ヒッチさんの映画鑑賞日誌

邦画のベスト1は「二十四の瞳」

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彼岸花

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平成23年2月11日(金)DVD
☆5.0
1958年
監督:小津安二郎
出演:佐分利信、田中絹代、有馬稲子、桑野みゆき、佐田啓二、浪花千栄子、山本富士子、中村伸郎、清川晶子、北竜二、笠智衆、久我美子、高橋貞二、桜むつ子、渡辺文雄、高橋とよ

年頃の娘(有馬稲子)を持った父親(佐分利信)が、娘が自分に相談なしに結婚相手(佐田啓二)を決めたというので腹を立てて、結婚を許さないという。この頭の固い父親を知り合いの娘(山本富士子)が巧みな計略で結婚を許すと言わざるを得ないように仕向ける・・・。(あらすじは小津安二郎DVD−BOX第一集の解説より)

私の大好きなヒッチコックと小津の共通点。それは映画に散りばめられたユーモアのセンス。そして映像技術の進歩を自らの演出力の向上にきちんと取り込めているところ。サイレントからトーキーに切り替わる時期には数々の試行錯誤を繰り返しながら自らのスタイルを確立し、モノクロからカラーに切り替わる時期にはすでに円熟期に達して余裕のようなものがうかがえてくる。この「彼岸花」は大映から山本富士子を迎えて撮った小津のカラー第一作目である。山本富士子の気品と華やかさはカラーでこそより映える。色彩の豊かさとぬくもりを感じることのできる作品だ。

よそ様の家の結婚には寛容でも、いざ自分の娘の結婚となると封建的な頑固親父が、すったもんだの末に娘の結婚を祝福するという他愛のないお話である。描かれる家庭は中流以上、というより父親は大会社の重役で家にはお手伝いさんまでいるんだからブルジョア階級といってもいい。心配事は娘の縁談くらいなもので、いたって幸福で平穏無事な家庭である。経済的にもゆとりができて休日には箱根に家族旅行。この幸福で穏やかな日々がいつまでも続いて欲しいと父母は語り合う。

まず、父親の佐分利信。頑固親父を貫きながらも心の底で娘の幸福を願っている。娘とのわずかな行き違いを何とか修正したいと考えている。対する娘は有馬稲子。現代的な自らの恋愛を成就させたいし父親にも認めてもらいたいと思っている。そんな娘のよき理解者であり代弁者であるのが、母親の田中絹代。娘の選んだ男が信頼できる伴侶になり得るとすぐに見抜き、娘のことを応援する。実質的な一家の支えとして機能している。有馬稲子の妹役は桑野みゆき。彼女もまた姉の立場に共感して姉を支持する。

そんな一家に、京都から知り合いの親子が訪ねてくる。浪花千栄子と山本富士子だ。このふたりの漫才のようなかけ合いが実に愉快だ。山本富士子は嫌な縁談を押しつけられたと言って佐分利信に相談を持ちかけるが、「嫌なら断ってしまえばいい」という言質をとるための作り話だった。佐分利信はますます怒るが、山本富士子や田中絹代にかかってはかなわない。ほかにも佐分利の戦友である笠智衆とその娘久我美子の親娘のサイドストーリーを交えながら物語は展開し、最終的には万事解決する。この父親、自らの振り上げたこぶしを収めてくれた周りの人たちに密かに感謝しているのである。

結婚を巡って父娘の関係を描いたという点では「晩春」(1949年)や「秋刀魚の味」(1962年)に共通している。また、全ての小津作品の中でも気張らないユーモアの点では群を抜いていて、「淑女は何を忘れたか」(1937年)や「お早よう」(1959年)と同じくらい愉快で幸福な気持ちにさせてくれる。小津の名人芸が堪能できる。もう大好きな映画だ。何度見ても良い。何度見てもここに帰ってきたくなる。

