未婚の未亡人、泣いたり笑ったり

今は亡き同居人○Tと、未婚の未亡人の珍道中人生

闘病記ー今日も絶好調!

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2006年11月6日(月)〜2007年3月24日(土)
同居人○Tの全てを賭けた、最初で最後の闘病記を、未婚の未亡人の私がつづります。
ぷぷっと笑って、でも時には大まじめな彼の闘病記です。
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Mちゃんとお泊まりか〜

2007年3月24日(土) 朝〜夕方

朝ご飯が運ばれて来る前に、看護師さんが様子を見にやって来ました。
「Tさ〜ん! おはようございます!」と声を掛けると、○Tは目を開けて、挨拶をしていました。

酸素濃度を計ると、看護師さんはその数字を○Tの耳元で、大きな声で言いました。
「酸素、95ありますよ〜、Tさん、大丈夫ですからね〜」

○Tは又安心した様に目を閉じました。

酸素濃度が下がってはいない・・・そう○Tに教える事で、○Tが安心する事を看護師さん達は知っていました。

9:45 ○Tは、この日2度目のトイレに行きました。
この時は、夜中ほど大変な思いをしなかった様に思います。

夜中とは違って、意識もかなりハッキリしていました。

○Tのベッドの隣にピッタリとくっつけた様な私のベッドを見て、「そこで寝てたの?」と○Tが聞くので、「そうだよ。 助かったでしょ?」と私はニヤニヤして言いました。

「それでね、今晩はMちゃんがお泊まりするって言ってたよ。 昨夜決めたの♪」と私が続けると、○Tはベッドに戻りながら、
「ふ〜ん・・・Mちゃんか〜・・・何年振りだろうな〜・・・一緒に泊まるなんて〜」とちょっと嬉しそうでした。

「あのババアの葬式以来かな〜」
(Mちゃんのお父さんの後妻さんの事で、大部前に書きましたが、一悶着あった人です)

「そうだね、きっと。 久しぶりだね、嬉しいね〜、○T〜」と私にからかわれて、
「え、別に〜」と、ふて腐れてみせました。

相変わらず食事は取れませでしたが、ゼリー飲料のお気に入りの味の物を少し口にしました。

夜中に比べると随分落ち着いた感じがしたので、私は「ねえ、仕事行っていいかな?」と聞いてみました。

「うん、良いよ」

けれでも、どう見ても、こうやって話していても、す〜っと目を閉じてしまう○Tは、前の日とは様子が違います。

私は時計を見ながら考えました。
もう少し様子を見てからにしよう・・・一度家に戻るのは諦めて、ぎりぎりまで居てから直接店に行こう・・・・

私は眠っている○Tの隣のベッドに腰を下ろし、ずっと○Tの姿をみつめていました。

「おはようございま〜す」と看護師のA君が入って来ました。

「昨夜は泊まったんですか?」
「うん」

「そうですか・・・今日はお仕事行かれます?」
「さっき『行っても良いよ』って言ってたから、もう少ししたら行こうかなと思って・・・」

「そうですか、わかりました。 じゃあ、行かれる時には声を掛けて言って下さいね。」
「はい、わかりました。」

点滴を持って来てくれたA君が、「お薬飲み辛くなっているみたいだから、ここに今迄飲んでもらっていたお薬は全部入っていますからね」と説明をしてくれたのがこの時だったか、前の晩だったか確かではありません。
「それから、オキシコンチンだけは、出来るだけ最後まで口から飲んでもらった方が良いので、それだけは入れてありませんから。」

この説明をされても、この時の私にはピンと来ませんでした。
あの小さな錠剤を飲めない事があるなんて・・・と思っていました。

それにしても、○Tは良く眠り込んでいます。

私は席を立てません・・・それは”今”逝ってしまうのではないか?と言う不安ではなくて、○Tが目を覚ました時に誰もいなかったら不安になるのではないか?と思ったからです。
目を覚ました時に、そばに誰かいてくれたら、きっと○Tはそれだけで安心をするだろうと思いました。

誰か来ないかな〜? そう言えば、Mちゃんは何時頃来るんだろう?

