玉のブログ 〜つれづれなるままに〜

基本的に週末に更新します。あしからず。

生きるのに必死な人 〜タクシードライバー〜

タクシーに乗った。
そのタクシーの運転手は、せっかちな人のようで、右に寄ったり、左に寄ったり、車の間を縫って頻繁に車線を変更する。
突然、運転手が「何やってるんだ!のろま!」と口走った。
私はびっくりして「どうしたんですか?」と聞くと、「前にスペースがあるのに、もたもたしやがって。全く!」と言う。
私は、車の振動から伝わる運転手のせかせかした様子に、居心地の悪さを感じていて、この運転手をちょっとたしなめてやりたくなった。人をたしなめる中国語の言い方を実践できるチャンスは、こちらの生活でもそうあるものではない。こういう機会を利用して、中国語の練習をするのだ。

「まあまあ、あの人もしかしたら道の方向が分からなくなって、立ち止まって考えていたかもしれないじゃない。そんなに怒らなくたっていいでしょう。運転手に興奮されると、乗ってるほうはたまったものじゃないわよ。あなたの運転、ちょっと荒いわよ。ひやひやするわ。そりゃ、急いでいて飛ばしてほしい客もいるだろうけど、私は安全運転が第一なの。タクシーもサービス業でしょう?客の顔をみて、客が何を欲しているかを察することができるくらいじゃないと、一流のサービスとはいえないわよ。」

「あいつが道の真ん中でぼけぼけしているのが悪いんだ!こっちは商売なんだぜ!道の真ん中をふさがれちゃあ、商売の邪魔だぜ。タクシーは、速くどんどん回るほど金になるんだ。金儲けが第一だ!」

「でもね、運転手さん。それは自分のことしか考えてないんじゃないの?客が一番欲しているものを提供するのがサービスでしょう?金さえ儲かれば、客へのサービスなんてどうでもいいって、そりゃあないでしょう。それに金、金っていうけど、世の中金で買えないものはたくさんあるわよ。一番大事なのは金じゃないわよ。」

「へえっ!金がなきゃどうしようもないだろう!俺は食べなきゃいけないし、親を養わなきゃいけないし、家も買わなきゃいけない!家が買えなきゃ嫁の来てもないし!そりゃ俺が金持ちだったら、あんたの言うようにいいサービスをするさ!こんなにばたばた急いだりもしないさ。でも金がないから、1分でも1秒でも死に物狂いで働かなきゃいけないんだ!わかるかい?!!」

私は返す言葉がなかった。今の中国では、まず家を買うことが結婚の条件だ。家を買う経済的能力のない男性と結婚してくれる女性はあまりいない。現に私の友人も、長年付き合ってきた彼女にプロポーズしたところ、開口一番「家を買って。」と言われ、買うことができないと言ったら、あっさりバイバイされたのだ。家を買わなきゃ結婚できないという男性のプレッシャーは、相当なものらしい。
このタクシードライバーは、生きるのに必死なのだ。そんな彼に「金で買えないものはたくさんある。金儲けが一番大事じゃない。」だなんて、なんて甘っちょろいことを言ってしまったのだろう。
私は決して金持ちではないけれど、明日を生きてゆくのに困るというほどの貧乏でもない。これまでも、贅沢をしてきたわけではないけれど、貧しくて飢えるような「貧困の恐怖」を味わったことはない。

目的地についた。タクシー代を渡しつつ、「あなたのおかげで、中国社会の大変さが分かった。勉強になった。ありがとう。」と言った。
「あんた、どこの人?」
「日本人よ。」
「そうか。日本人は金持ちだもんな。あんたらにとっちゃ、はした金よな。」
「そんなことないよ。日本人といっても、日本じゃ何でも物価が高いから、みんな結構質素に暮らしているのよ!」

タクシーを降りるとき、私は言った。
「商売が繁盛しますように!お金がたくさん儲かりますように!」
運転手は、最後に飛びっきりの笑顔で「謝謝!」と言ってくれた。


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