平成21年5月26日(火) 梅田ピカデリー2(1800円) ☆4.5 2008年 監督:クリント・イーストウッド 出演:クリント・イーストウッド、ビー・バン、アーニー・ハー、クリストファー・カーリー、コリー・ハードリクト、ブライアン・ヘーリー 最近の新作の中ではいちばん鑑賞しておきたかった作品である。せっかくだから劇場の混んでいない平日に観に行くことにした。 78歳だそうだ。そんなになるのかなあ。本当にこれが最後の映画となるのだろうか。もったいないなあ。俳優として監督としてクリント・イーストウッドには、もはや神がかり的な格が備わっているようだ。映画の全てを知っている。ユーモアや辛辣な風刺を存分につくして映画に命を吹き込む。見事な脚本だ。映画とはこういう風に作るべし。そんなことを改めて教えてくれた評判どおりの素晴しい作品だった。 クリント・イーストウッドは、気難しい主人公ウォルトを演じる。苦虫を噛み潰したようなその表情は、まるでハリー・キャラバンのようだ。朝鮮戦争従軍経験を持ちフォードの自動車工として長年働いてきた。妻に先立たれ、息子家族とも折り合いが悪く、彼を訪ねてくるのは信頼していない若い神父だけ。愛犬を友にひとり缶ビールを飲みながら暮らしているような孤独な老人である。 ある日、隣りに住むアジア系移民モン族の少年タオ(ビー・バン)が、従兄の不良たちにそそのかされ、ウォルトが大切にしているヴィンテージ・カー「グラン・トリノ」を盗もうとする。ウォルトにライフルで撃退されたタオは数日後、母親と姉のスー(アーニー・ハー)に連れられて謝罪にやって来て、罪滅ぼしに働かせてほしいと頼む。それをきっかけにウォルトとタオの不思議な友情が始まった。だが、それを面白く思わない不良たちはウォルトやタオの家族に嫌がらせをし、次々とエスカレートしていく・・・。 最初に感じたのは、他民族国家たる現代アメリカのコミュニティの交流の実態が興味深いという点。肌や瞳の色・人種・宗教・しきたりが異なる人たちが、互いに線を引いたり、折り合いをつけたり。タオとスーの素人っぽい演技が自然でいいなあと思っていたら、後で知ったことだが本当に素人を起用しているそうだ。ウォルトという頑固爺が、タオやスーに感化され自身の偏見に気付き次第に心を開いていく様子は前半の大きな見どころだ。 一方でこの映画は、現代アメリカの抱えた様々な問題点を映し出す。例えば、紛争の解決の手段としてライフルやマシンガンが容易に入手できるような環境は、太閤検地の時代から刀狩りで庶民が武器を所持することを許されていない我が国では想像ができないことである。だから、中盤から後半にかけては心が痛かった。暴力の負の連鎖というのだろうか、最悪のシナリオが容易に想定されるから、後味の悪いラストが待っていそうな気がして仕方なかった。 イーストウッドの作品では、「ミリオンダラー・ベイビー」のように重いテーマを観る側に投げかけておいて答えを出さないような前例もあるし、今回はいったいどういった収束を用意してくれているのだろうと随分気をもんだ。終わってみればウォルトの置かれた状況から他に無い解決手段であって、こんな風に伏線が張られていたのかと納得させられた。骨太な男の生き様を見せてくれたのである。かっこよすぎるぞ、イーストウッドさん。 へそにピアスをした娘にグラン・トリノが与えられなかったとき、私だけではない、間違いなく観客全員が心の中で「よっしゃあ!」と叫びながらガッツポーズをしたことだろう。
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Kazさん、集大成というのはその通りかもしれませんね。イーストウッドの持つ全ての引き出しの中身を見せてくれたように思います。いい映画でした。TBありがとうございます。
2009/6/7(日) 午前 6:46
のびたさん、おっしゃる通りです。撮るたびにイーストウッドは上手くなっていく。この映画を観るとよく分かりますね。最後まで我々を楽しませてくれる映画人でありつづけることは間違いないでしょう。TBありがとうございました。
2009/6/7(日) 午前 6:49
サムソンさん、男の生きざま(死にざま)はこうありたい。そんな主人公を見事に演じてくれました。いろんな要素の詰め合わせのような作品でしたから、いずれまた観直す機会があったときには違った発見もありそうです。TBありがとうございました。
