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その昔、ボクの趣味は、オートバイで山々をツーリングする事でした。
「少しメンバーを集めようか。」と言うことで、あるオートバイ雑誌のメンバー募集欄に投稿した。
しばらくすると、自宅に1本の電話がかかってきた。
それは、女性だった。
聞くところによると、彼女は隣の市に住んでいた。
話で話す彼女の声は、はつらつとして、明るい声の持ち主だった。
そして次の休みに、近所の喫茶店で会う約束を交わした。
次の日、行き着けのバイクショップで彼女の話をした。
メンバーは、男ばかりだったので、それはそれは大喜び。
それから、数日間は仕事もまともに手に付かない状態。
頭の中は彼女の事ばかり。
そして待ちに待った日曜日がやって来た。
さっそくメンバー2人と、ボクは連れ立って、隣の市まで約束の喫茶店に向かった。
車内は、彼女の話で大盛り上がりだ。
近年、男だけでこんなに盛り上がった事はまず無い。
時間通りやってきた彼女は、肩まで延びた長い黒髪で、背筋もピンと伸びた快活そうな女性だった。
ボクらはそんな彼女に緊張して、挨拶もシドロモドロ。
彼女は、オートバイの趣味の他にダンスもしていて、エアロビのインストラクターもしていると言う話だった。
「なるほど、姿勢が良いのはそのせいか。」と思うボクは、思いっきり猫背だ。
彼女はバックの中から、1冊のアルバムを「恥ずかしいのですけれども。」とボクらの前に差し出した。
「恥ずかしい写真」?そのフレーズに何度も通販でだまされた。
しかし、その「恥ずかしい写真」という言葉に、滅法弱いボクらは、どきどきしながらそのアルバムを彼女から受け取った。
それを隣に見ていた、くわえタバコの灰がボクの膝に!
「あちちちっ!」タバコの灰の熱さに負けて、ボクは、彼女の大事なアルバムを床に落としてしまった。
「大丈夫ですか!」自分の大事なアルバムを床に落としてしまったボクを攻める所か、逆に心配してくれた。
そしてあまりに近い距離で彼女お顔をみてしまったボクは思わず「森田健作似だなぁ。」と心にも無い事を思ってしまった。
しかし、そんなボクの心中を察する事無く、彼女はボクのボロいジーパンをパンパンしてくれた。
「やさしい女性だなぁ。」心が温かくなった。
そして、改めてアルバムを開いて見た。
そこには、森田健作とは、似ても似つかない眩しい笑顔で踊る、彼女のダンスシーンや、ツーリングの写真があった。
「どうもありがとう。」そういって彼女にアルバムを返すボク。
そのボクの手からアルバムを引き取るメンバーその1。
そのボクの手からアルバムを引き取るメンバーその2。
日頃は絶対に見せない笑顔で、三度「ありがとう!」と彼女に手渡す。
そして、最後に来週の日曜日にツーリングに行く約束をして、その日は彼女と別れた。
行くときはあんなに和気藹々としていた、男3人のひしめく車内は、敵意に満ち溢れていた。
それから、又も数日間は仕事もまともに手に付かない状態。
頭の中は彼女の事ばかり。
そして待ちに待った日曜日がやってきた。
>いつもより1時間早く起きてしまったボクは、約束の時間30分前に現地に到着。
>しかし、そこには、既婚者も含む男10人が勢揃い。<
そしてみんな貧乏なはずなのに、ウエアもヘルメットも新品ばかり。<
「お前ら全員お見合いかよ!」思わずツッコミ。<
いつもは、30分は遅刻するFくんも、きっちりやって来ている。
「まったく男と言うものは、女ひとりでもうも変わるのか・・・。」世の中の不思議と無常をまざまざと見せ付けられた瞬間であった。
しばらくすると、我らのシンデレラいや、彼女がバイクの排気音も上品に現れた。
そして、誰が彼女の後を走るかひとモンチャク。
ライダーは、何故か女性の後を走りたがる。
そしていつもの行き着けの山を走る事にした。
1つめの山の途中で、彼女が転んだ。
いつもは「バーカ!ヘタクソ!」と罵声を浴びせるメンバーも今日は全員別人のようだ。
殆ど全員が彼の元に走り寄る。
そんな事もあって、すったもんだで1つ目の山を越えた。
2つ目の山を越えたところで、お昼になった。いきつけのうどん屋でリッチにブランチ。
店内では、ムサイおじさんやおにいさんが、彼女の周りに蠅のように群がる。頼みもしないお冷を注いだり忙しい。
その後他の山に行くべく、オートバイを走り始めた。しばらく舗装路を走ることになったが、ある川沿いの直線路で悲劇は起こった。
ボクは、先頭から3台目を走っていたが、その目の前にフィに黒い影がやって来た。ボーッとオートバイを走らせていたが、寸での所で、影から身を交わし、慌ててハンドルを切った。
「黒い影」とは、1台の軽バンだった。
ボクの後を走っていたYは、軽バンに跳ね飛ばされ、すぐその後で凄まじい爆音が聞こえた!