浪花千栄子がお土産を持って訪ねてきたときのお手伝いさんへの台詞。「あんたやおへんで、おうちにどっせ。」バーLUNAでの高橋貞二演じる若いサラリーマンの台詞。「ああ、美味え、美味え。安くても自分の銭で飲んだ方が美味えや。おい南京豆きてねえぞ。」そして、全編に満ち溢れた軽妙なユーモアのうちにも、家庭における父親の存在感の変遷や恋愛の在り方など、時代の移り変わりを映し出している点も興味深い。

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おはようございます。この映画は小津作品初のカラー作品でしたね。そのお蔭でパッと明るくなったなと思ったものです。大映から起用した山本富士子の関西弁も良かったですね。浪花千栄子は流石に面白いです。家政婦は先ごろ亡くなった長岡輝子でしたね。高度成長にさしかかる頃のサラリーマンたちの姿が今では眩しいです。

2011/2/20(日) 午前 9:26 [ SL-Mania ]

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高橋貞二が良かったです。
佐田啓二ともども、夭逝されて残念です。

2011/2/20(日) 午後 1:12 [ oduyasu ]

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このシリーズほとんど見ました。
2003年の没後100年シリーズですね。
喜劇的なセンスが小津さんにはありますね。
貴重な作品です。

2011/2/20(日) 午後 2:19 [ dalichoko ]

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ポスターでしょうか?
顔と顔から↓の部分が不自然なのですね。
此の時代の映画のポスターに於ける共通点なのでしょうね。

出演者の何人かの名前は聞き憶えが有りますが、今尚、ご健在な方は何人居るのでしょうか。

2011/2/20(日) 午後 3:02 禁断の果実

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SL-Maniaさん、カラーになってからの小津の映画はますます良くなりました。カラーになってダメになった黒澤とは大違いですね。画面のどこかに小津の好きな赤や黄色を配置してあり、華やかさとぬくもりを感じることができます。

2011/2/21(月) 午後 9:55 ヒッチさん

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oduyasuさん、初めまして。ご訪問&コメントありがとうございます。
松竹三羽鳥ですね。佐田啓二も高橋貞二も交通事故で早死。いずれも小津映画には欠かせぬ名脇役でした。
oduyasuさんのブログを拝見させてもらいましたが、小津映画の様々なショットの細かい分析されていますね。大変勉強になりました。ありがとうございます。

2011/2/21(月) 午後 10:20 ヒッチさん

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chokoboさん、2003年は没後でなくて生誕100年でしたね。名画座や映画専門チャンネルなどでいろんな企画がありました。それはともかく、小津映画に対してchokoboさんと同じ感覚を共有できてとても嬉しいです。TBどうもありがとうございます。

2011/2/21(月) 午後 10:21 ヒッチさん

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禁断の果実さん、鋭いですね。このDVDの写真は、ご指摘のようにおそらくポスターか、あるいは宣伝用のスチールだと思います。この写真の有馬稲子、山本富士子、久我美子が3人で一緒に登場するシーンは映画本編にはありませんでした。主な出演者のうち、有馬さん、桑野さん、山本さんはご存命です。有馬稲子さんはトークショーなど、まだ活躍されていますね。

2011/2/21(月) 午後 10:29 ヒッチさん

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娘の結婚を前に揺れる父親の気持ち、
脚本が素晴らしく、30年ほど前の娘としての自分
そして現在の母としての自分の想いと重ねながら見ました。

映画の中で流れる「埴生の宿」がとても印象に残りました。
大好きな作品です。
以前、コメントを頂いていますが、TBさせて下さい。

2011/2/21(月) 午後 11:38 alf's mom

タイトルだけは知ってますぅ。。。(^^;

2011/2/22(火) 午後 11:06 [ esu**i123 ]

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alfmomさん、この映画のうちには色調も脚本もそうですが、小津の余裕が見えるんですね。温かさとユーモアにあふれ悲壮感がありません。込められたテーマは他の小津作品と同じですし、名人芸の極致というか中後期の小津のひとつの到達点のような映画だと思います。TBありがとうございます。

2011/2/23(水) 午前 5:52 ヒッチさん

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esupai123さん、機会があったら小津映画も是非ご覧になってみてください。小津作品の中でも「彼岸花」は特に好きな一本です。

2011/2/23(水) 午前 5:54 ヒッチさん

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