風の旅人

三国無双ベースの三国志二次小説、始めました

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いちりばきょうだい 1

中宗17年 ( 1522年 倭国暦だと 大永二年 )


初夏。
琉球近郊の東シナ海。

波が、遊んでいる。
海は空よりも蒼く澄み渡り、時折、イルカが黒い背中を見せながら、船を追い越していく。
静壽は、船べりに肘をつき、周りの景色を眺めていた。


堺の町を船出してから、幾日が過ぎたのだろうか。
船出した頃は、桜の花が咲く頃だったのに、今はもう、初夏・・・というより、夏の日差しに変わってきている。

いや、それだけではないのだろう。
夜、星を眺めていると、首を少し上げて見つけていた北斗七星は、だんだんと水平線に近づいてきている。
錨を止めた港や、過ぎてきた島を見ていても、陸に生えている木々や草は、朝鮮でも、堺でも見た事がない、静壽は名前も知らない木ばかりだ。

「 あれはガジュマル。こっちは蘇鉄ですよ 」
正兵衛が、一々教えてくれる。
「 蘇鉄? あの、堺の某寺院に植えてあった? 」
「 ええ・・。元々、蘇鉄は、琉球のような南の暖かい場所に生える木なんです 」


そんなことを考えながら、何気なく過ぎていく島影を眺めていると、
「 静壽さん、今日の午後には、ナハミナト ( 那覇湊 ) に到着しますよ 」
と、正兵衛が、声をかけてきた。

「 ナハミナト? 」
「 ええ。ウチナーで、一番の湊です 」

ウチナーというのは、琉球国の事。
漢字に直すと
沖縄
と書く。
琉球の人々は自分達の国を、
琉球
とは呼ばず、こう呼んでいた。

「 ウチナーのナハ・・・ですか 」
正兵衛は、日に焼けた顔をほころばせ、頷いた。
「 もっとも静壽さんをご案内するのは、那覇湊ではなく、少し離れたクニンダ ( 久米村 ) です。クニンダには私や父上の邸がありますので 」
「 そうですか。しかし・・・暑いですなぁ・・・ 」
静壽は、袴に手挟んでいた扇・・・鉄扇ではなく、扇面にせせらぎを泳ぐ鮎を描いた扇を開いて、しきりに扇いでいる。
額も、顔も、汗で光っていた。

「 ハハハ・・・仕方がありませんよ。ここウチナーは、堺より相当南。明国の広州辺りと同じくらいの位置にありますからね。それに、海に囲まれていますから湿気もずっととときついですし・・・。落ち着かれたら、このウチナー独自の衣をお贈りいたしましょう 」

正兵衛もまた、扇を動かしながら、そう言った。


船は、ゆっくりと港に入っていく。
やはり、琉球一の港というだけあって、船べりから見える港の様子は、堺の町に負けずとも劣らぬ賑わいを見せていた。
留めてある船は、やはり、地元である琉球の船が一番多いのだが、堺や博多辺りからやってきた交易船や、呂宋 ( ルソン ) 近辺の船もある。
中でも、大きな扇のような帆を立てた明国の船が多いのが目に付いた。


静壽は、鄭復享や正兵衛の案内で、船を降りる。
するとそこには、鄭復享の邸に使える使用人が幾人か、主人を迎えに来ていた。

復享は、出迎えの使用人に静壽を紹介する。
それを聞いた使用人の中から、頭らしい一人が進み出た。
頭の上から少し下がった位置に髪を結い上げ、その髪に真鍮製の簪を二本挿している。
着物は、復享や正兵衛が纏っている物と、ほぼ同じ形と色だが、丈だけは少し短くて、半分ふくらはぎが見えていた。
その人は、静壽に向かって人懐っこい笑みを浮かべると、
「 ○○×△ウチナー△□。 ようこそ、ウチナーへおいでになられました 」
と、琉球言葉と倭国の言葉で、歓迎の心を伝えた。

その後、復享と琉球の言葉で、少し話していたが、やがて大きく頷いて。
「 それでは、お荷物はこの者達が・・・。ご案内いたします 」
と、先にたって歩き始めた。


青空の下、道端に色とりどりの花が咲いている。
砂浜は眩しいほど白く・・・。
海は空の色をそのまま移したかのように、蒼く澄み渡っている。

頭に大きな荷物を乗せた女達が、静壽達一行とすれ違った。
驚いたことに、女達は、チャンオや被衣、布などで髪を覆い、顔を隠してはいない。
日に焼けた、健康的な顔を、そのまま日の下にさらしているのだ。
その上、纏っている物も復享の使用人と、そう変わらない、丈の短い着物だ。

「 静壽さん・・・ 」
しばし。
ぽかん・・・と、あきれたように女達の後姿を追っていた静壽に、正兵衛が話し掛けてきた。
「 正兵衛さま・・・ 」
「 どうなさったのですか? 」
「 いえ・・・。ただ、驚いているのです 」
「 驚く?? 」
「 女人があのように・・・顔を隠さず、髪も覆わず、歩いているなんて 」

それを聞いて、正兵衛は、ふふふ・・・と笑った。
「 朝鮮の御仁である静壽さんには、少し刺激が強すぎたみたいですね 」
「 正兵衛さま!! 」
「 それはそうと静壽さん。一つ、忠告しておきますが、しばらくの間、夜には出歩かない方がいいですよ 」

