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窓から身を乗り出したタチコマ
けんすい、それは鉄棒からぶらさがった状態で、腕の力だけで、身体をひっぱりあげること。
ある昼休み、タチコマの先輩の女子社員、ハルヒ姐さんから頼まれました。
「窓の外に、スカーフが飛んでひっかかったの。とって」
「窓の外って・・・・ここ8階ですよ?」
「だからたのんでんのよ。はやくしてよ、また風で飛んでいくわ」
タチコマ、まどのそとにひっかかったスカーフを発見。
「危な!!じぶんでやりゃぁいいじゃないですかぁ!!」
「こんな危ない事するわけないでしょう!?」
「その危ない真似ひとにたのんでんじゃないすか!!」
どうみても、手を伸ばしてとどくもんではありません。
よりによってなんてところに。
「なんでおれなんすか?」
「タチコマ、あんたけんすいとか得意そうじゃない」
見た目かよ・・・。
「とりあえず、ほうきの棒にガムテープくっつけてとります」
「あんまりべったりくっつけないでよね」
このひとにだけは・・・・頭上がんないわけがあるっす。
同僚の森田くんをよんで、腰のベルトをもってもらい、窓から身をのりだします。
「手をはなしたらぶっころすかんな」
「手をはなしたら、死ぬのはお前だ」
だれがうまいこと言えと・・・。
なんとか棒の先のガムテープにくっつけて、スカーフ回収。
やっぱ高い所はこわいっす。
牛とタチコマ
仕事で農家の御宅に行きました。
介護器具のメンテナンスを終えて、帰ろうとしたとき、
「牛が柵からでてるもんでよ」
とおばぁさんがいいました。
牛がのっそり、家の敷地内にいます。
上司がいいました。
「柵にもどすのを手伝っていこう」
・・・・え?
「な〜に力ずくでおしもどせるさ」
「力ずくって・・・牛ですよ?あれ」
「・・・・」
「嵐山、おまえは下がれ」
入社もうすぐ一年目の後輩、嵐山。
身長183センチ。
力ならもっともたよれるこの男、今回出番なし。
なぜなら、この日、彼のネクタイは赤だから。
牛が興奮してあばれたら嫌じゃん。
まぁ、あとになってかんがえたら、これを利用して、
柵に誘い込む手段もあったんやけどね。
上司、さっそく牛を呼びます。
「る〜〜るるるる♪る〜るるるる♪」
「・・・きつねとちがいますよ?」
「タチコマ、ちょっと角とかつかんでひっぱってこれんか?」
「かるく無茶いわないでください!!」
そうこうしているうちに、ネクタイを外した嵐山が参上。
「ぼくがおしもどします!!」
と牛に抱きつき方向転換、柵にもどします。
「あ!ばか!!そういうやりかたはやめろ!!」
と、タチコマは叫びました。
でも後の祭りでした。
別に牛に強引な方法をとった事を止めようとしたわけではありません。
牛と密着するのを避けたかったのです。
帰りの車の中。
「いやぁ、なんかステーキ食べたくなりましたね」
「・・・」
「・・・」
「どうしたんですか?」
「お前が牛臭いんだよ!!そして窓開けてるから寒いんだよ!!」
牛はとてもくさかったんです。だからなんとか誘導しようとしたんです。
真冬の街道を、窓を全開にした車の中は寒い、臭いの地獄でした。
ホームで転んだ少年とタチコマ
8年くらい前。
タチコマは電車で学校に行っていた頃がありました。
ある日、電車から降りた少年が駅のホームで勢いよくころびました。
走ろうとしてすべったのでしょう。
うずくまっていました。
出発で電車のドアがしまる直前、ひとりの男性が電車からおりていきました。
その少年のそばに向かうようでした。
それを発進した電車から、見えなくなるまでホームをみていました。
親切な人だと思いました。
タチコマは、その男性と知り合いではありませんが、彼が自分より先に降りるひとでは
ないのはしっていました。
たまに同じ電車に乗り合わせるので顔は知っていましたが。
タチコマはその事がずっと忘れられませんでした。
朝の電車は、東京では3〜8分間隔で走っています。
一本くらい乗り過ごしてもなんとかなります。
でも、子供にかけよったその男性をすばらしい人だと忘れませんでした。
そんな8年後のある日、駅のホームで子供が転びました。
タチコマはあの時の事を思い出し、電車を降りて子供に駆け寄りました。
次の瞬間、子供は何事もなかったかのように起き上がり、
ダッシュで駅の階段を上っていきました。
そして、電車の扉は閉まりました。
振り返ったタチコマが見たものは・・・・
哀れみのこもったほかの乗客の視線でした。
その目はこう語っていました。
(フライングだねぇ・・・・)
(親切な人なんだろうけどねぇ・・・)
(ま、次の電車、すぐくるから・・・)
様々な思惑の視線を受けてホームにたたずむタチコマ。
今月26歳になりました。
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