振り返ると、道路に横たわる軽バンが視界の中に入った。
そしてその前には、グチャグチャになった、Yのオートバイが・・・。
そしてYの姿が無い!
Uターンして、現場に戻る。
「おった!」メンバーの一人が叫ぶ。
その声に先に、いってみるとYが田んぼの中に落ちていた。
意識はあるようで、体のどこかを強く打ったらしい。
うめきながら、身を捩じらせていた。
しかし、重篤だったのは、彼の左大腿部だ。
大腿部の肉が裂けて、パックリと口を開けていた。
そして、その口からは、白い大腿骨が見て取れた。
事故の話を聞いたか、見たか、近所の野次馬がゾロゾロと集まり出した。
「おい!救急車だ!」誰かが叫ぶ。
野次馬の一人が電話をしてくれた。
行きかう車内からは、事故を眺めるドライバー。
道路の真ん中に転がっている、軽バンのクラクションが鳴りっぱなしだ。
どうやら、事故の弾みで、運転手がハンドルにぶつかった為、クラクションが鳴りっぱなしになっているらしい。
Yの元にメンバーが集まるが、一人足りない。
「ん?誰だ?」
「そうだ、彼女だ!」
何気なく、クラクションが鳴りっぱなしになっている軽バンを見た。
そして、次の瞬間、背中に氷水を浴びせられたように、戦慄が走った。
軽バンの影から、彼女のブーツが見える。
軽バンは、先頭から4台目のYを跳ね飛ばし、5台目の彼女に正面衝突して、横転したらしかった。
「まさか!」一番最悪のシーンが脳裏をよぎった!
あわてて、彼女の元に駆け寄る。
その彼女の姿は、悲惨そのもの。
両手、両足が、ありえない方向に折れ曲がっている。
>腕も、足も、関節箇所を無視して、異様にひん曲がっている。
喉には、クルマのガラスが何箇所も突き刺さり、大量の血が流れている。
その悲惨な姿を見てしまった瞬間「うわっ!ダメだ!」と叫んでしまった。
しかし、次の瞬間、彼女の首が少し動いた。
ヘルメットの隙間から見える、口は何か言おうとしている。
「よかった!生きている!」
「彼女は、生きている!」
彼女は苦しそうに「ヘルメットを脱がして。」と言った。
ライダーは、みんなまず何故か「ヘルメットを脱がして。」という。
しかし、首の骨が折れているかもしれない。
素人が変な事をすると、後々重大な後遺症が残るかもしれない。<
彼女に「もうすぐ救急車が来るから、苦しいだろうけど、もう少し我慢して。」と伝えた。
程なくして救急車がやってきた。
救急車は、一番軽症に見える、軽バンの運転手を運んでいった。<
そしてYが運ばれ、最後に彼女が運ばれた。
救急車の隊員は「誰か、彼女に付き添ってください。」と言った。
メンバー全員が何故かボクを一勢に見つめる。
>視線に負けたボクは、救急車に乗り込んだ。<
>病院に着くまで、彼女に「頑張って!」「もうすぐだから」「しっかりして」と声をかけ続けた。
そして、喉に刺さっているガラスを1〜2個取ってあげた。
しかし、それを見ていた、救急隊員は「よけいな事しないで!」と激しくボクを怒った
思わず、身をすくめ「すいません。」と謝罪した。
病院に着くと、先に運ばれた軽バンの運転手と、Yが治療を受けているようだった。
治療室からは「うー!」とか「痛い!痛い!」と悲痛な声が聞こえてくる。<
