未婚の未亡人、泣いたり笑ったり

今は亡き同居人○Tと、未婚の未亡人の珍道中人生

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おNEWの青いトレーナー

2007年3月24日(土) 夕方〜午後8時頃

Mちゃんが来た時には、もう暗くなり始めていたと思います。

病室に入って来たMちゃんも、まだ私が仕事にいる時間のはずなのに病室にいた事を不思議に思ったみたいでした。
「何だか目を離せなくなっちゃってさ〜」と私が言うと、「そうなんだ〜」と言って、持って来た荷物を降ろしました。

「Mちゃんが来たら、交代しようと思ってて、電話しようと思ったら、携帯の電話わからなくて・・・」
「そうだったの〜。 電話くれたらもっと早く来たのに。」

「でさ、私これから一度家に帰って洗濯とかして来るよ。」
「うん、わかった。」

「夜中から明け方までずっと『起こして』とか『やっぱり寝る』とか、忙しかったんだよ〜。 もしかして、又そうなるかもしれないけど、慌てないでね。 それと、ここにトイレとオプソの時間書いてあるから・・・トイレはもう随分行ってないんだ・・・。」
私は、今朝の話をして、それからかゆい時に塗るオイルとか、お水とかの説明をして、病室を後にしました。

その間、○Tはほとんど起きなかったと思います。

私は家に帰ると、又家の中の○Tの気配を探しました。
まだある・・・私は確信していました。 まだ大丈夫。

洗濯を始め、自分のお泊まり用の支度をし、気分は「シャワーでも浴びちゃおうかな〜」と言った所でした。
「でも、今晩はMちゃんが居てくれるから、早めに帰って来て、ゆっくりお風呂に入れば良いや」

洗濯をしている間に、私は息子のDにメールを入れておきました。
確か、今日は病院に顔を出すと言っていたのですが、「来るなら早い方が良いかも」と出しました。
Dからの返事は「危ないんですか?」と言った様な内容だったと思います。

危ないと言われれば、危ないし、そうでもないかもしれないし・・・
結局は電話で話をしました。
「ちょっと様子がおかしいんだ」と言う様な事を私は言ったと思います。

洗濯を家の中に干して、私はコンビニでお弁当を買い、Mちゃんにメールを入れると、
「今、すやすや眠っています」と言う返事でした。

私は原チャリに、○Tの着替え、私のお泊まり道具、買ったお弁当を積んで病院に戻りました。


私が病室に入っても、○Tは眠ったままでした。
「じゃあ、お弁当食べようか〜」とMちゃんと二人でお弁当を広げて食べ始めてしばらくたった時でした。

私達の話す声に気づいたのか、○Tが目を覚ましました。
うるさかったのかな? 私はそんな風に思っていました。

「起こして〜」と言いながら、手を上げています。
Mちゃんと私は、お弁当を置いて、二人でベッドの脇に立ちました。

「せ〜の!」二人で○Tの腕を持って起こしました。

「いや、もうちょっと体を前にして・・・」
「ん? 前?」
「よいしょっ」

「足がぶつかってる・・・」
「あ、ほんと」

あの夜中と同じ様な事を繰り返しました。
そして、そんな事を延々と繰り返しているうちに、○Tの体はどんどん重くなって行きました。

もう腕を引っ張って起こす事は出来なくなり、二人で背中に腕を回し、しっかりと抱き起こさなくては起きられない程でした。

「あ、起きたついでだから、何か飲む? ゼリーはどう?」私が言うと、
「うん」と言って、開けた○Tの口にほんの少し入れました。

「お薬もあるんだけど・・・飲めるかな?」
ゼリー飲料をスプーン半分ほどをやっと飲み込んだ位の○Tが、錠剤を飲めるかどうか、心配でした。

「飲むよ」と○Tが言うので、それを舌の上に乗せると、Mちゃんがいつものボトルでお水を口に入れ、「ごっくんして」と声を掛けました。
「Mちゃん、ちゃんと飲んだか見てくれる?」と私が言うと、Mちゃんは○Tに
「YMちゃん、”あ〜ん”して」と又声を掛けました。

開けた口を覗き込むと、錠剤は舌の下に入っていただけで、飲み込まれてはいませんでした。

「出して! Mちゃん!」
Mちゃんも慌てて、口の中に手を突っ込んでそれを取り出しました。

ついに飲めなくなってしまった・・・・・

もうこのころの○Tの意識がどうだったのか、まるでわからないのですが、少し落ち着いた所で、○Tは言いました。

「もう一枚着ようかな〜?」
○Tはいつもの長袖のTシャツとジャージを履いていました。
病室はかなり暖房が効いていたのと、このころの○Tは横になっていても布団ははいでしまっていました。

