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lale

ひっそりFc2へ。こちらはしばらくこのまま放置し、いずれ削除させていただきます。

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T→R?


このところ忙しすぎて、書きかけのお話ばかりがたまっていきます…。


団子屋さんのいつものバイト。

今日は一人だったから後片付けに手間取って、ずるずる残っているうちに気がついたら外はすっかり暗くなっていた。
アパートまでの道のりは、この時間になると人通りが一気に減って1人で歩くのはちょっと怖い。
あーあ参ったな、なんて思いながら店を出たら。
「今日はずいぶん遅いね。」
って、聞き慣れた声がした。

「類。どうしたの?」
「散歩?」
「こんな時間に?」
「こんな時間に。」

「牧野に会えたら明日は大学に行くことにして、会えなかったら家で寝てようかなって思って。」
にこっと笑って、“試してたなんて言って。
類はよりかかっていたガードレールからすっと立ち上がった。

「なにそれ。」
「んー、牧野占い?」

面白そうにクスクス笑ってあたしを見下ろしたあと。
「牧野に会っちゃったってことは、明日は学校か。ちっ。」
わざとらしく肩を竦めてみせる。

「そんなの占いじゃないし。……っていうか、授業があるならちゃんと行かなきゃダメでしょっ!」
「あ、怒った。牧野に会ったから明日は朝から授業に出なきゃいけないし。そのうえ牧野に怒られて。あーあ、これじゃ踏んだり蹴ったりだな。」

そう言ってまたクスクス。

「ちょっとなにそれ、ひどくない?だいたいいくら成績優秀だからって……。」

説教めいた言葉を口にしかけて。

類の頬がほんのり赤いことに気が付いた。

深く考えずに慌てて手を伸ばし、その部分に触れる。
指先に触れた肌の、ずいぶんひんやりした感触。

「つめたっ!類、いつからここにいたの?」
「んー、ちょっと前?」
「ちょっと前?」
「うそっ。こんなに冷たいもの。」

あたしの手だって決してあったかいわけじゃないのに。
類の頬はもっとずっと冷たかった。

だから思わず………。

指先だけで触れていた手を目一杯広げて、類の頬を包みこんだ。
最初に触れた右手と。
それから伸ばした左手で。
思いきり類の頬を――――包みこんでいた。

「ほら、すごく冷たい。」

触れれば触れるほど、類の頬はホントに驚くほど冷たくて。
冷え切った場所全部を温めようと少しずつ位置を変えながら両手でぺたぺたと触れているうち……。

「……あ。」

とんでもなく間近にビー玉色みたいな瞳があることに今さら気づいた。
一瞬固まって。
それから慌てて手を引っ込めようとした、瞬間。


「牧野の手ってあったかいね。」

類の頬に触れていた手の甲が、そのまままるっと大きな手に包まれる。

「こうすると、ほっぺたも手のひらも同時に温まってオトク。」

引っ込めようとしていた手のひらは、なぜかしっかり押さえつけられていて動けない。
動かせ……ない。

「オトク?」
「そう。」

「あ、あの…さ。類……。」
「ん?」

戸惑って焦って、視線をうろうろと不自然にさまよわせているのに。
類はそのまま、ただにこにこと笑うばかりで。
なんて言ったらいいのか、言葉がなんにも出てこない。
手も……離せない。

「えっと……その………。」

心も視線も、心臓も。
どんどん、どんどん、どうしようもなく落ち着かなくなってくる。
そのくせ類の目から視線を外すことはできなくて。
吸い込まれそうなその色に、いつのまにか瞬きも忘れ見入っていた。

とんでもなく長くにも、ほんの一瞬にも思えるひととき――――。


「俺はずっとこうしていたいけど。」


不意に言われたそのひとことでハッと我に返る。
同時にドクンとひときわ強く打つ胸。

でも目の前の類の瞳はとても静かな色をしていて。
そのことが、聞こえた言葉はなんてことはない言葉のあやみたいなものだってことを示しているようで。

ああ、そうか。
そうだよね。

って頷かされた途端――――。


ぶるんと小さく体が震えた。


類もそれに気づいたんだろう。
一瞬ハッとした顔をして、ちょっと目を伏せて。

「でもずっとこうしてると牧野の体温をぜんぶ奪っちゃうね。ごめん。冷え切っちゃわないうちに家まで送るよ。」

そんなことを口にして、掴んだあたしの手を自分の頬からそっと外した。



どうしてだろう。
類の頬はとても冷たかったはずなのに。
触れれば触れるほど、この手の熱がどんどん奪われていくようだったのに。

離れた今のほうが、もっと寒く思える。



だから思わず――――――










続き……さてどうしましょう。

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禁花 ―総二郎―

『花四景』について
をモチーフに、禁花(総二郎)桂花(あきら)天花(司)丹花(類)の順にオムニバス形式で話が進んでいく予定です。


茶道の知識は皆無につき、ネットで調べた内容をもとに書いています。いろいろ間違っていたらごめんなさい。
禁花匂いが強い、忌花、路地花など茶席に飾ってはいけない花のこと。千家流では、秀吉と利休の逸話から朝顔も禁花のひとつとされている