私の出勤時間はとっくに過ぎてしまいました。

私は雇い主に電話を入れました。
「一人にしておけないので、交代が来たら店に行きます。」と伝えると、
「うんうん、そうしなさい。 大丈夫だから。」と言ってくれました。

次の日には、店に荷物が届く予定になっていると雇い主が言うので、
「今晩はMちゃんが泊まる予定なんで、明日には店に出ますから、大丈夫ですよ」と私は言いました。
「そうなの。 でも、無理しなくて良いからね。 居られるだけ居て良いからね。」

自分の息子とご主人をあっと言う間に亡くし、その時に仕事を優先させていた自分の後悔を私にはさせるまい・・・と言う彼女の強い気持ちが私には本当に有り難かったです。
その彼女の気持ちが私を強くさせ、ここまで来ました。


お兄さんのKIさんと姪のCちゃんがお見舞いに来てくれたのが何時だったかは覚えていないのですが、二人が病室に入って来ても、○Tは目を覚ましませんでした。

二人は、いつもなら私が仕事に行っているはずの時間に病室に居る事に驚いていましたが、片付けもしていない私のベッドを見て、様子を察したのでしょう。

「○T〜! お兄さんとCちゃんが来てくれたよ〜!!」
私は○Tを起こそうとやっきになりましたが、KIさんは
「いいよ、いいよ。 無理して起こさなくて・・・寝てるんだから、気にしないで」と気遣ってくれました。

私はCちゃんに「足でも揉んであげてよ〜」と言い、Cちゃんは揉んでくれました。
「あ、じゃあさ、目を覚まさないから、証拠写真撮っておこうか。」
Cちゃんはベッドの脇で○Tの手を取ってポーズをつけていました。
写真には、その後ろで心配そうに覗き込むKIさんが写っています。

二人が来た前後に、看護師さんが○Tの様子を見にベッドの脇にしゃがみ込んだ時、○Tはその気配で、自分の指を差し出しました。
それは、酸素濃度を計る為の動作です。

ほとんど意識のないままでも、○Tは自分の酸素濃度を気にしていました。
看護師さんは血圧を測ろうとしていたのですが、その○Tの動作に気づいて、すぐにオキシメーターでその指をはさみ、「96ありますよ〜 大丈夫ですよ〜」と声を掛けてくれました。

○Tはまだ頑張っています。
自分の意思で生きています。


私は看護師さん達が測る以外に、私達のMYオキシメーターで、何度も○Tの酸素濃度を見ていました。
ところが、オキシメーターは、指先が冷たいと測定が出来ません。
私は、○Tの指をこすって温めながら、何度も測ってみました。

酸素濃度はそれほど下がってはいないのですが、脈が今迄よりも、落ちて来ています。
脈拍を知らせる「ピッピッ」と言う音が、10回ほど鳴っては、お休みが入ります。

「壊れてるのかな?」私は自分の指を挟みますが、ちゃんと規則正しくピッピッピと鳴ります。

○Tの手の指だけでなく、足でも測ってみます。
ここでも、同じでした。

A君が何度目かに病室に来た時に私は思い切って聞いてみました。
「あのね・・・このピッピッって言う音が途切れるの・・・脈の数も何だかおかしいの・・・」
A君は「ああ、この脈の数はあまり当てにならないんですよ。」と言うので、私は少し安心しました。
「でもですね・・・あの・・・このピッピッって言う音は、合ってると思いますよ。」

「え・・・10回に1回位はお休みしちゃうんだけど・・・」
「そうですか・・・」
A君は返事に困りながら、病室を出て行きました。

これが何を意味するのか・・・わかっていても、A君にしてもハッキリとは口に出せなかったでしょう。
「あとどれ位・・・?」そんな事は誰にもわかりませんでした。


午後3:00
○Tは目を覚まして、オプソを飲みました。

私が「仕事に行くよ」と言った事など、すっかり忘れていた様で、私がいる事が当たり前の様な態度でした。
恐らく、○Tにはもう時間の観念はなくなっていたのでしょう。
今日が何日なのか、今が何時なのか・・・・・・

