ヒッチさんの映画鑑賞日誌

邦画のベスト1は「二十四の瞳」

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空気人形

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平成21年10月24日(土)
梅田ガーデンシネマ(1800円)
☆4.5
2009年
監督:是枝裕和
出演:ぺ・ドゥナ、ARATA、板尾創路、高橋昌也、余貴美子、岩松了、星野真里、丸山智己、柄本佑、寺島進、オダギリジョー、富司純子

東京の片隅の古びたアパート。持ち主の秀雄(板尾創路)と暮らす空気人形のノゾミ(ペ・ドゥナ)は、ある朝、思いもかけず「心」を持ってしまった。彼女は秀雄が仕事に出かけて居なくなるといそいそと身支度を整え、一人で街へと歩き出す。メイド服を着て、おぼつかない足取りで街に飛び出したノゾミは、いろいろな人に出会っていく。やがて、レンタルビデオ店で働く純一(ARATA)と知り合い、その店で一緒にアルバイトをすることになる。ひそかに純一に思いを寄せる彼女だったが・・・。

銀幕を飾る憧れのスターを観ることも映画の楽しみ方のひとつである。一昔前なら、そのような存在感のある俳優・女優はたくさんいたけれど、最近は押し並べて小粒になった。テレビやネットやその他のメディアを通じて映像情報は氾濫し、スターが我々庶民と同じ等身大で身近な存在になり下がってしまったからだろう。それも決して悪いことではないが、少々さみしい気がする。きら星のごときスターが少なくなった現在、スクリーンで新作を観たいという目的でわざわざ劇場へ足を運ぶことがあるとすれば、そんな数少ない俳優のひとりが私にとってはペ・ドゥナなのである。

本作は「誰も知らない」や「歩いても歩いても」などを撮った是枝監督の作品である。しかし、今回私は是枝映画を観たくて劇場へ出かけた訳ではない。あくまで、目的はペ・ドゥナであった。決してグレース・ケリーやイングリッド・バーグマンに比肩するほどの絶世の美女だとは思わないが、私にとっては最高に魅力的な女優だ。その瑞々しい笑顔・仕草・表情に触れるだけでも価値がある。そして、今回もそんな思いを彼女は決して裏切らなかった。

是枝監督はインタビューで「息を吹き込むっていうところが一番コミュニケーションになっていて、だからエロいんです。あそこが一番エロくないとダメな映画なんです。」と語った。空気人形とはすなわちラブ・ドール=ダッチワイフのこと。性欲処理の代用品。映像的には本来たいへん卑猥な題材である。純一がノゾミに息を吹き込む場面はセックスの象徴そのものであり、殊更エロティックで官能的なシーンである。そして惜しげもなくヌードを披露しても、ペ・ドゥナが演じると全くいやらしさを感じさせない。女優の魅力もさることながら、カメラワークが繊細で優れていると思うし、メイクやセット、CG処理までもが完璧。どこまでが人形でどこからが生身のペ・ドゥナなのか、心が宿ってから結局最後のOLが窓から覗いたゴミ置き場に横たわる彼女を見て「きれい」とつぶやくシーンに至るまで、よく分からなかった。

ノゾミは代用品としての自分の存在理由に悩む。秀雄は心を持ったノゾミに対して「面倒くさいんや。元の人形にかえってくれ。」と懇願する。この映画を「誰も知らない」と同様に都会に住む現代人の孤独や喪失感をテーマにしていると総括するのは簡単だ。また、非日常的でリアリティに欠けると批判するのも容易い。この映画は観る人の感性でいかようにも価値を持つ。じんわりと胸に響いてくる。おそらくそれだけでいいのかもしれない。少なくとも、理屈を積み上げる必要もなければ、結論を導き出すことも不要だと思う。

彫刻や人形に「生命を吹き込む」という表現がある。この映画は文字通りそれを具現化してみせてくれた。そして、中身は空っぽで、少し傷つくとどんどん萎びてしまうような自分自身と向き合うきっかけを作ってくれた。はかなくも切ない大人のファンタジー。本作はペ・ドゥナの魅力無くしては語れないラブ・ストーリーの傑作なのである。
 

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alfmomさん、ご覧になったらまた感想を聞かせてください。きっとご満足いただけると思います。到達点や手段は異なりますが、是枝映画でいうと「誰も知らない」に作風は近い感じがしました。

2009/11/8(日) 午前 5:27 ヒッチさん 返信する

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サムソンさん、この映画が心に沁みるということは、現代人なら誰でも多かれ少なかれ心に隙間があるからなんだと思います。パンパンに満たされているようでも中身は空っぽ。小さな傷でそこから空気が抜けてしまう。そんな喪失感をペ・ドゥナは体当たりで表現してくれました。素晴しい作品だったと思います。TBありがとうございました。

2009/11/8(日) 午前 5:33 ヒッチさん 返信する

初めて聞く女優さんです

2009/11/8(日) 午前 8:25 おっちゃん&ばっちゃん 返信する

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韓国の女優さんなのですが、本作以外の日本映画にも出ています。「リンダ リンダ リンダ」が素晴しかったですよ。

