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冬に実だけを残して墨絵の様なシルエットを見せてくれていたサルスベリは、夏が終わろうとしている今、ピンクのフリルの花びらをこれみよがしに広げて見せている。
植物に大して興味のなかった○Tが、サルスベリの名前を知ったのは、多分最後に一緒に海に行く時だったと思う。
家のそばには、サルスベリではなくて、キョウチクトウが沢山あった。
あちこちの家の庭の塀から乗り出す様に、キョウチクトウは咲いていた。
あんまり沢山咲いているので、○Tは運転しながら私に聞いた。
「あれ、何?」
「あれは、キョウチクトウ」
その名前が面白かったのか、○Tは
「キョーチクトー? コンチクショー? キョー・チク・ショー?・・・ふ〜ん・・・キョーチクトー、きょ〜ちく・トウ」と何度も口の中で、その言葉を転がした。
そして、又他のキョウチクトウを見ると、
「あれも? キョーチクトー?」
白いのを見ては、「白もあるの? キョーチクトー?」
子供が新しい言葉を覚える時に、何度も何度も繰り返して口に出す様にするのは、○Tが新しい言葉を覚える時のくせだった。
「又、新しい言葉を覚えたね」と私が笑いながら言っていると、次にサルスベリの花が目に入った。
「ねえ、あれも?」
「え・・・あれは違うじゃない・・・花が違うよ・・・」
本当は植物に興味がない事は、私にはバレバレなんですけど・・・
でも、○Tは、畳み込んで聞いて来た。
「じゃあ、何? あれ?」
「サルスベリって言うんだよ。」
「へええ〜〜・・・猿が滑るんだ〜」
○Tの頭の中には、多分猿があの木を滑り台の様に滑って来る図が浮かんでいたに違いない。
「そうだよ、木の幹がツルツルしてるでしょ? だから、猿も滑って登れないらしいよ。」
「そうなんだ〜」
「いや、本当に登れないかどうかは知らないけど・・・」
ちゃんと断りを入れておかないと、そのまま信じてしまいそうな○Tだった。
偉そうに○Tに教えても、実は私もこのサルスベリに実がなる事など、この前の冬、あのシルエットになった木を見るまで知らなかった。
そして、夏が終わる前、まだ花が咲いているうちにさっさと実をつけ始める事も。
あの時は、海から帰って来ても、街路樹のキョウチクトウを見て、ちゃんと「これはキョウチクトウだよね?」と私に確認していた位だから、きっと○Tは、キョウチクトウは覚えて天国に行っただろうけど、サルスベリは覚え切ったかどうか、私にははなはだ疑問です。
これが、サルスベリだよ。
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