それは私も同じでした。
そんな事は何だかどうでも良い事の様な気がしていました。

○Tが生きている。
そのそばに私がいる。

それがこの時の全てでした。

こんな風な時間を持たせてくれた私の雇い主に、私は感謝しています。

立てない・・・

2007年3月24日(土) 午前0時〜5時

0時頃でした。
ゴソゴソと○Tが動く気配で私は目を覚ましました。
黙って見ていると、○Tはベッドに起き上がりました。
そのまま私と反対側に足をベッドから下ろし、腰掛ける様な姿勢になり、そのまましばらく動きません。

私は思い切って声を掛けました。
「どうした?」

私はてっきり○Tが「なんでいるの?」と言うと思いましたが、○Tはまるで私が居るのが当たり前の様に、「トイレ」と言いました。

知っていたのかな?と思いながら、「トイレ?」と私が聞き直すと、○Tはこちらに顔を向けないまま、言いました。
「M_B_?」
「そうだよ」

も〜、まったく、私に決まってるじゃな〜い・・・

「いたの?」
「うん、居た・・・」

やべ、怒るかな?

「立てない・・・」
静かにそう言った○Tに、私はベッドから出ながら言いました。
「ちょっと待って、今、行くから」

「助かった・・・」
○Tは又静かにそう言いました。

私は仕事帰りのままで、下はタイツになっていました。
「ごめんね、こんな格好で〜」と私が言うと、「いいよ、そんなの」まるで見慣れているとでも言わんばかりでした。

「どうやって立つ?」
私は手を差し出しましたが、どうやらそれでは立ち上がれそうもありませんでした。
まったく、これだから、たかだか4ヶ月ちょっとの看病人は役に立ちません・・・

「尿瓶にしよっか?」と私がそうっと言うと「嫌だ」と小声で言います。

「じゃあ、私が肩貸すから、それで良い?」
「うん、大丈夫?」

「大丈夫だよ〜、私をなめんなよ〜」これも小声で言いました。

私が○Tに肩を貸したのは、これが2度目です。
1度目は泥酔した○Tが、それでも車を500mほど運転し、我が家の前の道に止めた直後(それも、ピッタリと脇に寄せて!)、車から降りて、家までの20mほどでした。
その頃の○Tは太っていて、かなり重かったのを覚えています。
その時も必死でした。 肩からずり落ちたら、○Tはそのまま道路で寝てしまいそうだったからです。

今度はほんの数歩です。
そして、○Tはかなり軽くなっています。
出来ないはずはありません。
それでも、その数歩はその時と同じ位遠く感じました。
やっとトイレに座った所で、私は”間に合わなかった”事に気づきました。

私は「あ、間に合わなかったね・・・」と言って、○Tの顔を下から覗き込みました。
その顔は無表情でした。

ガッカリしたのではないか・・・と思いました。
自分で立ち上がれなかった上に間に合わなかった事に、○Tの気持ちが動揺したかと思ったのですが、その表情からは、読み取れませんでした。

「ついでだから、ここで履き替えちゃおうか、ね、そうしよう」
パンツと下着を取り替えると、又ベッドまで数歩、○Tは私の肩にもたれかかる様にして歩いて戻りました。

ベッドに腰掛けて、○Tはしばらく又そのままでいました。
両手で上半身を支えています。
その手は手のひらを上に向けています。
手のひらで支えているのではなく、手首で支えていると言った方が正しいでしょう。
下を向いている○Tから、又水滴が落ちました。

