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2007年3月24日(土) 朝〜夕方
朝ご飯が運ばれて来る前に、看護師さんが様子を見にやって来ました。
「Tさ〜ん! おはようございます!」と声を掛けると、○Tは目を開けて、挨拶をしていました。
酸素濃度を計ると、看護師さんはその数字を○Tの耳元で、大きな声で言いました。
「酸素、95ありますよ〜、Tさん、大丈夫ですからね〜」
○Tは又安心した様に目を閉じました。
酸素濃度が下がってはいない・・・そう○Tに教える事で、○Tが安心する事を看護師さん達は知っていました。
9:45 ○Tは、この日2度目のトイレに行きました。
この時は、夜中ほど大変な思いをしなかった様に思います。
夜中とは違って、意識もかなりハッキリしていました。
○Tのベッドの隣にピッタリとくっつけた様な私のベッドを見て、「そこで寝てたの?」と○Tが聞くので、「そうだよ。 助かったでしょ?」と私はニヤニヤして言いました。
「それでね、今晩はMちゃんがお泊まりするって言ってたよ。 昨夜決めたの♪」と私が続けると、○Tはベッドに戻りながら、
「ふ〜ん・・・Mちゃんか〜・・・何年振りだろうな〜・・・一緒に泊まるなんて〜」とちょっと嬉しそうでした。
「あのババアの葬式以来かな〜」
(Mちゃんのお父さんの後妻さんの事で、大部前に書きましたが、一悶着あった人です)
「そうだね、きっと。 久しぶりだね、嬉しいね〜、○T〜」と私にからかわれて、
「え、別に〜」と、ふて腐れてみせました。
相変わらず食事は取れませでしたが、ゼリー飲料のお気に入りの味の物を少し口にしました。
夜中に比べると随分落ち着いた感じがしたので、私は「ねえ、仕事行っていいかな?」と聞いてみました。
「うん、良いよ」
けれでも、どう見ても、こうやって話していても、す〜っと目を閉じてしまう○Tは、前の日とは様子が違います。
私は時計を見ながら考えました。
もう少し様子を見てからにしよう・・・一度家に戻るのは諦めて、ぎりぎりまで居てから直接店に行こう・・・・
私は眠っている○Tの隣のベッドに腰を下ろし、ずっと○Tの姿をみつめていました。
「おはようございま〜す」と看護師のA君が入って来ました。
「昨夜は泊まったんですか?」
「うん」
「そうですか・・・今日はお仕事行かれます?」
「さっき『行っても良いよ』って言ってたから、もう少ししたら行こうかなと思って・・・」
「そうですか、わかりました。 じゃあ、行かれる時には声を掛けて言って下さいね。」
「はい、わかりました。」
点滴を持って来てくれたA君が、「お薬飲み辛くなっているみたいだから、ここに今迄飲んでもらっていたお薬は全部入っていますからね」と説明をしてくれたのがこの時だったか、前の晩だったか確かではありません。
「それから、オキシコンチンだけは、出来るだけ最後まで口から飲んでもらった方が良いので、それだけは入れてありませんから。」
この説明をされても、この時の私にはピンと来ませんでした。
あの小さな錠剤を飲めない事があるなんて・・・と思っていました。
それにしても、○Tは良く眠り込んでいます。
私は席を立てません・・・それは”今”逝ってしまうのではないか?と言う不安ではなくて、○Tが目を覚ました時に誰もいなかったら不安になるのではないか?と思ったからです。
目を覚ました時に、そばに誰かいてくれたら、きっと○Tはそれだけで安心をするだろうと思いました。
誰か来ないかな〜? そう言えば、Mちゃんは何時頃来るんだろう?