2009/11/9(月) 午前 5:12 ヒッチさん 返信する

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是枝映画でいうと「誰も知らない」に作風は近い感じがしました。

気になっていました。絶対観ますよ、「誰の知らない」に近いなんて。

2009/11/9(月) 午後 9:00 [ koukou ] 返信する

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koukouさん、作品のテーマは「誰も知らない」と共通する部分は大いにありますが、味付けは随分異なります。是枝映画の幅の広さを感じることができました。ご覧になったらまた感想を聞かせてください。

2009/11/10(火) 午前 6:32 ヒッチさん 返信する

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これは確かにペ・ドゥナという女優さんが演じたからこそ、成功したのだと思います。確かに決して美女ではありませんが、とても魅力的な役者さんですよね。
息を吹き込むシーンは監督の狙い通り、官能的だったと、僕は思いました。

2009/11/22(日) 午後 10:42 出木杉のびた 返信する

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そうですね。この映画の成功はペ・ドゥナを起用することでほぼ完了していて、そこに是枝監督の演出が加わることでさらに魅力が増したというのが私の評価です。他の女優ならどうだったか・・・。陳腐な三文ポルノで終わっていたかもしれないです。TBありがとうございました。

2009/11/23(月) 午前 6:26 ヒッチさん 返信する

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心を持つことに喜び、苦しみそして「たった一度の人生」として生きる決断をした彼女は代用品なんかじゃなくたった一人の素敵な女性となりましたね。
TBさせてください。

2009/11/24(火) 午後 8:59 かず 返信する

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かずさん、心を持って少しずつ表情が豊かになっていく様子や、少しずつ言葉や身のこなしが人間らしくなっていく様子が、ペ・ドゥナならではの演技で巧みに表現されていました。TBどうもありがとうございます。

2009/11/25(水) 午前 5:42 ヒッチさん 返信する

最初、ちょっと驚きましたが、いやらしさは感じませんでしたね〜。。。
是枝作品だなぁ〜と感じる作品。ペ・ドゥナの演技も素晴らしかったです!
トラバありがとうございます!トラバお返しさせて下さいね^^

2009/11/25(水) 午後 7:04 くるみ 返信する

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くるみさん、その最初のちょっとした驚きもまた新鮮でした。下品でなく官能的。この役柄はおそらくペ・ドゥナ以外ではしっくりこないです。TBありがとうございました。

2009/11/26(木) 午前 5:28 ヒッチさん 返信する

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★4・5が肯ける、感動が伝わるいい記事ですね。
前回訪問した時に、丹念に読んでいれば、もしかすると劇場まで足を運ぶ事はなかったかもしれません。
でも今は、あの時きちんと読まなくて良かったなと思っています。
でなければ、この作品との出会いはなかったでしょうから。
好みのジャンルではありませんが、こういう表現の世界があること、
それを完璧に作り上げたベ・ドゥナと是枝監督、素晴らしいと思いました。
時間が経つほどに、その気持ちはジワジワと湧きあがってきました。

2009/12/12(土) 午前 5:22 alf's mom 返信する

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alfmomさん、ストーリーを追う作品ではなく、どちらかというと感性に訴える作品だったので、しっくりこない面があっても全然不思議ではないです。他の是枝映画とも共通するのは、後からじわじわ余韻がこみ上げてくるという感覚でしょうか。私にとってはペ・ドゥナの魅力と相俟って大切な映画となりました。

2009/12/12(土) 午前 5:50 ヒッチさん 返信する

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ぺ・ドゥナ、ARATA、板尾創路の3人はこの映画でキーになる重要な設定。それにひきかえ、その周りの人たちの設定が希薄で表面的に終わってしまったことが残念です。それなら3人だけの物語にすればよかったのではと考えてしまいます。それでも気になる映画です。お返しTBします。

2010/3/11(木) 午後 10:06 シーラカンス 返信する

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シーラカンスさん、物語を側面的に膨らましているとみるのか、形骸化したステレオタイプとみるのかで見解が分かれそうです。脇役たちの存在について、私はあまり気にならなかったですけどね。TBありがとうございました。

2010/3/12(金) 午前 6:29 ヒッチさん 返信する

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ペ・ドゥナはリンダリンダリンダで活躍してました。綺麗な女優ですね。

2010/5/2(日) 午後 9:16 mossan 返信する

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決して絶世の美女とは思いませんが、目が離せません。私はペ・ドゥナの大ファンです。「リンダ×3」も好きな映画でした。

2010/5/3(月) 午前 7:57 ヒッチさん 返信する

本当に切なくて美しい、胸に突き刺さる映画でした。
「リンダリンダリンダ」の時とは違うペ・ドゥナの魅力にハマりました。
決していやらしくはないのですが、シーム(縫い目)のある肌の質感とか空気を失うときの手の動きとかゾクゾクするほど官能的でしたね。

2010/12/26(日) 午後 8:38 メロディ 返信する

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メロディさん、映像には細かいところまでかなりこだわっていますね。「リンダ×3」のペ・ドゥナも良かったですが、本作ではまた別の一面を見せてくれました。大変魅力的な女優さんです。TBありがとうございます。

2010/12/27(月) 午前 6:11 ヒッチさん 返信する

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