泣いてる?・・・と思ったら、家にいた時と同じ様に、開けた口からこぼれた涎でした。

いっその事泣いてくれたら、一緒に泣けるのに・・・
でも、もうこの時の○Tに、それほどの大きな感情があったかどうか疑問です。
○Tはただひたすらに生きていました。

何とかベッドに足を乗せ、体を倒して仰向けになりました。

「じゃあ、おやすみ」と私が言ってから、ほんの10分位だったでしょうか・・・○Tは又体を起こそうとしていました。

「起きるの?」と私が声を掛けると
「うん」と言うので、体を起こすと、その後、「体がかゆい」とか「向きを変えたい」とか色々と言って来ました。

私はオイルを体に塗り、○Tの体の向きを変えるのを手伝いました。

「痛い? どこか痛い?」と聞いても「ううん、痛くない」と相変わらず○Tの顔には表情はありませんでした。

背中をさすったり、足を揉んだり、色々とやってみますが、どうにも落ち着きがありません。

「やっぱり寝る」と言って、又体を寝かしても、10分とじっとしてはいません。
「やっぱり起こして」「う〜ん、足の位置が・・・」「頭もう少し上かな?」
何だか私は汗をかいてしまいました。

そうこうしているうちに、外が明るくなり始めました。

「痛いんじゃないの?」と私が聞くと
「う〜ん・・・何だか良くわからないけど・・・どこって言うんじゃなくて・・・」
どうやら○Tは自分でも自分を持て余している様でした。
「オプソ飲んでみる」と言うので、水薬の封を切って渡すとそれを飲みました。

「今 何時だろう?」
「5時だよ、朝の。 まだ早いよね」

「そうか・・・」
「寝ようか、まだ早いし」

「うん」

小さなメモ用紙に、私がオプソを飲んだ時間を書き留めている間に、○Tはまるで何事も無かった様に、小さな寝息をたてて眠っていました。

やれやれ・・・もう一眠りして、朝ご飯が来る頃に起きればいいかな。
それにしても、今のは何だったんだろう?

これから毎晩こうだったら、やっぱり私一人じゃ無理だな〜。
今晩はMちゃんが泊まってくれるから、これは報告しておかなくちゃな〜。

着替えあんまり持って来ていないから、明日は家に帰ったら洗濯して、もう少しまとめて着る物も持って来なくっちゃね。

自分のベッドに戻って、布団をかぶりながら、又○Tの手を握りしめ、そんな事を考えているうちに私も眠ってしまいました。

2007年3月23日(金) 夜の部

仕事の終わった奥さんのMちゃんが、病室に顔を出したのが何時頃だったのかは覚えていません。
○Tは半分うとうとしていたと思います。

この日の夕飯を私は食べたかどうかも覚えていません。
私の事だから、きっと何か食べたと思います。
もしかしたら、Mちゃんが何か差し入れを持って来てくれたかもしれません。

美容師のZIちゃんも、8時に店を閉めてから来てくれました。
いつもだったら、○Tも起きていて、ああでもない、こうでもないと色々と話をするのですが、○Tはほとんど眠っていました。

「お、来たね、ねえ、せっかく来たんだから、爪でも切ってくれない?」
私はずうずうしくも○Tの爪を切ってやって欲しいと言いました。

「え〜? 俺?」
「うん、美容師なんだからさ、良いじゃん。 私がやるよりさ、キレイに出来るでしょ? そこに爪切りセットあるからさ」
入院用のセットになった箱の中から爪切りとファイルを渡すと、ZIちゃんは
「得意じゃないけどな〜」と言いましたが、
「いいじゃん、いいじゃん、少しは役に立ちなさいよ〜」と私に強引に言われ、爪を切り始めました。
さすが、美容師さんです。 何だかんだと言っても上手にきれいにしてくれました。

「足もね〜」と私に言われ、ZIちゃんが足の爪を切り出した時です。

「いてっ!」と○Tが声を出しました。
「あ、ごめんごめん!」ZIちゃんは苦笑いです。

「なんだ〜、起きてるんじゃ〜ん、オヤジったら」
「ホントだね、寝てるかと思ったのに〜」
口々に私達はいつもの様に軽口を言っていました。

「ねえ、せっかく来たんだから写真撮っとく? これさ、起きてるかどうか怪しいからせっかく来てくれて爪切ってくれたのもわからないかもしれないからさ。 証拠写真にさ。 起きたら後で見せておくよ。」
「そうだね」