私の出勤時間はとっくに過ぎてしまいました。
私は雇い主に電話を入れました。
「一人にしておけないので、交代が来たら店に行きます。」と伝えると、
「うんうん、そうしなさい。 大丈夫だから。」と言ってくれました。
次の日には、店に荷物が届く予定になっていると雇い主が言うので、
「今晩はMちゃんが泊まる予定なんで、明日には店に出ますから、大丈夫ですよ」と私は言いました。
「そうなの。 でも、無理しなくて良いからね。 居られるだけ居て良いからね。」
自分の息子とご主人をあっと言う間に亡くし、その時に仕事を優先させていた自分の後悔を私にはさせるまい・・・と言う彼女の強い気持ちが私には本当に有り難かったです。
その彼女の気持ちが私を強くさせ、ここまで来ました。
お兄さんのKIさんと姪のCちゃんがお見舞いに来てくれたのが何時だったかは覚えていないのですが、二人が病室に入って来ても、○Tは目を覚ましませんでした。
二人は、いつもなら私が仕事に行っているはずの時間に病室に居る事に驚いていましたが、片付けもしていない私のベッドを見て、様子を察したのでしょう。
「○T〜! お兄さんとCちゃんが来てくれたよ〜!!」
私は○Tを起こそうとやっきになりましたが、KIさんは
「いいよ、いいよ。 無理して起こさなくて・・・寝てるんだから、気にしないで」と気遣ってくれました。
私はCちゃんに「足でも揉んであげてよ〜」と言い、Cちゃんは揉んでくれました。
「あ、じゃあさ、目を覚まさないから、証拠写真撮っておこうか。」
Cちゃんはベッドの脇で○Tの手を取ってポーズをつけていました。
写真には、その後ろで心配そうに覗き込むKIさんが写っています。
二人が来た前後に、看護師さんが○Tの様子を見にベッドの脇にしゃがみ込んだ時、○Tはその気配で、自分の指を差し出しました。
それは、酸素濃度を計る為の動作です。
ほとんど意識のないままでも、○Tは自分の酸素濃度を気にしていました。
看護師さんは血圧を測ろうとしていたのですが、その○Tの動作に気づいて、すぐにオキシメーターでその指をはさみ、「96ありますよ〜 大丈夫ですよ〜」と声を掛けてくれました。
○Tはまだ頑張っています。
自分の意思で生きています。
私は看護師さん達が測る以外に、私達のMYオキシメーターで、何度も○Tの酸素濃度を見ていました。
ところが、オキシメーターは、指先が冷たいと測定が出来ません。
私は、○Tの指をこすって温めながら、何度も測ってみました。
酸素濃度はそれほど下がってはいないのですが、脈が今迄よりも、落ちて来ています。
脈拍を知らせる「ピッピッ」と言う音が、10回ほど鳴っては、お休みが入ります。
「壊れてるのかな?」私は自分の指を挟みますが、ちゃんと規則正しくピッピッピと鳴ります。
○Tの手の指だけでなく、足でも測ってみます。
ここでも、同じでした。
A君が何度目かに病室に来た時に私は思い切って聞いてみました。
「あのね・・・このピッピッって言う音が途切れるの・・・脈の数も何だかおかしいの・・・」
A君は「ああ、この脈の数はあまり当てにならないんですよ。」と言うので、私は少し安心しました。
「でもですね・・・あの・・・このピッピッって言う音は、合ってると思いますよ。」
「え・・・10回に1回位はお休みしちゃうんだけど・・・」
「そうですか・・・」
A君は返事に困りながら、病室を出て行きました。
これが何を意味するのか・・・わかっていても、A君にしてもハッキリとは口に出せなかったでしょう。
「あとどれ位・・・?」そんな事は誰にもわかりませんでした。
午後3:00
○Tは目を覚まして、オプソを飲みました。
私が「仕事に行くよ」と言った事など、すっかり忘れていた様で、私がいる事が当たり前の様な態度でした。
恐らく、○Tにはもう時間の観念はなくなっていたのでしょう。
今日が何日なのか、今が何時なのか・・・・・・
それは私も同じでした。
そんな事は何だかどうでも良い事の様な気がしていました。
○Tが生きている。
そのそばに私がいる。
それがこの時の全てでした。
こんな風な時間を持たせてくれた私の雇い主に、私は感謝しています。
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