「………うん、いい茶だ。」


そう口にした俺をまっすぐ見つめ返し、牧野がくしゃりと笑う。
少女のように無垢な笑みが床の間に飾った花に重なり、刹那、目を奪われる。
澄み切った空気と光と静寂を従え、凛と立つ路地の花の美しさ。

(隣の花は赤い、かよ。)

浮かぶ苦笑を噛みしめる俺をよそに、
「お師匠様。今までありがとうございました。」
牧野はすっと顔つきを戻し、丁寧に手をついて頭を下げた。

茶の腕もそうだが、所作もずいぶんきれいになった。
これならもうどこに出ても恥ずかしくないだろう。

「ああ。よくがんばったな。正直ここまで上達するとは思わなかった。」


鷹揚に頷き足を崩せば、ほっとしたように再び表情を崩す牧野。
稽古中きりりと締まっている顔つきが俺のひと言でふわりと和らぐ様に、心が僅かに揺さ振れる。
それが何なのかはわからない。
ただ、どこか不安定で危うさを秘めたそれは、燃えさしの燻りのようにじりじりとこの胸に焼き付き………その場所に小さいくせにひどく重いしこりを宿そうとしているようだった。




「そりゃ次期家元自ら教えてくれるんだもん。プレッシャーでがんばらないわけにいかなかったよ。」
「とするとあれか。おまえみたいながさつな女がここまでになれたのは、仕込んだ師匠が優秀で忍耐力に溢れていたおかげってわけだな。関わる人間次第でがさつもこれだけ変わる、って本でも書くか。」

フッと鼻で笑えば、牧野がぶぅーとふくれて口をとがらせる。

「ちょっと。がさつがさつって、その言い方はひどくない?」
「ひでぇのはお前の顔だ。いい年してそんなに口とんがらせるな。その顔、百年の恋も冷めるぞ。」
「ふんっ、西門さんに何言われたって平気だっつーの。だいたい百年も何も、そもそも冷めるものがないでしょうが。」

「そりゃお前みたいな色気より食い気の女。よっぽど奇特なヤツしか相手にしねえ。」
「どうぞご安心ください。充分間に合ってますからっ。」
「はいはい。そりゃあ、なによりなことで。」

わざと大きく呆れたポーズをとれば、牧野がふざけてパンチしようとする。

小気味いいやりとり。
投げれば返る言葉のキャッチボール。
この気楽さ、心地よさ、そして安心感。
それを心底楽しんでいる自分に今さらのように驚いた。

それは俺が牧野に「女」を感じていないから。
そして牧野が俺に「男」を感じていないからこそ成り立つ空気だ。

――――もしこいつが男だったら。

アイツら以上の親友になってたかもしれないと思いつつ、揺蕩う空気に身を任せる。
そうして俺はいつの間にかすっかり自分が牧野を己のテリトリー内に入れていたことを。
女と名のつく誰にも……サラにすら許したことのないソレを目の前の女には無意識に許していたことを、今さら思い知らされていた。



「ああ、そうだ。忘れるところだった。ほれ、これは餞別だ。」

帰り支度をしようと立ち上がりかけた牧野に声をかけ、懐から取り出した包みをぽんと放る。
投げられれば、受け取らないわけにいかない。
どんなに牧野が遠慮深いヤツでも。
だからわざと放った。

「え?何?これ。」

案の定、慌てて両手を皿にして受け止めた牧野。

「まあ、終了証書代わりみたいなもんだ。いっとくけど卒業証書じゃねーぞ。免許皆伝にはまだまだだからな。それでもお前の上達ぶりは認めてやる。その証として次期家元手ずからくれてやるんだ。黙って受け取れ。」

「え?でも……」
「気にすんな、ただの袖落し*だよ。食いしん坊で、もったながりやのおまえにはピッタリだろ。」

本当は帛紗でも誂えてやろうかと思ったが、さすがに嫁入り道具にするようなもんを俺がやるわけにいかねえ。
だったらせめて牧野が固辞せず受け取りそうなもんにしようと選んだのがそれだった。

