たぬぽんブログ〜敷島の大和心を人問はば朝日に匂ふ山桜花〜

身はたとひ 武蔵の野辺に朽ちぬとも 留め置かまし大和魂

▲書籍の話

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この本は、江戸末期〜明治初期にかけてかつての体制下で「公卿」「将軍」「大名」として生活をしていた一族が時代の変転、大政奉還・明治維新によって一転「華族」として生きる事になった人々が
「このまま死んでしまってはかつての自分達の生活を伝える術を失ってしまう。今のうちに残しておこう」
ということで当時のエピソードをおさめた書籍である。これは、昭和30年代の本であり、当然現在は絶版である。もちろん寄稿されている元華族の方々は全員鬼籍に入られている。・・・ということはもはや「残しておこう」という人々の意思は限定された範囲でしか生かされないことになる。何とも残念な事である。何とか再販されないものか。300ページ足らずの本ではあるが、これまで時代劇で描かれる公卿、将軍、大名の暮らしぶりとはまったく違うことがわかる。
是非お近くの図書館や古本屋さんで見かけられた際には手にとってもらいたい。
時代劇や大河ドラマに描かれる武士階級、特に将軍家や大名家の生活のイメージは栄耀栄華で煌びやかなキンキラキンすスチャラカチャーな生活のように思うが実はものすごく質素な生活をしていたらしい。そして質素ではあるかかなり硬直化した生活スタイルだったらしい。つまり人生の選択肢や自由度は皆無に等しい。
ある時生まれて、決められた儀式をして、決められた生き方をして、そして死んでいくまで同じことを毎日繰り返す。
かくいう私も一華族の一族の末裔であるので、世が世ならば同じような生活をしていたんだろうな・・・と思うと現代に生きていることが本当に有難やーーと思う次第である。そんなシステマティックな生活の中で華族たちが見出した日々の楽しみ、思い出がこの本の中には詰まっている。
その中でこんなエピソードがあったので簡単に紹介する。

例えば現代人、我々が、いや西洋人でもいい、どこの国の人でもいい。今日食べた夕飯が美味しかったら、どういう言葉を、どんな事を言うだろう。万国共通だろう。

「うまい!」

当たり前である。食べたものが美味しければ、それを率直に口に出すはずである。そしてもしも自分が望むなら

「もう一杯おくんだまなし」

と思うはずだ。
だが、当時の華族は違ったらしい。彼らはその時の料理が美味しかろうとまずかろうと何の反応もしなかった、いや、できなかったという。いやそもそも美味しかったかどうか、正直疑わしい。何故なら・・・
当時の公卿、将軍、大名は温かい料理が食べられなかったから。
毒見をしているうちに、あるいは料理場から長い長い廊下や通路を通って持ってくる為にどんなに温かい料理も冷め切ってしまうから。
そしてその料理はそもそも慎ましやかなもの。一汁一菜程度。
この本の中にはなかったが、こんなエピソードもある。
江戸城内のお昼時、詰め所に詰めている大名達が持ち寄った弁当を食べていると、中国地方の大藩毛利氏の持ち寄った弁当の中に「鮭の切り身」が入っていたという。するとそれを見つけた周囲の大名達は

「こりゃー珍しい。少し分けてもらえまへんか」

ということでみんなで分けて食べたという。なんとも涙ぐましい慎ましやかな生活ジャマイカ?
さて、話を戻そう。何故大名が「こりゃうめえ」という言葉が言えなかったのか、これはこの一言が大変な事態を引き起こしてしまうのである。
もしも大名が霜降りサーロインステーキを食したとする。

「こりゃーうまい!口の中でとろけるのぅ!天晴れじゃあ!」

と褒めたとする。するとどんなことになるか。

お殿様が褒めたということで気を利かせた周辺がサーロインステーキを来る日も来る日も大名の食卓に持ってくることになる。

さすがに美味しいとはいえ、そして好物だとしても脂身ばっかりの食事でさすがに飽き飽きしてしまう事だろう。自分で自分の首を絞めるからである。これが当時のシステムなので仕方がない。といえばそうなのであるが大名の一言で全てが変わってしまうのである。
じゃあ逆に海原雄山ばりに

「まずい!こんなものが食えるか!とっとと下げろ!」

と一喝したとする。するとどうなるか。
即座に台所担当者がすべての責任を負って腹を切ることになる。
お殿様を立腹させた罪ということらしい。一挙手一投足を側近達が見ている日常なのだ。実際のエピソードとしてはこんな話があった。
とある殿様が食事中にお膳の上にねずみのふんを発見したらしい。このままこのことを言えば、食膳担当の者が責任を追求され、重く罰せられることになる、さりとてこのままでもちょっと・・・。さて、どうしたものか。殿様は考えた。そこで・・・
その異物をぴっと横によけてそ知らぬ顔で食事をするが・・・・・・殿様の近くで怪しい光が輝く☆
さすがにお側役はその殿様の行動を見逃さなかった。食膳の担当者はその責任であわや切腹という事態になった。さすがにお殿様のとりなしで事なきを得たと言う。
で、殿様はその質素な食事を楽しめたのかというとこれまたそうでもないらしい。たとえば魚、普通我々は一方の面を食べ終えるとひっくり返して反対の面を食べる。というのが普通ではあるが、お殿様の食事の場合、食べられるのは一面だけ。はて、じゃあ反対側の面は誰が食べるのか?反対側の面を食べるのは・・・

お女中さん

どうだろう。これまでの常識が覆ってしまうような時代の証言である。今の時代劇や大河ドラマのイメージ操作に毒されているか、私自身驚いてしまった。そんな驚きの証言が数多く収録されている。激動の時代を生きた人々の言葉は重い。そう思った。
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