私はZIちゃんが足の爪を切っている証拠写真と、口を開けて眠っている○Tに顔を寄せたZIちゃんの2ショットを撮りました。

一仕事をしたZIちゃんは帰って行きました。

しばらくして、いつもならそろそろ帰る時間になりました。

私は考えていました。
又今晩ここで帰ったら、きっと又昨日の様に後悔をする・・・。
今日は慌てて店から来てしまったので着替えはないけれど、そんな事を理由に帰ったら、きっと又後悔をする・・・。
もし、○Tが目を覚まして「何してんだよ〜?」と言ったら「くたびれちゃったんだも〜ん」と言う事にしよう、そうしよう。

私はMちゃんに言いました。
「ねえ、Mちゃん、私さ、今晩お泊まりってしてみようかな〜?」

Mちゃんは「え〜? 泊まるの〜? そうだね、いいかもね。」と笑って答え、「じゃあさ、明日は土曜日だから、私が泊まるよ。」

「そう? そうしてくれる? ずっとは大変だし、皆でローテーション組んで、Dや若いのも順番にしようか?」
「うん、そうしよう。」

「よし! じゃあナースステーション行って、ベッド用意してもらおうっと」
私が部屋を出ると、Mちゃんも一緒に付いて来てくれました。

夜勤の看護師さんにベッドの用意をお願いすると、すぐに用意をしてくれました。
「ちょっと寝心地は良くないんですけどね〜」と看護師さんは言いながら、○Tのベッドの脇にセットをしてくれました。

ガタガタと言う音で○Tが目を覚ますかと思ったのですが、まるで気づきません。
変だな・・・と思いましたが、気づかれて「いいよ〜」と言われるよりも良かったと思いました。

「じゃあ、私は明日、お泊まりの用意をして来るからね。 おやすみ。」
そう言って、Mちゃんは帰って行きました。

一晩泊まって既成事実を作ってしまえば、きっと○Tも嫌がらないでしょう。
明日はここから仕事に行くか、もし○Tの調子が良ければ、一度家に戻って着替えてからでも良いかな?

とにかく、今晩はこれで安心して眠れそうです。

簡易ベッドは病人のベッドよりも低く、○Tの手を握るのにはちょっと大変でしたが、私はしっかりと○Tの右手を握り、目を閉じました。

途中で夜勤の看護師さんが見回りに来た時には、私は空いている方の手で「OK」サインを出しました。
看護師さんもそれを見て、頷いて帰って行きました。

初めてのお泊まり・・・幸せな夜でした。

又明日〜・・・

○TからのSOS

2007年3月23日(金) 夕方〜夜編

18:08
昼間のやりとりのメールのまま、4つのREがついたタイトルで○Tからメールが来ました。

「M_B_ 情けないが 早めに早めにきてよ。」

文字が目に入った瞬間、「来るべき時が来た」と思いました。
すぐに返事を出しました。
いつもは老眼の○Tの為に、デコメで大きくしていた文字も、そんな暇はありません。

18:09
「すぐ行く」

私は大慌てで、店の片付けをし、シャッターを下ろし、コートを着ていつものバッグを肩に掛けました。
店の裏のドアに鍵を掛け、それをしまい、走り出しました。

バッグのファスナーが閉まっていない事に気づいてそれを慌てて閉めようとした時に、バッグについていた○Tがくれた猿ボボのマスコットの紐をファスナーが噛みました。

ああ・・・きっとこんな風に慌ててしまうだろうと予想した通りじゃん・・・間抜け過ぎるよ〜!
このまま走ってファスナー動かなかったら財布出せなくなっちゃう・・・!
ああ〜!! も〜! それよりタクシーはどこでつかまるだろう??
駒○通りまでは走らなきゃ!
ああ! もう! このファスナー!! えいっ!