「うわあ、キレイな色。これって………。」

牧野の目線が床の間に飾られた一輪花に向く。
その拍子にさらりと流れた黒髪の間から白い項が覗き、ぴくりと頬が引き攣れた。

「あの色といっしょだね。」
「ああ、そうだな。…………お前っぽいだろ。」


口にしてハッとする。
どうしてそう思ったのか。
なぜこの花を選んだのか。

まさか―――――
いや、そんなことあるはずがない。


一瞬過った考えを全力で振り払う。
そのくせ………。

「え?私っぽいって何が?」

まんまるに見開かれた瞳が今にも零れ落ちそうで、ついこの手で掬い取りたくなる。

「朝顔だよ。」

「えっ、あの朝顔と?ないない。そこいらの道端に咲いてる貧相な朝顔ならともかく、あれは別格じゃない?あたしはあんなにキレイでも艶やかでも、ましてや品よくもないよ。そんなの西門さんが一番わかってるでしょ。」
「そうか?昔のお前ならともかく今は………いや。」

言いかけた自分に戸惑い口ごもる。
それをどう捉えたのか、牧野はあはははと豪快に笑った。

「ほら、言葉につまった。まあ、がさつだって散々に言われたあとだから、フォロー交じりなんだろうけど、それでも嬉しいな。あんなキレイな朝顔をあたしっぽいって言ってもらえて。」

にっこりと笑うその顔に重なる花姿。
やっぱり似ている、と。
思う自分に息を呑む。

「………それと、ありがとう、これ。」


俺のことなど一顧だにせず、手にした袖落しを嬉しそうに見つめ牧野は口元を緩ませた。
伏せられた睫毛がちろちろと揺れる様が妙に目について離れない。
いや、違う。
そんなの気のせいだ。


「まあ、あれだ。たいしたもんじゃねえから気にするな。だから遠慮なく――――」
持ち歩いて使えよ、とさりげなく言おうとして一瞬詰まった言葉を牧野が拾う。
「大切に使わせてもらうね。今日まで西門さんが教えてくれたこと、西門さんとここで過ごした時間を忘れないようにお守りにする。」


その瞬間――――閉じられた茶室に妙に涼やかな清風が吹いた気がした。


「西門さん。本当に今までありがとう。茶の湯の面白さ、奥深さを教えてもらっただけでなく、作法や心構えや、そんなたくさんのことを西門さんには教えてもらって……ものすごく感謝してるんだ。

それに………こうして西門さんと向き合って過ごせたこと自体、代えがたいものだったなあって。こうして振り返るとつくづく思う。ときには怒られたりしたけど、へへっ。でもね。本当に楽しかったよ。」

面と向かってまともにそんなことを言われたところで。
素直に受け取れる俺じゃない。
牧野だってそんなことわかってるだろ?
わかってる……よな?

「おっ、つくしちゃん。そんなに俺をべた褒めするなんて、今さら俺に惚れちゃった?いいのかよ。さすがにまずいだろ。」
「ば、ばかっ。あたしがエロ門に惚れるわけがないでしょっ!そういう意味で言ったんじゃないっ。あくまでもここにいる西門さん、お茶のお師匠様に言ってるだけっ!」

ぷいとそっぽ向く頬が薄く朱に染まるのを見て、畳についていたこの手が思わずぴくりと動いた。
だが、その手が頬へと伸びる前に………。


「ああ、でも、最初に知ったのがお師匠様の顔だったら惚れちゃったかもね。」

向き直った牧野がそう言って俺を見た。
邪気のかけらもない、穏やかな、それでいて茶目っ気に溢れた瞳。
その頬はもう赤くない。
それが妙に…………いや、気のせいだ。もの足りない、だなんて。


「ばーか。俺を口説いてどうする。」
「だから口説いてなんかないってば。」
「そうか?だが師匠の俺なら惚れちゃうんだろ?」

ふざけた口調を繕って、再び伸ばした指先。
突いたふくれっつらの頬は、思いのほかやわらかくて。

「お、餅みてー。」
「ちょ、ちょっとやめてよ。」


―――――不思議といつまでもつついていたくなる。



*



「牧野?」

まるで計ったかのようににじり口が開き、類が顔をのぞかせた。
「そろそろ、時間。」
「あ、そうだった。西門さん、ごめんね。ばたばたしてて。」
「いや、引き留めて悪かったな。」

慌てて帰り支度を始める牧野を、目を細めて見つめる類。
そんな二人をぼんやりと眺める俺。
……と、気配を察したように類が目を上げた。
一度は俺に向いた視線がさりげなく床の間に流れると、綺麗な眉が僅かに歪む。

「そう言えば総二郎、最近女遊びはしなくなったんだってね。」
「さすがにそろそろやばいだろう?」
「やばい?いまさら?……総二郎の口からそんな言葉が出るなんて意外。」
「類、お前俺をいったいなんだと………「朝顔」」