「寒いの?」と私が聞くと、「ううん、別に寒くはないんだけど・・・」○Tの視線が洋服を掛けてある棚に動きました。
そこには、まだ○Tが着ていない、新しい春用のZIPUPのトレーナーが掛けてありました。
入院の朝、私が恩着せがましく「私が買って来た奴ね〜」と言っていた物です。

「そうか! ○T、あれを着たいんだね! 新しい奴ね!」
私がそう言うと、○Tはこっくりと頷きました。

ところがそれを羽織らせようとしても、もう○Tの腕は動きませんでした。
仕方なく、Mちゃんと私は、それをそのまま○Tの体の上に掛けました。

「似合うよ! ○T! そのブルーね、似合うと思って買ったんだよ〜」と私が言うとMちゃんも
「あ〜ら! お似合い!」と声を掛けました。

昔だったら、あまり似合わなかった青い色、とっても良く似合ってるよ。
それは春用だから、これから又それを着て、お花見もしようね。

病院の下の、桜で有名なM川の川岸には、もうお花見用の提灯がぶる下がっているって、昨日ZIちゃんが言ってたよ。
この病室からは、背伸びしないと見えないけど、きっときれいだよ。


午後8時過ぎ頃、○Tはまだ私達と話をしてくれていました。

Mちゃんとお泊まりか〜

2007年3月24日(土) 朝〜夕方

朝ご飯が運ばれて来る前に、看護師さんが様子を見にやって来ました。
「Tさ〜ん! おはようございます!」と声を掛けると、○Tは目を開けて、挨拶をしていました。

酸素濃度を計ると、看護師さんはその数字を○Tの耳元で、大きな声で言いました。
「酸素、95ありますよ〜、Tさん、大丈夫ですからね〜」

○Tは又安心した様に目を閉じました。

酸素濃度が下がってはいない・・・そう○Tに教える事で、○Tが安心する事を看護師さん達は知っていました。

9:45 ○Tは、この日2度目のトイレに行きました。
この時は、夜中ほど大変な思いをしなかった様に思います。

夜中とは違って、意識もかなりハッキリしていました。

○Tのベッドの隣にピッタリとくっつけた様な私のベッドを見て、「そこで寝てたの?」と○Tが聞くので、「そうだよ。 助かったでしょ?」と私はニヤニヤして言いました。

「それでね、今晩はMちゃんがお泊まりするって言ってたよ。 昨夜決めたの♪」と私が続けると、○Tはベッドに戻りながら、
「ふ〜ん・・・Mちゃんか〜・・・何年振りだろうな〜・・・一緒に泊まるなんて〜」とちょっと嬉しそうでした。

「あのババアの葬式以来かな〜」
(Mちゃんのお父さんの後妻さんの事で、大部前に書きましたが、一悶着あった人です)

「そうだね、きっと。 久しぶりだね、嬉しいね〜、○T〜」と私にからかわれて、
「え、別に〜」と、ふて腐れてみせました。

相変わらず食事は取れませでしたが、ゼリー飲料のお気に入りの味の物を少し口にしました。

夜中に比べると随分落ち着いた感じがしたので、私は「ねえ、仕事行っていいかな?」と聞いてみました。

「うん、良いよ」

けれでも、どう見ても、こうやって話していても、す〜っと目を閉じてしまう○Tは、前の日とは様子が違います。

私は時計を見ながら考えました。
もう少し様子を見てからにしよう・・・一度家に戻るのは諦めて、ぎりぎりまで居てから直接店に行こう・・・・

私は眠っている○Tの隣のベッドに腰を下ろし、ずっと○Tの姿をみつめていました。

「おはようございま〜す」と看護師のA君が入って来ました。

「昨夜は泊まったんですか?」
「うん」

「そうですか・・・今日はお仕事行かれます?」
「さっき『行っても良いよ』って言ってたから、もう少ししたら行こうかなと思って・・・」

「そうですか、わかりました。 じゃあ、行かれる時には声を掛けて言って下さいね。」
「はい、わかりました。」

点滴を持って来てくれたA君が、「お薬飲み辛くなっているみたいだから、ここに今迄飲んでもらっていたお薬は全部入っていますからね」と説明をしてくれたのがこの時だったか、前の晩だったか確かではありません。
「それから、オキシコンチンだけは、出来るだけ最後まで口から飲んでもらった方が良いので、それだけは入れてありませんから。」

この説明をされても、この時の私にはピンと来ませんでした。
あの小さな錠剤を飲めない事があるなんて・・・と思っていました。

それにしても、○Tは良く眠り込んでいます。

私は席を立てません・・・それは”今”逝ってしまうのではないか?と言う不安ではなくて、○Tが目を覚ました時に誰もいなかったら不安になるのではないか?と思ったからです。
目を覚ました時に、そばに誰かいてくれたら、きっと○Tはそれだけで安心をするだろうと思いました。

誰か来ないかな〜? そう言えば、Mちゃんは何時頃来るんだろう?