どこで私は雇い主に電話を入れたかは覚えていません。
とにかく、「○T が『来てくれ』と言っているので、すみませんが店を閉めました!」と事後承諾の電話を入れました。

タクシーを待っている間、私は何度も口の中で病院の名前を繰り返しました。
慌ててど忘れする様な失態だけは避けたかったのです。

あまり待たずにタクシーは拾えました。
病院の名前を言い、私は自分に「落ち着け、落ち着け」と言い聞かせます。

何が起きたのかはわかりません。
本人のメールなのだから、まだ意識はあるはずです。

でも、○Tが私を呼んだのです。
「来て欲しい」と・・・・「すぐに」と書かなかったのは、私が仕事中なのを気遣ったからでしょう。
そんな時にまで気を使わなくったって良いじゃない!

私はずっと言ってたでしょ?
「何かあったら、すぐに行くから」って。

すぐに行くよ、今、すぐに行くよ!! 約束通りに行くから! 待ってて!


病院に着くと、まっすぐにエレベーターに向かい、9階に向かいました。
私の心臓は今朝よりももっとドキドキしていました。
もし、本当に間に合わなかったら???

エレベーターを降りた時、病棟が騒がしくない事に一応ほっとしながら、病室に入りました。

「来たよ」
私が声を掛けると、○Tは
「ああ〜」と私の顔を見て、まるで「来て当然」の様な顔をしました。

あれ? 想像していたのと違うじゃん・・・・

「どうした?」と私が言うと、
「あのね・・・足がね、だるいんだよ・・・」

「へ?」
「揉んでくれないかな〜?」

「ん? それでメールした?」
「うん・・・昨夜さ、揉んでくれたでしょ?お前が。 あれ、気持ち良かったんだよ〜。」

前の晩、足をマッサージしてくれたのは実はYっちゃんでした。
でも、○Tの中ではどうやら私になっていた様です。
そんな事はどうでもいいけど・・・

「いいよ、お安い御用だよ。」
私は肩からバッグを下ろし、マッサージを始めました。
○Tは気持ち良さそうにして、何故か安心した様な顔で又うとうとと始めました。

まったく〜、こんな事で呼んだのか〜・・・と思いながらも、こんな事で良かったと胸をなでおろしました。

しばらくすると、「もう良いよ」と○Tが言うので、私は雇い主に電話をかけに一旦病室を出ました。

事の顛末を話し、「すみませんでした・・・まったくお騒がせして〜」と言う私に彼女は「いいよ、いいよ、アンタも怒っちゃダメだよ。 きっと心細かったんだから。 店は気にしないで良いからね。」と快く言ってくれました。

病室に戻ろうとした所で、主治医のNK先生に会ったのはこの時だったと思います。
私は昨日の件の結論を先生に話しました。
「蘇生はして頂かなくて結構ですから・・・」
私がそう言うと、先生は
「ええ、そうだと思っていました。 昨日の息子さんの態度でわかりましたから。」
と言い、
「それから・・・」と話を続けました。

「あのですね、実はこう言った時には、管理の為に心電図のモニターを付けさせて頂くのが普通なんですが・・・」
「はあ・・・」

「ところがですね・・・・うちのスタッフが、それは嫌だって言っているんです。」
「は?」

「スタッフ達が、Tさんにモニターは似合わないって・・・どうですか?」
「私もそう思います。」

「じゃあ、良いですか? 無しでも」
「はい。 要りません。」

「わかりました。 そうしましょう。」
「宜しくお願いします。」

「それから、癌の患者さんの最期は、よく『身の置き所が無い様になる』と言われるんです・・・」
先生は、最期の説明までを私に説明してくれました。

こんな話を聞いても、私にはまだピンと来ていませんでした。
モニターにしても、「ふ〜ん・・・そんなもん要らないよ〜・・・」と思っただけでした。
ただ、『身の置き所が無い様な・・・』と言う言葉は、想像するだけで辛そうな事でした。
それは、○Tが自分でそう感じてやるのだとしたら、それをどうやって私は見ていられるだろうか?


