはいなかったものの、さすがに、 寒さきわまる冬である。首筋にまとわり着く冷気が漂いうっとうしい。居酒屋でバッグに締まったマフラーを 取り出し首筋を覆った。マフラーを取り出すとき、今日はお酒を呑んでいたことを思い出した。 少し酒が入っているので、それほど寒さを感じていないのかもしれない。 次に来る電車を待ちながら、今日一日のことをそぞろに思い出している。 ミルフィーユとは、フランス語らしい。千枚の葉という意味なのだそうだ。千枚の葉を重ねて織り成す 繊細なケーキの層。千葉市でも、ミルフィーユ・シンポジウムなるものを開催しているという。そっかー、 明日は、そうだ、あれもやらないといけない。コンセプトメイクもまだだし、どうしよう。そうだあの件もあった。 テーマワークを整理しないと。まあ明日考えればいいか・・・。ホームに立ちながら色々と考えながら よくもまあ、次々と仕事のことが思いつくものだと思う。いくつもの疑問やアイディアが現れては消え、 消えては浮上し、帰結することがない。それにしても、電車が来ない。 先ほどから駅のアナウンスが耳にノイズとなっていたがなんだったのだろう。 「本日、21時20分ごろ、人身事後があり〜〜〜、その影響でダイヤが乱れています」。 ダイヤが乱れているらしいことは、いわれずとも、すでに30分も寒々しいホームに立たされている。 「〜〜〜ただいま〜〜〜、次の電車は大山を通過中です。お客様には大変ご迷惑を〜〜〜〜」 21時20分ごろに人身事故だったらしいが、それは、すでに2時間以上も前のことだ。ずいぶんと 遅れたもだ。結局、1時間もホームで待たされていたことになった。 家に着けば、日付変更線を大きく過ぎていた。 日曜に仕入れた鮭を焼き皿に映そうとしたとき、手が滑って床に落とした。 落としたついでに踏んだ。 いつのなら、3秒ルール(3秒以内なら、すぐ拾って食べればバイキンの心配もなく食べていい)で 食べるところだが、踏んだものを食べることもできずに蹴り飛ばした。 これがほんとの踏んだり蹴ったりか、といいながら自分の不運を恨むんでいた。 玉梧郎は、明日のことを思いそして千寿を浴びている。明日は晴れるかな? 晴れなら休みたいと・・・。
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1月24日 |
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1月9日 エピローグにさしかかっていた。 数少ない玉梧郎ブログの読者ならすでに承知の通り、遅遅として進まない車内読書である。 今回エピローグを迎えているのは、津軽をテーマにした「十三の冥府」。 その前の九州を舞台とした「不知火海」から、かなり飛んでいる。ここまでなぜ飛んだかについて、 玉梧郎は、特にコメントをしていない。ただし、「不知火海」の前には、いまさらながらの「鉄道員」 だったことから推察すれば、それほどの距離感を感じない。いずれにしても、日本国内であるのだから、 浅見光彦をしても、飛行機という航空手段を使わずとも、愛車のソアラで移動できる範囲ではある。 とってもとっても気持ちがいい。ほんのり酔っている。ほんのりというのは人により千差万別だろうが、 玉梧郎のほんのりというのは、電車がゆりかごと化した状態をいうらしい。今日もそんな状況の中で、 エピローグを開いたところで、熟睡に落ちていったらしい。どのくらいの時間陥っていたかは、玉梧郎自身 理解していないようだ。そのことに気づいたのが足の裏に違和感を感じたときだったという。 どんなに乗ってもたかが1時間の通勤電車。ほろ酔い気分でずいぶん寝ていた。 ふと、足の裏にゴツゴツとした物質を感じ、目を覚ました。ほとんど無意識で足の下の物質を取り上げた。 手にした瞬間に用紙を束ねたものであることが分かった。と、同時にエピローグという文字が飛び込んだ。 玉梧郎は、眠りに落ち込む瞬間までエピローグを読もうしていた痕跡があった。 そのことさえ覚えがないというのだから、玉梧郎のほろ酔い気分の度合いがどの程度か分からない。 足の下。靴で踏み潰した本を取り上げ、開いたままのページのリアルさに驚いた。 同時に恥ずかしさを感じ、何を思ったのか、そ知らぬ顔で続きを読み出した。続きといっても、 どこまで読んだか分からない、どこが始まりなのかも分からない。文字の行間に目を落とし、そして、 また寝た。
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