私の出勤時間はとっくに過ぎてしまいました。

私は雇い主に電話を入れました。
「一人にしておけないので、交代が来たら店に行きます。」と伝えると、
「うんうん、そうしなさい。 大丈夫だから。」と言ってくれました。

次の日には、店に荷物が届く予定になっていると雇い主が言うので、
「今晩はMちゃんが泊まる予定なんで、明日には店に出ますから、大丈夫ですよ」と私は言いました。
「そうなの。 でも、無理しなくて良いからね。 居られるだけ居て良いからね。」

自分の息子とご主人をあっと言う間に亡くし、その時に仕事を優先させていた自分の後悔を私にはさせるまい・・・と言う彼女の強い気持ちが私には本当に有り難かったです。
その彼女の気持ちが私を強くさせ、ここまで来ました。


お兄さんのKIさんと姪のCちゃんがお見舞いに来てくれたのが何時だったかは覚えていないのですが、二人が病室に入って来ても、○Tは目を覚ましませんでした。

二人は、いつもなら私が仕事に行っているはずの時間に病室に居る事に驚いていましたが、片付けもしていない私のベッドを見て、様子を察したのでしょう。

「○T〜! お兄さんとCちゃんが来てくれたよ〜!!」
私は○Tを起こそうとやっきになりましたが、KIさんは
「いいよ、いいよ。 無理して起こさなくて・・・寝てるんだから、気にしないで」と気遣ってくれました。

私はCちゃんに「足でも揉んであげてよ〜」と言い、Cちゃんは揉んでくれました。
「あ、じゃあさ、目を覚まさないから、証拠写真撮っておこうか。」
Cちゃんはベッドの脇で○Tの手を取ってポーズをつけていました。
写真には、その後ろで心配そうに覗き込むKIさんが写っています。

二人が来た前後に、看護師さんが○Tの様子を見にベッドの脇にしゃがみ込んだ時、○Tはその気配で、自分の指を差し出しました。
それは、酸素濃度を計る為の動作です。

ほとんど意識のないままでも、○Tは自分の酸素濃度を気にしていました。
看護師さんは血圧を測ろうとしていたのですが、その○Tの動作に気づいて、すぐにオキシメーターでその指をはさみ、「96ありますよ〜 大丈夫ですよ〜」と声を掛けてくれました。

○Tはまだ頑張っています。
自分の意思で生きています。


私は看護師さん達が測る以外に、私達のMYオキシメーターで、何度も○Tの酸素濃度を見ていました。
ところが、オキシメーターは、指先が冷たいと測定が出来ません。
私は、○Tの指をこすって温めながら、何度も測ってみました。

酸素濃度はそれほど下がってはいないのですが、脈が今迄よりも、落ちて来ています。
脈拍を知らせる「ピッピッ」と言う音が、10回ほど鳴っては、お休みが入ります。

「壊れてるのかな?」私は自分の指を挟みますが、ちゃんと規則正しくピッピッピと鳴ります。

○Tの手の指だけでなく、足でも測ってみます。
ここでも、同じでした。

A君が何度目かに病室に来た時に私は思い切って聞いてみました。
「あのね・・・このピッピッって言う音が途切れるの・・・脈の数も何だかおかしいの・・・」
A君は「ああ、この脈の数はあまり当てにならないんですよ。」と言うので、私は少し安心しました。
「でもですね・・・あの・・・このピッピッって言う音は、合ってると思いますよ。」

「え・・・10回に1回位はお休みしちゃうんだけど・・・」
「そうですか・・・」
A君は返事に困りながら、病室を出て行きました。

これが何を意味するのか・・・わかっていても、A君にしてもハッキリとは口に出せなかったでしょう。
「あとどれ位・・・?」そんな事は誰にもわかりませんでした。


午後3:00
○Tは目を覚まして、オプソを飲みました。

私が「仕事に行くよ」と言った事など、すっかり忘れていた様で、私がいる事が当たり前の様な態度でした。
恐らく、○Tにはもう時間の観念はなくなっていたのでしょう。
今日が何日なのか、今が何時なのか・・・・・・

それは私も同じでした。
そんな事は何だかどうでも良い事の様な気がしていました。

○Tが生きている。
そのそばに私がいる。

それがこの時の全てでした。

こんな風な時間を持たせてくれた私の雇い主に、私は感謝しています。

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