どきりとした。
動揺を察したのか、俺を見る眸が細く眇められる。

「禁花じゃなかったの?」

(ああ、やっぱりこいつは気づいたか。)


「別に今日は、正式な茶会じゃねえからな。ま、そもそも俺はどこぞに遠慮するような人間じゃねえから禁花を飾ったっていいんだよ。」

「ふうん…………。」

底の見えない類の瞳に思わず目を逸らした。
なにがやましいわけでもない。
それなのに、なぜかひどく息苦しい。

そのとき――――。


「類、ごめんね。待たせて。すぐ片付けるから外で待ってて。」
「ん。」

部屋の隅から投げられた牧野のひとことで類の表情がふわりと和らいだ。
こいつがこんな顔をみせるのは、今も昔も牧野ひとりにだけだ。
ずっと慕ってきた静にすら、こんなにも人間らしい、しかも情感に満ちた顔をすることはなかった。
微笑を浮かべてもなお人形のようだった親友がこんなにも変わったことを。
俺は素直に嬉しいと思って、いる。

思わないわけが、ない。

……ない、んだ。


「そうだ、これ。西門さんにもらっちゃった。きれいでしょ?」
牧野が右手で袖落しを掲げる。
「あの朝顔と同じ色なの。」
えへへと笑う姿によかったねと応えると、類は再び俺に向き直った。


「花は咲き乱れているよりも一輪あればそれでよい、だっけ?茶道の美学って。」

独り言のように呟かれた言葉は、もちろん奥にいる牧野までは届かない。

「たしか、朝顔が禁花にされることになった逸話ってそんな話だったよね。庭の朝顔が見事だと聞いて訪れた秀吉に利休は、茶室に飾る1輪を残し、残りのすべてを切り落とすことでその美しさを際立たせて見せたとか。まあ、禁花になったのは利休の名を高めた花だけに後輩が安易に真似しないようにってことらしいけど……。」

類にしては言葉数が多い。

「ねえ………今日この茶室を飾ったのは本当に朝顔?それとも……」

その声にうっすらと混じる険は、決して気のせいじゃないだろう。
分かっていて、けれどそれを不遜な笑いで軽くいなす。

「ばかいうな。」
「………。」

それでもまだ俺から視線を離さない類に、つい俺のほうから視線を逸らす。
胸に残る、抜けない小骨のように不愉快な感触。


「おい牧野、さっさと支度しろ。類が待ちくたびれてるぞ。」


そのすべてを振り切るように、俺は高く声をあげた。



*



静まり返った茶室に一人残れば、下地窓の向こうから去っていく二人の声が流れ込む。

何を話しているのか。
やけに楽しげな牧野の声音。
それを追いかけるように響く類の笑い声。
次第に遠ざかっていく二つの響きは、どこか小さな鳥たちのさえずりに似て。
司のときとは違う、穏やかで安らかな掛け合いに安堵する。

同時に過る微かな侘しさ。
そうして二人の声が完全に消え去ったとき――――。


俺は痛烈な孤独を感じた。

ふぅと大きく息を飲み込み、ゆっくりと炉の前へ戻る。


――――独座観念。



浮かんだ言葉は、俺がついぞ知らなかった感情を示すものだった。
言葉は知っている。
俺がさんざん口にしてきた一期一会と対にされる言葉。
知らない茶人などいないだろう。

(今日の一期一会が再び帰らぬことを観念し、ひとり静かに独服する、か。)

そんな感情、これまでもこれからも知ることはないかと思っていたが………。

一期一会を合言葉にひと夜の恋を繰り返してきた俺に、その言葉が今更身に染みる。
だが、同時にふっと零れた自嘲の笑いは、決して嫌なものではなかった。


(まさかお前に教えられるとはな。)


牧野………。



釜を前にひとりごち、俺はゆっくり目を閉じた。






*「袖落し」は、茶事の際の残肴や菓子を袋懐紙や懐紙で包んだものや、使い終わった懐紙を入れる茶巾絞り型の袋を指します。
*「独座観念」とは、井伊直弼が『茶の湯一会集』の中で茶道の重要な精神として「一期一会」「余情残心」とともに記した言葉。茶会が終わって客が帰った後、亭主はただちに片付けを始めるのではなく、一人茶席に戻り、釜の前に座って、お客様は今頃はどこまで帰られただろうか等、思いを馳せながら<余情残心>、今日の茶会はふたたびかえらない<一期一会>ことを観念し、一人でお茶も点て頂く<独座観念>、このとき周囲は寂獏として打ち語らうものは釜の音のみ、という境地を説いたものだそうです。

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