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その日訪ねてきたのは植村と沼田だった。
夏休み中の日曜の午後3時。飯を食うにはやや早い時刻だが。
「カンシ」「キテ」「ギシ」なんのことやら分からない単語ですが、いろんな場面で
植村が発した新語です。読書会をやって確かアヘン戦争が話題になったときカンシが
悪かったと何度も彼が言うので、「なんだいそりゃ」と尋ねると「役人だよ」「?」
そのころMを先生に将棋の手ほどきを受けていたころ、ある一手を見て「キテだなあ」
なんだキテって、と聞くとあれは鬼手おにてっていうのかい、それをいうならキシュ。
彼なら棋士をギシと読んでもおかしくない。
彼が連れてきたのが同僚の沼田。福助に縁なしめがねをかけさせた顔。
この3人でホットプレート購入記念大焼肉大会を開催することになったのだ。
しかしこの食事会には別の隠された目的があった。
それはお隣にかかわっていた。東隣りも新婚だった。
越してきて、数ヶ月して、そのSさんの奥さんがものすごい美人だというのを知った。
美人というなら、別にOというそれこそ完璧な美女が友達にいたが、彼女は「わたしは
美人よ」というビームを常に発していて、ものすごく疲れる。本人も同様に自意識過剰気味だった。
背も高からず低からず、160ぐらいで、年齢は25歳ぐらい。色白でどちらかというとふくよか。と言ってデブではまったくない。
しかも時折琴の音が聞こえてくる。手練れの技である。
ふだんは薄化粧でショートパンツ姿で闊歩。
ある日煙草を買いに近くの店に行きかけると、前からカップルが。日傘をくるくる回しながら仲よさそうにやってくる。すれ違いざまニッコリ笑って彼女が会釈した。いやとても
ビックリ。こんな美人に知り合いはないはず。振り返るとアパートに向かっている。
Sさんかと気づいたのは1分後。まともに化粧すればとんでもない美人。
それでも実のところ、女はこりごりだというのが、僕の当時のおもいだった。
10年くらいはいらんなとも思っていた。すべてを学んだといのが実感だった。
遠くから眺めてなんときれいなんだろうと思っていればいい。手を伸べて折ろうとすれば
とげで血だらけになる。
なんどか遊びにきていたから植村も沼田も彼女のことは知っていた。
土曜と日曜の夕刻といってもまだ明るいうちに、恒例のようにS宅からは大音量の
ワーグナーが流れてきた。僕はアレが大嫌いだったので、うるさいなとだけ感じていた。
ところが音楽が始まるとしばらくして、「ギシ、ミシ」と変な音がする。それから
なんとも形容のしがたい女の悩ましい声が混じる。
ヒトラーはナチス国威発揚のためにワーグナーを巧みに利用したが、隣家では音隠しに
ワーグナーを重宝していたのだ。
土曜の午後職場から帰ると、ワーグナーが鳴り響いている。
ああ、今日も愛を確認しあっているんだなと珍しくもなくなっていた。
下品な話だが、二人がやってきたのは、食事よりそちらに期待していたのだ。
ところが4時になっても隣家の饗宴はその日は始まらなかった。
誘った僕もなんとなく申し訳ない気分だった。
「じゃ、片づけましょうか」とふたりは共同で後片付けを始めた。
すでに外は暗くなっていた。
三人は灰皿を囲んで、煙草を吸った。
「ごちそうになりました」
若い沼田はそう言うといきなり伸び上がって、蛍光灯を消した。
なにやってるんだと思うまもなく、一条の青い美しい火が5センチほど横に伸びた。
パンツを脱いだ尻丸出しの沼田がいた。
思わず僕らは拍手した。本当に美しい青い光だった。
「俺もやるぅ!」植村が言ったとき悪い予感がした。尻馬に乗りたがる男だ。
真っ暗ななかで、彼がパンツを脱ぐ音がした。
さきほどは無音だったが、かなり下品な音がしたかと思うと、ボッとオレンジ色の
不完全燃焼の美しからざる炎があがったそのとき
「アッチチチ」という植村の悲鳴が聞こえ、毛の焼ける変なにおいがした。
僕と沼田は首にかけたタオルで消火につとめた。
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「私は美人よ」ビーム(。_+)★━…………\_(`−´ )を出してみたいです♪
青とオレンジの炎の違いが結果を招いたのでしょうか?
もぅ男ってば……青春小説を読んでいるようです(*´ー`)
2010/1/3(日) 午前 11:58
美人は眺めているのがいいのです。
光線に当たって疲れます。
どっちかというと不美人じゃないなというくらいが
ちょうどいい。
2010/1/3(日) 午後 9:01