2009/6/7(日) 午前 6:53
pu-koさん、ありがとうございます。オープニングからラストまで、一か所も隙の無い期待通りの見事な作品でした。俳優としても監督としても超一流のイーストウッドが作るとこんな映画ができるんですね。TBありがとうございます。
2009/6/7(日) 午前 7:01
「チェンジリング」を観てから、ますますこの映画が観たいなあと思っていたところです。観てからレビューを読ませてもらいます。 ある人は「河内山宗俊」に似ている(いい意味で)と言ってましたが。
2009/6/7(日) 午前 10:13
太閤検地の視点はグッジョブ!!日本占領時と違ってイラクではそれをしなかったwww
でもシルバースターの英雄だろう。贅沢はできないが生活には困らない。
妻との思い出の家にこだわってるトコに泣けた。アメリカンだと思った。
実際、イーストウッドは軍歴あるが実戦というか戦地にも行ったことないんだよね。。。。
2009/6/7(日) 午後 11:37 [ esu**i123 ]
シーラカンスさん、そういわれれば「河内山宗俊」に似ている部分も確かにありますね。どこが似ているかはコメント控えておきますので、ぜひ確かめてみてくださいね。
2009/6/8(月) 午前 5:13
esupai123さん、戦争の傷跡がトラウマになってあの性格を作りだしていたのかもしれません。内面は妻との思い出の家にこだわるような優しく孤独な老人。流石に役作りは上手だったと思います。
2009/6/8(月) 午前 5:19
ボク的には高齢者特有かと思った。教会に行くようになったり・・・息子に連絡したり・・・でも元軍人らしい几帳面さも描いていた。なかなか楽しめました作品だった。。。。
2009/6/8(月) 午前 7:30 [ esu**i123 ]
そうですね。高齢者特有の部分もあるでしょうし、戦争経験や自動車工として長年働いてきた経験などから、こんな性格が形成されているところもあるように思います。楽しめましたね。
2009/6/9(火) 午前 6:30
是非見たいと思いながら。。。
まだ未見です
イーストウッドすばらしいですね、映画の神様が完全に降りてますね
2009/6/12(金) 午前 0:08 [ きらきらくん ]
以前はそれほどは思わなかったですけどね。最近の作品には映画の神様が降りていると私も思います。見事な映画でした。
2009/6/12(金) 午前 5:45
イーストウッドの俳優・監督としてのキャリアは、他に見られませんね。「ローハイド」もよかったし、「マカロニ」も「ダーティ・ハリー」も「マディソン郡の橋」も「シークレット・サービス」も・・・
そのおりおり、光っていましたね。俳優としては、「グラン・トリノ」で、頂点かと思いました。TBさせてください。
2009/6/13(土) 午前 8:58
俳優としてはともかくも、実は以前は監督としては、一流でしょうが「超」のつく一流とは思っていませんでした。しかし、今回は「超」だと思いました。長年のキャリアがきちんと結実したという印象です。TBありがとうございます。
2009/6/14(日) 午前 6:26
この映画ほとても楽しみにしてます
2009/6/14(日) 午後 3:25
いい作品でしたよ。可能であれば、レンタルより劇場鑑賞をおすすめします。
2009/6/15(月) 午前 6:13
家内と二人で会社を休んで見に行きましたが、それだけの価値ある映画でした。
私もああいう頑固じじいを目指したいと思います。
家内は「貴方、絶対、ああなるよね」と言ってますし。
2009/6/16(火) 午前 0:29
男ならこの生き方に憧れますよね。クレオパトラさんは奥さんのお墨付きがでたんですね。私も是非こんな頑固爺になってみたいです。
2009/6/16(火) 午前 6:09
ようやく観ました。よかったですねえ。恥ずかしながら号泣でした。男の生きざま、死にざま、傑作でした。「河内山宗俊」、似てましたね。
2009/12/1(火) 午後 10:21
いい映画でしたね。「河内山宗俊」も同じ、こういう死に方ができたら男子の本懐でしょう。わたしは逆に未見の「チェンジリング」の方をDVDで今度観ることにします。TBありがとうございます。
2009/12/2(水) 午前 5:44