|
2007年3月24日(土) 午後8:00〜8:40
真新しいトレーナーを体の上に掛けて、ほんの5分もしないうちに、○Tはもうそれをどかそうとしました。
「もう、いいの? そうか、気が済んだんだね」
私はそれを又元の所へ戻しました。
○Tは、まだ落ち着きなく、体を動かしていました。
その様子があまりにも変なので、私はナースステーションへ行きました。
すると、看護師さんが「座薬のモルヒネを用意しましょうか?」と言い出しました。
「へ? いや、苦しいんだか何だかはわからないんです・・・」と私が言うと、看護師さんは病室へ来てくれました。
「Tさ〜ん! 血圧測りますね〜」と声をかけると、○Tは腕を出しました。
座薬を入れると、一気に血圧が下がってしまうので、その前に確認をしなくてはいけなかったのだそうです。
「でも・・・血圧が下がってしまうって言う事は・・・」私は次の言葉が恐ろしくて聞けませんでした。
「もう、大部下がって来ていますね・・・一応先生に確認をして来ますから」
私は○Tに聞きました「痛いの? 苦しい?」
○Tはまだ「いや・・・」と言いました。
「座薬入れてもらう?」私が聞くと、「ううん、いらない」とほとんど無表情です。
そして、又「起こして」とか「前に出して」とか言い始めました。
顔には苦痛を感じている表情はありません。
ただ、とても辛そうには見えていました。
看護師さんが戻って来て、もう一度血圧を確認しました。
「とりあえず、座薬の用意をする様に先生から指示が出ています。 ただ、そうすると意識は下がってしまう事はありますけど・・・」
いやだ! 私は心の中で叫びました。
まだ○Tと話がしていたい!
まだ○Tは、こうして話をしているじゃない!
「苦しいのは止めてやって欲しい。 安らかな最期を・・・」なんて口では言ったくせに、私はいざとなったら、決心が付きませんでした。
第一、○Tが本当に苦しいのかどうかも、私には判断が出来ませんでした。
さっき聞いた時には○Tは座薬は嫌だと言いました。
どうしたら良い?
私はどうした良い?
貴方の命を私が決めて良い? 決めなきゃダメ??
楽になって欲しいけど・・・もう二度と貴方とは話せなくなるかもしれないなんて・・・そして、もう二度と貴方と会えなくなってしまうかもしれないなんて・・・それが”今”だなんて・・・
決心はつきません。
「ねえ、○T、どうする?」私はもう一度○Tに聞いてしまいました。
「座薬入れたら、楽になるらしいよ・・・入れてもらおうか?」
すると、○Tは横になったままなのに、この時ハッキリと言いました。
「要らない・・・オプソ飲む」
私が居ない間に、オプソを飲んだとMちゃんに聞いていました。
「○T・・・一時間経ってからじゃないと・・・まだ経ってないんじゃない?」
私がそう言うと、○Tは声を振り絞る様にして言いました。
「経ってる!」
私は又ナースステーションへ走りました。
すると、そこには今日はもう帰ったはずのA君が居ました。
「オプソ飲みたいって言っているんですけど・・・」
A君の後ろでは、ナースステーションの奥でさっきの看護師さんが「今、もうすぐ座薬の処方箋が出ますからね〜」と言う声がしています。
「前に飲んでからどれ位経ってますか?」
「・・・・1時間・・・弱・・・」
「1時間弱ですか〜・・・・・・・・・」
「・・・・・・」
「わかりました! 飲ませてあげて下さい」
私は病室に走って戻りました。
「○T、オプソ飲もう!」
○Tがそれを飲み、次に水を飲みたいと言うので、私はボトルを○Tの口に近づけました。
ところが、そのボトルの口を少しゆるめてあったのを忘れ、私は○Tの顔から肩にかけて水をこぼしてしまいました。
「あ、ごめんごめん!」動揺しまくった挙げ句に、こんな時に水をかけてしまうなんて・・・タオルはどこだ〜?!とキョロキョロした時でした。
○Tの履いているジャージの股にシミが出来ているのを見つけました。
「あ・・・やっちゃったね・・・ズボン取り替えようか、パンツも、先に」
私はMちゃんに声を掛けました。
「下だけ着替えさせちゃおう。 Mちゃん手伝って〜」
「OK!」
「じゃあ、私体持ってるから、脱がして」
「はいよ!」
こうして二人掛かりで、○Tの下を着替えさせている間、○Tも必死で起き上がっていてくれました。
けれども、すっかり重くなってしまった○Tのお尻の下に、なかなキチンとズボンが収まりません。
○Tは、服を着る時でもそう言う所がキチンとしないと、とても嫌がる質です。
パンツが下でたぐまっている事など、絶対に嫌なのです。
それを知っている私達は、なんとかそれをキチンをしようと格闘していました。
すると、その時です。
「ちゃっちゃとやれよ〜」
○TはモタモタするMちゃんと私に向かって言ったのです。
Mちゃんと私は顔を見合わせて「へ?」と言いながら、「ありゃ〜、言われちゃったね〜」と苦笑いでした。
何とか無事に着替えを終えた頃には、オプソが効いて来たのか、○Tはすっかり落ち着きました。
ベッドを倒す前に、一度だけ首をかく様な動作をしました。
「かゆくなった?」と私が聞いても、それには答えずに、○Tはすぐにかくのを止め、そのまま目を閉じると、眠ってしまいました。
「ああ、やっと落ち着いたね〜」
私達は、まだ残っていたお弁当を片付け、しばらく格闘の余韻を味わっていました。
「まったく〜、何が『ちゃっちゃとやれよ』だよね〜」
思い出して二人で苦笑いをしながら、健闘を讃え合いました。
「何だかYMちゃん、汗かいているみたい〜」と○Tの体に触ったMちゃんが不思議そうに言ったのは、この前後だったと思います。
私の父の最期に、体まではわかりませんでしたが、手の甲に汗の様な物をかいて、まるでお風呂につかりすぎた時の様になっていたのを思い出しました。
嫌な感じはしましたが、この時ですら、私達にはまだ明日があると思っていました。
オプソを飲んだのは午後8:40・・・そろそろDが来ても良い頃でした。
|
前に書いた方はTさんと同じ病気でした。
時々治療の為に入院されていましたが、入院中でもタクシーで私たちの活動の会議に顔を出して下さっていましたので、お元気そうに見えました。あるとき入院されて・・今度はちょっと長いかな〜、外出して来られないな〜と思っていたときに奥様から電話をいただいたのです。ですから、病院に行ったのは初めてだったんです。
どうしたいのか、どうして欲しいのかはわからないのですが、とにかくもぞもぞと転々としておられました。
今から思えばそれが「耐え難い辛さ」の表れだったのかもしれません。
2008/3/24(月) 午前 1:39
そうだったんですか。 あれがどう言う意味の物なのかはわからないけれど、やはり癌特有の物なのかもしれませんね。
2008/3/25(火) 午後 9:26 [ tat*ug3 ]