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彼には付き合っていた女性がいました。それを知ったのは最近の話。
彼女は彼が死んだ事を知らない。・・・と思う。
何も理由を言わず、「実家に帰るから、会う機会も減るし」と去っていたそうだ。
その本心が、
「僕はもう、彼女を幸せにすることができない」と書かれていた日記から知る。
一緒にいても、好きな人を置いていく、先に逝く。
大事な人にそんな惨い事をしたくはなかったと。彼は思っていた。
高い金を払って、手術を受けて、一年の時間が五年になった所で、意味は無いのだと彼は言う。
自分が普通の家庭を営む能力の無い事を惨めに思い、劣等感に苛まれていた事を知る、
努力することの無意味さを痛感し、ただ、残された時間を過ごして行く。
持って生まれた体のことを決して親にあたる事はなかった彼が、なぜそこまで自分を抑えている
事ができたのか、俺にはわからない。
彼には普通の・・・ただ平凡な幸せを・・・せめてひと時だけでも・・・と思う。
その事で泣いていると、彼女が慰めてくれる。
こんな些細な幸せすら、彼には得られなかったと思うとまた泣く。
彼女が問う。
「私があと一年位の時間しか残されていなかったら、別れた?」
答える事はなかったけど、最後までそばにいたと思う。
だから、彼の行動を否定したくなる時がある。
傍にいてほしいとなぜ言わなかったのか。それ以上に彼女を残す事に耐えられなかったのか。
他の男と幸せになることばかり考えて、被害妄想におちいっていたのだろうか。
思い出の彼は、何も語らず、やさしく微笑むだけ。
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