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月は、少し傾いてきたのだろう。
洞穴の中が、ほんのりと薄暗くなってきた。
その中を、政浩は長今を抱きしめつづけていた。
臨津江の河の神は、この場にまだ留まっているようで、確かに力強い気配は感じられる。
しかし、さっきまで漂っていた威圧的な空気は既になく、ゆったりとした暖かさが、辺りに溢れていた。
ふぅ・・・
と、何かが長今の額と頬、手首に触れる。
「 なに? 」
ビクリ、体を震わせ、声を上げるが、長今はさっきまでの息苦しさがなくなっていることに気が付いた。
「 え??? 」
政浩に抱かれたまま、長今は左の手首を見る。
「 政浩様、見て下さい 」
政浩もまた、長今の手首を見る。
河の神が現れるまではまっていた・・・
臨津江の河の神の、許婚の証である腕輪が、跡形もなく消えている。
「 河の神様!! 」
河の神が、軽く頷きながら、ふふふ・・・と、笑ったような気がした。
やがて・・・
今度は、政浩と長今の瞼に、優しい何かが触れた。
『 娘・・・ここへ来た時から感じていたのだが、そなたには封じられた記憶がある。その記憶、今、わしが解き放った 』
「 封じられた・・・記憶・・・? 」
怪訝な顔をしながら、長今は尋ね返す。
河の神は、それには答えず、こう言った。
『 娘よ、明日の朝、目覚めたら若者と共に若者の屋敷へ行くがよい。真の事が判るはずだ 』
「 しかし、河の神様。長今さんは吸血鬼ですよ。吸血鬼は太陽の光を浴びると・・・ 」
『 今日からは、それもない。朝、そなたの屋敷へ行けばわかるはずだ。その娘が、真は何者であるかが・・・』
河の神の声が、だんだんと小さくなっていく。
二人は急激な眠気に襲われていたのだ。
眠気と戦いながら・・・政浩と長今は、遠ざかっていく河の神の声を聞いていた。
『 幸せになるがいい・・・。そなた達は、わしが認めた夫婦なのだから・・・。もし、そなた達だけではどうしようもない出来事に襲われたら、臨津江に・・・悩みを書いた紙を流すがよい・・・。そなた達が私利私欲に走らぬ限り、わしは必ずそなた達を助けに・・・』
>>> 続く
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