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2007年3月11日(日)
元気のない○Tを置いて、私は出勤前に予約していた美容院へ行きました。
12月に行ったきり、すっかり伸びっぱなしになっていた私の髪は白髪もすっかり目立っていました。
こぎれいにいている病人に対してボサボサ頭の看病人では釣り合いも取れません。
いつ美容院へ行こうかとチャンスをうかがっていた私には、この日がチャンスでした。
11時の開店に間に合う様に、美容院のZIちゃんはいつもよりも早く来て、手早くヘアダイとカットをやってくれました。
「オヤジ、どうよ?」
「うん、ちょっと食欲がね〜・・・」
「そうなんだ〜。 心配だね〜。 こないだ酸素持って上がって来た時もしんどそうだったもんな〜」
「ああ、あれ?『死ぬかと思った〜!』って言ってたよ〜笑っちゃうよね〜」
「そうそう、ホントに凄かったんだよ。 次は下まで迎えに行くからね」
「うん、そうしてよ〜」
終わって帰る時には「じゃあ、又そのうち家にも行くからさって言っておいて」とZIちゃんは私を送り出してくれました。
店に行ってすぐに私は○Tにメールを入れました。
タイトル「さっぱりしたよ」
「髪切ってサッパリした所。 そろそろ起きたかな?」
1時間ほど経ってから返事が来ました。
「起きないんだなこれが又 いまパン食べた 卵焼いてチーズでぼちぼちガンバってはいるんだよ、俺なりには」
返事までに間があった事が心配で、電話をしてみました。
すると、○Tは私の「大丈夫?」と言う声を聞いた途端に言いました。
「『食べた』ってメール出したでしょ?! 何わざわざ電話までして来るんだよっ!」
心配を押し付けられ、もううんざりだ・・・と言う○Tの気持ちはわかりました。
わかっていても、それでも、私は心配をし続け、それが又○Tを苛立たせていました。
どうしたら良いのだろう? 私は○Tとの距離をうまく取る事が出来なくなっていました。
植物でも動物でも、世話を焼き過ぎてもうまく育ちません。
植物に水をやり過ぎても枯れ、やらなくても枯れてしまいます。
それは人でも同じ事でしょう。
必要な時に必要なだけの世話や心配をすれば良いのだと思っていました。
そして、それまで私はその事にそれほど苦労をした覚えも、必死になった覚えもありませんでした。
もしかして、それほどに濃い付き合い方をして来なかったのかもしれません。
これが他人の事だったら「そんなに言わなくても」とか「そんなに心配しなくても」と私だって考える事は出来たでしょう。
けれども、相手にしているのは、私にとって一番大切な人なのです。
そして、これにその一番大切な人の命がかかっていると思えば思うほど、私は冷静さを失なっていました。
電話を切って、気持ちを切り替え、仕事をし、終わると何事もなかった様にいつもの”帰るコール”をして、家に戻りました。
息子のDと彼女のTMちゃんが顔を出してくれていました。
その二人と一緒にお菓子を食べていた様です。
夕飯はシュウマイ1個、シャケの切り身を半分、そして少しでしたがご飯も食べました。
二人のお陰で機嫌は大部良くなっている様でした。
お風呂上がりに「ねえ、ここ、何か変じゃない?」と私に言った時には、昼間の剣幕はなりをひそめていました。
「え? で、ここって・・・」と言いながら見ると、○Tの左足の付け根のリンパの辺りに又しこりの様な物が触れました。
体全体は、前よりもふっくらとした様に見えています。
太ももの辺りなどは、一時はすっかり肉がなくなっていたのが、張りが出て来ている様に見えていました。
「ちょっと太った?」と私が言うと
「そうかな〜? う〜ん」
でも、もう決して体重計には乗ろうとは私達はどちらも言いませんでした。
「このしこりってリンパかな?」
私は○Tがどういう反応をするか、ちょっと心配でしたが、○Tは「リンパね〜」と言ったまま黙っていました。
「あのさ、きっと今リンパが頑張っているんだよ。 癌をやっつけようとして」
もう私の言っている事もめちゃくちゃですが、○Tも「ふ〜ん」と言っただけでした。
20年風邪もひかない様な健康馬鹿二人組です。
病気が発覚してからまだ4ヶ月の病人初心者と、看病人初心者は、もうこのころは、お互いに訳がわからないまま もんどり打って、もつれて転がっている様な毎日でした。
この記事に「不機嫌な」と書かれる事は、○Tにとってはとても不本意な事だと思います。
けれでも敢えてそう書くのは、この時の私にはそう見えていたからです。
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