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春分も間近な、ある春の日の夜。
所用があって八重山に来ていた静壽は、共に八重山へ来ている おじぃ・・・こと、桃千代に、ふとこんな事を尋ねてみた。
「 なぁ、おじぃ。ここでは北斗が余り見えないだろう? 」
と。
確かに、琉球・・・特に石垣島や、今、静壽が訪れている波照間島では、夜に北を目指す時の目印となる北斗七星が水平線近くにあって。
余り見えないのだ。
「 だったら船乗り達は、どうやって南北を知るのだ? 朝や夕方ならまだしも・・・ 」
おじぃ は、夜空を見上げつつ答える。
「 旦那様、あそこを見てごらんなさい 」
と。
夜空の水平線近くに、大きな四つの星が見えた。
その星は、見ようによっては、まるで夜空に四つの星が
十
と、言う漢数字を描いたようにも見えた。
「 あの星は? 」
「 わしらは、南十字の星 とか、はいむるぶし ( 南群星 ) とか呼んでおります 」
「 南十字・・・の星? 」
「 あの星がある方角が、南だからでございますよ。船乗り達は北斗が見えなくなると、あの南十字の星を見て、南の方角を知るのでございます 」
静壽は、輝く
南十字の星
を見詰め、つぃ・・・と、振り返って北の空を見上げる。
水平線の上に、かすかに顔を見せる北斗の星。
故郷朝鮮は、あの北斗が空高く輝く場所だ。
そして、自分がいるのは琉球 ・ 八重山。
南十字の星が、水平線の上に見える場所。
北と南の夜空を交互に眺めつつ・・・
はるか遠い故郷に・・・
生き別れた妻と娘に・・・
一度でいいから、この
南十字の星
を見せたい
と、思いをめぐらす静壽だった。
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