ここから本文です

lale

ひっそりFc2へ。こちらはしばらくこのまま放置し、いずれ削除させていただきます。

書庫全体表示

天花 ―司―

『花四景』について
をモチーフに、禁花(総二郎)桂花(あきら)天花(司)丹花(類)の順にオムニバス形式で話が進んでいく予定です。


天花…天から降る花の意。雪のこと。


NYの冬は早く深くそして重い。


「こりゃ、早くしねーと雪になるな。」

車の外を流れていく曇天と、窓に打ち付ける細い雨を眺めながら独り言ちた。
雨ならいい。
だが雪に変わり激しくなれば飛行機を飛ばせなくなる。
「おい、急げ。」
運転席にそれだけ告げ、ゆっくり目を閉じた。

(雨ならいい、か。そんな風に思えるようになるとはな。)

雨にいい思い出はない。
いつだって別れには雨がつきものだった。
そう――――。

忘れられない記憶がまざまざと蘇る。
忘れたくても忘れられない景色が頭を埋める。
ずぶぬれになって、俺を見つめるあの瞳。
あれが最初の”雨”だった。

(……牧野には血のような涙を流させてばかりいた。)



結局、4年の約束は果たせなかった。

突然の親父の死。
混乱を極める毎日。
圧し掛かる重責、重圧、重荷。
それでもなお足掻こうとする俺に、牧野は黙って寄り添ってくれていた。
限界を超えて尚、どうにもならない瞬間(とき)がくるまで。


あいつに苦しい決断をさせたのは俺だ。
今さら後悔してどうする。


ぎっと血が染み出るほど唇を噛み、何気なく時計を見る。
9時55分を指した時計の針に、胸ポケットから携帯を取り出した。

一度の操作で簡単に画面に呼び出される数字。
それはかつて自分だけが知り、自分だけが繋がっていたものとは、まるで異なる数字の羅列。
どうやっても覚えられない、否、覚える気になれないのは、その数字を認めれば自分が多勢の一人と認めてしまうような気がするからかもしれない。
まさに今、覚えているこのやるせない感情。
これをやり過ごす術を俺は知らない。
あの番号を捨てさせたのは、他ならぬ自分だというのに。
今もどこかで、失った番号がまだ取り戻せるんじゃないかと願う自分を捨てきれない。


ツーーツーーツーー

長い呼び出し音の後、ようやくいかにも呆れたような声が聞こえてきた。
懐かしい声。
懐かしい響き。
音になる前の微かな吐息ですら、まだこんなにも心を震わせる。

「おう、俺だ。……いいじゃねーかよ。おまえだって俺でわかっただろ。あー、わかったわかった。俺が悪かったよ。でもな。……いいからおとなしく話を聞けって。すぐ終わるから。」

ぎゃんぎゃん叫ぶ電話の向こうの声に少し眉をしかめながら。
けれど口元はいつの間にか大きく緩んでいることを、悔しいほどはっきり自覚していた。

「……誕生日おめでとう。ああ、それだけだよ。うるせえ。素直にありがとうっていえよ。こんな夜中に?仕方ないだろ。俺が、”牧野つくし”に最初におめでとうって言いたかったんだから。」


あの頃の俺はちっともわかってなかった。
なんの力もないくせに、ただ粋がって。強がって。
あいつの気持ちも立場も考えず、我儘を突き通そうとばかりしていた。
今は少し、大人になっただろうか。

いや、でも………

本当は、
何があってもあの手を離したくなかった。
ものわかりのいい大人になんかなりたくなかった。
そうすればきっと。
おそらくきっと。
こんな機械を通してでなく、お前におめでとうと言えていただろうに。

今も。
昔も。

未来も。
ずっと。




*




タラップを駆け上がる肩に雪片が次々と舞い落ちる。
あの日、この髪を、肩を、心を濡らした雨とは違い、触れるそばから姿を消していく雪片。
淡く儚いそれは、もう手の届かない想いを表しているようで。
美しすぎるその欠片に、ふっと苦笑し………。

俺は掌を大きく広げ、無造作にそれを払った。



いいか。
到着したらまっさきにお前のところへ行ってやる。

そしてこの俺様が、最高の笑顔でおめでとうと言ってやる。
誰もが惚れ惚れとするような、お前だって思わず赤面するような極上の笑顔で、だ。

でも間違えるなよ。
そのおめでとうはおめぇの誕生日に対するおめでとう、だ。

いいか。

間違っても別の祝い事のためじゃない。




もう一度空を見上げる。
くすんだ空から次々と落ちてくる雪片は、次第に大きく姿を変えていくようだった。
何とはなしに開いた掌にもひとひら。
舞い降りたソレは、掌上で瞬く間に水滴に変わる。
あの日の雨粒によく似た水滴に。

俺はそのまま拳をぎゅっと握り締めると、速足でジェットへ乗り込んだ。


“牧野つくし”に会いに行くために。



――――拳の中に水滴は、もうない。





fin

  • 顔アイコン

    >凪さま
    司くんはやっぱりどうしてもうまく書けなくて…最初の二人に比べてめっちゃ短くなっちゃった(笑)

    天花って綺麗な表現ですよね。
    これを書くときに、「花」を使った二文字熟語をいろいろ調べていて知ったのですが、ひと目で気に入っちゃいました♡

    残る1人……えっと、まだ1文字も書いてません(汗

    [ tar*sa_*6 ]

    2017/12/1(金) 午前 10:26

    返信する
  • 顔アイコン

    > 内緒のkoさま
    お返事が遅くなってしまいごめんなさい。
    素敵な、そしてとっても嬉しい感想をありがとうございました。
    私もko様同様、司とつくしの恋愛があって、それでも大人になって結ばれる類&つくしの姿をいつも思い描いています。
    続きには少々時間がかかりそうな状況ですが、がんばって書くのでまた遊びにいらしてくださいね^^

    [ tar*sa_*6 ]

    2018/2/1(木) 午後 3:46

    返信する

顔アイコン

顔アイコン・表示画像の選択

絵文字
×
  • オリジナル
  • SoftBank1
  • SoftBank2
  • SoftBank3
  • SoftBank4
  • docomo1
  • docomo2
  • au1
  • au2
  • au3
  • au4
  • 名前
  • パスワード
  • ブログ

開くトラックバック(0)

本文はここまでですこのページの先頭へ
みんなの更新記事