病室の前で看護師のA君と話をしたのもこの時かもしれません。

「あの・・・Tさんは、どこまでご存知なんですか?」
「え? どこまでって? 骨に転移した所までですよ。」

「そうですよね・・・僕たちもそう聞いているんですけど・・・」
「何か?」

「時々なんですけど、看護師にね、知っている風な事をおっしゃるんで、もしかしたら、僕らは聞かされていないけど、どなたかご家族が知らせたのかな?と思ったもんで・・・」
「そうですか・・・言ってはいないと思います。 でも、気づいてはいるかもしれません。 勘の良い人ですから。」

「そうですか・・・わかりました。 今、一番先生が心配しているのは、心臓の事なんです・・・聞いていらっしゃると思いますけど・・・ モニター付けていないので、僕らは出来るだけマメに見に行きますからね」

そして、○Tが眠っている間に左手首に付けてあった入院患者のリストバンドを何気なくハサミで切って、戸棚に置き、私の顔を見て複雑な笑顔を見せたのもA君でした。
「もう自由にしてあげましょうね」A君の顔はそう言っている様でした。

そうか・・・もう本当に○Tがここから出る事は出来ないんだな・・・


入院治療計画書にはこう書かれていました。

病名: #1 脱水症、 #2 電解質異常  #3 肺非小細胞癌

症状: 食欲不振

治療計画: 補液を行います。 抗癌剤はひとまず中止です。

推定される入院期間: 未定

その他: ご入院中に必要な検査、処置の説明と介助をいたします。
     日常生活の援助をいたします。


でも、まだ”今”じゃないよね? そうだよね?

私を呼んでくれてありがとう。

刻み食が来たよ

2007年3月23日(木) 朝〜夕方編

朝明るくなったらすぐに行こうと思いながら、目が覚めるとすっかり明るくなっていて、慌てて支度をして、原チャリで家を出ました。

確か昨日、「連絡先はここで良いんですよね? で、順番は同居人さん、奥さん、息子さん、これで良いんですよね?」と聞かれていたので、何かあれば電話が鳴ったはずです。

病院に着いたのは、まだ外来は始まっていない時間で、夜間の入口から入り、病棟に上がるエレベーターの中で、私はドキドキしていました。
降りた所で、その病棟が慌ただしくないのを見て、ちょっと安心し、そのまま病室へ入りました。

生きてる?

あ、大丈夫だった〜、は〜・・・・

私が持って来たポットをいつもの様に出し、病室の中を動いていると、その気配で○Tは目を覚ましました。

「おはよ」と私が声をかけると、「おはよ」と声は小さいものの、いつもの様でした。

けれでも、○Tには時間の感覚が無かった様です。
「早いね」でもなければ、「今何時?」と言う事も聞きませんでした。

又うとうとと眠りかけた所に看護師さんが朝の検温にやって来ました。
体温計を脇に挟んだ時、それがポロっと脇の下に落ちました。
「ん?」と○Tは怪訝そうな顔をしましたが、もう一度挟み直し、今度は自分の反対の腕でそれを押さえつけました。

酸素を計ると、それほど下がってはいませんが、○Tは「ねえ、いくつ?」とその数字を聞き、「それで、いくつになってる?」とどれ位の酸素を自分がもらっているのかを気にしました。

この時で+3位だったでしょうか、覚えてはいません。
家で出していた酸素の量に比べて、多くなっていたのは確かだと思います。
○Tはその数字を聞いて「そんなにもらっているのか・・・」と思っている様でした。

朝ご飯が来ました。
ところが、これが又しても、オーダーとは違う物でした。
「え〜!」と私達は二人して声を出し、看護師さんに文句を言いました。
ご丁寧に『食べてはいけない』とまで言われた果物まで付いていました。

「まあ、良いよ、どうせまだ食べたくないからさ」と○Tは言っていました。

トイレに立った○Tの足元が怪しいので、手を貸そうとしましたが、○Tは「大丈夫だよ」と言って、そろそろと自力で行って帰って来ました。

この個室が今までで一番せまく、その分トイレまでの距離は一番短くなっていました。
ほんの数歩です。 その数歩が、もう○Tにはとても大変そうでした。

「トイレが近くて良かったね」と私が言うと、○Tは不満そうに「でもさ、やっぱこの部屋じゃ嫌だな〜。 他が空いたら変わりたいってお前言っておいてよ。」と言いました。

「うん、良いよ、わかった。 ところで昨日の点滴は効いたのかな? おしっこ沢山出た?」
「いや、全然だよ、全くアイツったら、『トイレに通っちゃいますよ』なんて言ってたけど、全然さ。」