正兵衛は、急に真剣な表情になると、そう告げたのだ。


「 何故でございますか? 正兵衛さま 」
静壽が尋ねると、正兵衛は、近くの叢に目をやり、こう言った。

「 静壽さんはご存知ないかもしれませんが、ここウチナーの叢の中には、『 ハブ 』 と呼ばれる蛇が住んでいるんですよ 」
「 『 ハブ 』 ですか? 」
「 ええ。それも猛毒の・・・ね。その蛇に噛まれると、運がよくない限り助かりません 」
「 ・・・ 」
「 その蛇が、一番動くのが夜なのですよ。ですから・・・ 」
静壽は、背筋が冷たくなるのを感じつつ、よほどの事がない限り、夜に出歩くのはよそうと心に決めたのだった。


静壽が復享や正兵衛に案内されたのは、那覇から少し北に位置する海沿いの村、久米村 ( くめむら。沖縄言葉ではクニンダ ) だった。
別名を唐栄ともいう。
その名の通り、久米村は、明国系琉球人の村だった。

書物によると、この村の始まりは、明を興した洪武帝の時代に遡るという。
その頃、琉球を治めていた王様の一人が、明の皇帝・・・洪武帝に使いを差し向けて。
航海術者や船大工、外交文書の作成に当たる書記、通詞などを琉球国内に住まわせたいが、どうか民国から派遣してくれるようにと要請した。
明国の高官達は、それに快く応じて。
主に、福建省出身の人々を琉球に差し向け、喜んだ琉球国王がそれらの人々に土地を与えて住まわせたのが、この久米村なのだ。

その後、ある者は、久米村に移り住んだ親戚縁者を頼って。
また、ある者は、明国の海禁政策に反対し、倭寇となった挙句、この村のことを知って。
一人・・・また一人と、明国人の血を引く住人は増えていった。

だから、久米村の住人は、貿易商というより、琉球の交易担当の役人という性格を色濃く持っており、久米村自体が官人の村という役割を果たしている。
もっとも、明国人の子孫だという血筋は、逆に邪魔でもあり・・・。
どれほど人格が優れており、それがために役人になったとしても、久米村の出身者は親方 ( 琉球言葉では うぇーかた 。琉球の高官の一つ ) 止まりで。
三司官 ( さんしかん。さんしゅかん ともいう。琉球の政を司る三人の大臣。親方の中から任命される ) にはなれないのが、公然の決まりだった。


さて、静壽が復享の邸に、とりあえず落ち着いてから十日目。
正兵衛と、復享の計らいで、静壽は久米村の一軒の家に住まい、仕事場を構える事となった。


静壽が仕事場を構える事となった前日。
つまり、鄭復享の邸に留まるようになって、九日目の朝だった。
この九日の間に親しくなった復享の使用人から、半分筆談を交えた倭国の言葉で、よく使う簡単な琉球の言葉や風習などを教えてもらっていると、正兵衛が現れた。

正兵衛が軽く使用人に目配せをすると、静壽の前にいた使用人は、静壽に向かって深く頭を下げ、その場を離れた。
「 静壽さん、巴儀 ( ハギ ) から色々と教えてもらっているのですね 」
正兵衛は、にっこり笑いながらそう言った。
「 ええ・・・まぁ・・・ 」
静壽は、苦笑してそっと俯く。

「 ウチナーには、朝鮮や日の本の国とは違う風習が、結構ありますからね 」
正兵衛は、苦笑する静壽に、
『 いいんですよ。それくらい・・・ 』
と、いうような、優しい瞳を向けた後、
「 それより静壽さん。静壽さんの新たな住まいが決まりましたよ。それで、村長から使いが参りましてね。静壽さんに会いたいから連れてくるようにと・・・ 」
「 村長・・・ですか? 」
驚きの目を見張る静壽。
何故なら、村長のような身分の高い人物が、この村に来て日の浅い、いわばよそ者に会ってくれるとは思えなかったからだ。

「 大丈夫。そんなに硬くならないで下さい 」

正兵衛は、そう言うと、パンパンと両手を鳴らした。
その音に応じて、使用人が二人ばかり現れる。
現れた使用人の手には、一組の衣装が携えられていた。

「 村長にお目にかかるのですから、これに着替えてください 」

言われるまま、静壽は正兵衛の目前で・・・。
使用人の介添えの下、今まで纏っていた日の本の国の小袖袴を脱ぐ。
そして、使用人が携えてきた琉球の衣装を纏っていった。


それは、不思議な肌触りの布だった。
日の本の国でもよく見られた、茶色に染められた布は、麻でも木綿でも、日の本の国にいた頃、何度か纏った事がある葛の繊維を織り上げた葛布でもなく、しっとりとした不思議な肌触りだ。
その上、軽くて、汗ばんだ肌がすぅっと涼しくなっていくような、風どおりのよさがあった。

「 正兵衛さま、これは・・・ 」
「 芭蕉布 ( ばしょうふ ) です 」

帯を締めてもらいながら、尋ねる静壽に、正兵衛はそう教えてくれた。


村長の家は、久米村の中でも一番風の通りのよい場所にあった。
琉球の家の作りは、どれもそうなのだが、家の周囲を石垣で覆い、更に木立で囲むという、日の本の国にはない建物の作り方だ。
その上、赤い瓦は漆喰で固められている。
正兵衛の話では、ここ琉球は、夏になると頻繁に嵐がやってくる。
その嵐から家を守るため、また、暑い日ざしから、家の中を少しでも涼しくするため、このようなつくりになっているのだと。

静壽は、正兵衛に案内されるまま、門をくぐる。
と、驚いた事に、門の中には大きな壁が立ちふさがっているではないか。
「 静壽さん、驚かれたでしょう? 」
正兵衛が、そっと静壽の肩を叩いた。

「 これは、ヒンプン ( 屏風 ) というのですよ 」

振り向くと、正兵衛が笑っていた。


>>> 続く

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