彼女も治療室に運ばれて行った。
しばらくすると、事故の連絡を受けた、彼女のお母さんとお姉さんが到着した。
ボクは「とんでもない事をしてしまった。ボクが、ツーリングに誘わなければ、こんな事にならなかったろうに。」と激しい自己嫌悪に落ちいっていた。
はじめて彼女の家族に顔を会わすのに、こんな事になってしまって、本当に申し訳ない気持ちで、胸が張り裂けそうだった。
そして、意を決して、ことの始まりから事故に至るまでの経緯を、彼女のお母さんとお姉さんに話し、そして謝罪した。
黙って話を聞いてくれた、彼女のお母さんとお姉さんは、笑顔で「大丈夫ですいね。あの子には、いつも肝を冷やされてますから。今度もまたか。と言う感じですよ。それに、もう大きな大人ですから。」と意外にも笑顔で語ってくれた。
その笑顔を見て、少しは気持ちが落ち着いたが、彼女が事故をして、大きなケガをしてしまったのは事実だ。責任の一端はボクにもある。
どうすれば良いのか、やり場の無い気持ちがなんとも悔しかった。
しばらくすると、治療室のドアが「ガチャリ」と静かに開き、一台のタンカが運ばれてきた。
タンカの上には、真新しい白い布が掛けられている。
その布は、遠目で見ても、はっきりと「人間に掛けられている。」と判断出来た。
またもボクは最悪の事を考え、思わずその場に座り込んでしまった。<
一番重篤だった彼女の事を・・・。
そういえば、治療室に入ってからは、一度も彼女の声が聞こえなかった・・・。
座り込んだまま。彼女の彼女のお母さんとお姉さんの顔を見上げた。
2人とも、顔からは完全に血の気が失せていた。
目の前を黙って通り過ぎるタンカを追うように、彼女のお母さんが一歩動いた。
そして、またも治療室のドアが「ガチャリ」と開いた。
視線をそちらにやると、点滴を腕や足に刺したままの彼女が出てきた。
「おおー!よかったー!」待合室にいた一同が叫んだ。
最初に治療室から運ばれてきたタンカには、治療の甲斐もなく、死んでしまった軽バンの運転手が乗せていられたようだった。
タンカに乗せられたままの彼女の周りにみんなが集まる。
笑顔で答える彼女。
彼女のお母さんは、「良かった・・・。」と一言いって、涙を流した。
ボクは、その涙を見て再び「とんでもない事をしてしまった。」と後悔した。
彼女に付き添った医師によると、彼女は、右手尺骨、左手関節開放骨折、右大腿開放骨折、左足関節開放骨折と言う診断結果だった過去にボクも、左下腿の開放骨折をした事があったが、左足1本でもかなり不自由だった彼女の場合、両手両足だ。
次の日から、ボクは仕事を終えると、病院に行き彼女を見舞った。
他のメンバーも時々顔を見せてくれているようだった骨折の痛みは、それこそ本当に痛い様にわかっているので、彼女が少しでも痛みを忘れる事ができるようにいろんな話をした
彼女もうれしそうに、ボクの話を聞いてくれた.
約5ヶ月もの長い入院生活が続き、リハビリが始まる事になり、退院の日も決まった。
そして、退院の日から2年と数ヶ月後彼女は・・・・・。
ボクの生涯の伴侶となった。
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