「そうだったんだ〜」私がちょっとつまならさそうに言うと、○Tはその後、絞り出す様な声で言いました。

「今朝もまだ点滴も来ないし・・・・俺に対する治療はここまでか・・・・」
「・・・・・じゃあ、じゃあさ、○T、お家に帰ろうか?」

「帰るったって、飯は食えないしさ・・・」
「病院のパンフレットに出てたよ、ここって在宅の看護もやるって。 だから、点滴とかもさ、家で出来るかもしれないよ。 そうする?」

これは嘘ではありませんでしたが、私はもう破れかぶれです。
もし、本当に○Tがここで家に帰りたいと言うのなら、私は連れて帰ろうと思いました。

けれでも、○Tはそれの返事はしないままベッドに横になり、又うとうとと始めました。

「ねえ、私仕事に行くけど、良いかな?」そう私が聞くと
「ああ、良いよ、勿論、行っておいで」

「大丈夫?」
「大丈夫だよ」
○Tはいつもの調子で言いました。

「うん、じゃあね、行って来るよ、行って来るよ!、又、夜には帰って来るからね!」

私は仕事へ出かけ、昨日の事を私の雇い主に話をしました。
「いつ心臓が止まってもおかしくないと言われました・・・」
それを聞いた雇い主は、「うん、わかった、しっかりね。 後はT君の運命だもんね。 何かあったらすぐに行っていいから、遠慮しないで良いからね。」と言ってくれました。

その雇い主の住むビルの下の階が、いつも行く仲良しの美容師ZIちゃんのいる所です。
私が階段を降りて来たのをZIちゃんは待ち構えた様に、店から顔を出しました。
「オヤジ、どうよ?」
「昨日入院したんだ・・・」

「そう・・・見舞いに行くけど、いつが良い?」
「・・・・」

「早い方が良いのか?」
私は黙って頷きました。

「わかった、なるべく早く行くよ」
「そうして・・・」


11:43 ○Tからメールが来ました。
タイトル「RE:満腹?」
「いないよ」

全く意味がわかりませんでした。 タイトルはもう大部前に出した私からのメールの返信モードなのだとは思いましたが、それがどうしてこの時に使われたのか、そしてこのメールが本当は何だったのか? 単に間違えただけなのかも、わかりません。
とにかく返事を出しました。

11:44「どうした?」

出したばかりのメールに返事をしたのですから、当然○Tはこれを読んだはずです。
それでも、これの返事はありませんでした。

14:36 今度は無題のままメールが来ました。
「おかしてと、おかゆと きざみ、おかず、リクエストドウリダ」(原文のまま)
写真まで付いていました。
お粥に、刻み食、オヤツなのかクッキーの様な物が写っています。

ほっとしました。 どうやら、さっきのメールは何かの間違いだった様です。
すぐに返事を出しました。
14:39
「お! 何とか食べれそうな感じかな? 梅干しも置いてあるよ」

14:41 ちゃんと返事も来ました。
「食えないな、まだまだな、ゆっくりだ」

お客様の相手をしてから又私も返事をしました。

15:09
「そうだね♡ 焦らないで行こうね♡」


ああ、全く・・・先生はああ言って脅したけど、きっとまだ大丈夫なんだ。
”いつ”なんて本当にわからないんだ。
ビクビクしていたって始まらない。
そうだよね? ○T!

まだ時間はあるはずだよね。
奇跡だってあるよね!

来週にはYちゃんも来てくれるって言ってたし、ちゃんとメール出したかなあ?



この日、次の○Tからのメールが来るまで、私はすっかり安心していました。
本当に能天気な看病人でした。


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