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長今が徐内禁衛将に向かって口に出した
「 お父さん 」
の、言葉に、政浩は自らの耳を疑った。
何故なら政浩の上司である徐内禁衛将は、長い間独り身だと聞いていたからだった。
しかし、長今を抱きしめ、長今もまた内禁衛将の胸に抱かれて涙を流す様子に、それが真だと信じる事しか出来ない。
が・・・
理由が全くわからぬ政浩は、首を父の方に向けると
「 父上・・・これは・・・ 」
と、つぶやいた。
「 政浩、驚いたのだろう? 」
「 あ・・・はい。長今さんは徐内禁衛将様の姫君なのですか? 」
政浩の父は大きく頷いた。
ここでは話もままならぬだろうからと、政浩と長今、内禁衛将、今英は、政浩の父に促されるまま、屋敷の一室に入った。
使用人が、温かな棗茶を運んできてくれ、その茶で喉を潤す。
そして・・・政浩の父が、おもむろに話しを始めた。
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今から20年ほど前のある日の夜。
当時、内禁衛の従事官であった徐内禁衛将・・・徐静壽は、風に飛ばされた羽衣が高い木の枝に引っかかって困っていた一人の娘と出あった。
その娘は、明伊 ( ミョンイ ) といい、吸血鬼の娘だ。
その場限りの出会いだと思っていたのだが、十日ばかりした満月の夜。
静壽は、明伊が
吸血鬼
だと言う事で、商家の用心棒達に弓を射かけられいたところに出くわしてしまい、ものの弾みで明伊を救ってしまう。
吸血鬼と人間。
決して許されぬ愛だとわかっていたが、その事がきっかけとなって、静壽と明伊は惹かれあうようになっていった。
しかし、それから間もなく。
静壽の妹が、原因不明の病に倒れてしまう。
妹の左腕には、占い師からもらったという銅の腕輪がはまっていた。
明伊は、それが、神の花嫁 に選ばれた証だと気付き・・・
静壽には呪いを解いたと嘘を言い、自ら静壽の妹の身代わりになった。
が・・・
明伊は結局、神・・・大同江の河の神の花嫁にはならなかった。
静壽と明伊の愛が、河の神の心を動かしたからだ。
大同江の河の神の力で、太陽の光の下でも生きられるようになった明伊と、静壽は夫婦となった。
やがて二人の間に授かった娘が、長今なのである。
ところが長今が7歳の時。
前王 ・ 燕山君 ( ヨンサングン ) は、幼い頃に死別した生母が実は病死ではなく、皇太后によって死を賜った事を知り、生母の死にかかわった全ての人達を、次々に投獄し始めた。
静壽は、燕山君の生母が死を賜った時、上からの命令でその場にいて、その死を看取ったのだが・・・
それが王に知られてしまったのだ。
静壽が投獄されるのは、時間の問題だった。
このままでは、その罪は自分だけでなく、幼い長今にまで及ぶのは必定。
最悪の場合、娘は殺されてしまうかもしれない。
それだけはなんとしても避けたかった。
悩んだ静壽と明伊は、幼い長今を、屋敷出入りの吸血鬼である徳九夫妻に託す事にした。
このまま手をこまねいていて殺されるよりは、二度と合えなくなったとしても、吸血鬼として生き延びて欲しかったのだ。
幸い長今は、人間と吸血鬼の混血。
吸血鬼としても、充分、暮らしていけはずだった。
静壽と明伊は、吸血鬼の医者・・・雲白に頼んで長今の記憶を封印してもらい、徳九夫妻に託した。
何時の日か再会できる事を信じ・・・
そのときの証として、銀のノリゲを長今の手に握らせて。
>>> 続く
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