|
月の夜
新野の城内に響く笛の音色 高く 低く 緩やかに
「 この音色は・・・ 」
灯りを引き寄せ、近い将来に必ず訪れるであろう曹操との戦について劉備と語り合っていた諸葛亮が、ふと卓上の地図から顔を上げ、耳をすませる
微笑みながら劉備が答える
「 翼徳ですよ 」
と。
義弟・・・張飛の字 ( あざな ) を告げる
主君から告げられた名前を聞いて
「 翼徳? 張翼徳殿が? 」
驚いたように諸葛亮が尋ね返す。
「 ええ。今夜は翼徳が宿直ですから 」
「 まさか 」
大の酒好きで無骨者、風流などには全く無縁の武人にしか見えない張飛が笛を奏でるとは、諸葛亮には思いも寄らなかったのだ。
「 孔明が驚くのも無理はないが・・・翼徳はああ見えても案外豊かな感性を持っていましてね。武器と酒、奥方を含む家族の次に、笛を愛しているのですよ。まぁ・・・私と関羽は別格・・・らしいですがね 」
劉備はくすりと笑うと何度も頷きながら、諸葛亮に話した。
高く・・・低く・・・緩やかに・・・ 笛の音色は続く
諸葛亮は、白羽扇を胸に当て、そっと目を閉じると笛の音色に聞き入る
来るべき戦に備えているのか。
穏やかな曲でありながら、どこか決意のようなものを秘めた笛の音色
哀愁すら帯びたその音色は・・・新野の城内に・・・しみこむように広がっていった・・・。
|