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ゴッホは、美術商の伯父の店で10年間熱心に働いていたので、絵画を評価する素地はもっていた。1880年(27才)に画家となることを決心し、ブリュッセルでデッサンの勉強を始め、1881年にオランダの実家に戻り、両親と暮らし始め、自宅に画室を作る。義理の従兄弟にあたる画家アントン・モーヴにも指導を受ける。画家としての活動した期間は、1890年夏37才で自殺するまでの、ほんの10年間である。ゴッホは、毎日一枚以上絵を描き続けたと思われるので、3,000点以上の作品があるはずである。
ゴッホの絵画を見て行くうちに、幾つかの特徴があるのに気付く。初期の頃は印象派を出発点とした油絵で静物画が殆どを占めている。それもおびただしい数であることに驚かされる。120年以上前の作品であるから、当時の絵の明るさは不明だが、性格的なものが反映しているのか、1885年までに描かれた初期の絵は、ほとんどが暗い色使いをしている。後期の絵にあるような強烈で個性的な明るい色彩豊な絵画ではなく、現代の我々が描くような個性の無いドス暗い絵である。当時どこの家にもあった食器・瓶・野菜・果物・花などが対象である。1886年以後は明るい静物画に一変している。名も無いゴッホが、当時の時代背景から、このような絵が売れたとは、とても考えにくい。そのため、兄弟の援助を受けながら、極貧の生活を余儀なくされたのは当然である。
南フランスのアルル地方に移り住むことにより、風景画を描くようになり、後世評価われるような明るい個性的で強烈なタッチに変わっている。11人の友人を呼んだが、来たのはゴーギャンただ一人だけであった。二人はアルル地方の雄大な風景に没頭した。ゴッホは、刈入れ間近の黄色い麦畑、大きな糸杉、農家、丘陵、星空、カフェなど、故郷のオランダとは隔絶した世界のアルルの風景をおおらかに描いている。ゴッホにとっては、実に感動的な世界であったのである。この頃のゴーギャンの絵を見ると、ゴッホに影響されたような強い筆のタッチがみえる。
ゴッホは耳の形がおかしいとゴーギャンに言われ、耳を切り落としてしまった。不和がもとで、ゴーギャンが逃げ出した。友人を失ったゴッホは、ブリュッセルにもどり、精神科医に通う生活をしながら絵を描き続けた。最後は散弾銃で自殺を図ったのか、恐怖に駆られた周りの人に撃たれたのか不明だが、2日後に亡くなる。いわゆる天才と気違いを地で行くような強烈さで、時代の趨勢を冷静に見守ることから隔絶した人間性の持ち主であったのかも知れない。
しかし、ゴッホは廣重の版画を模写しており、色彩に富んだ東洋の抽象画の典型である浮世絵に対して、どんな感慨を持っていたのか不明だが、絵画の新しい世界を模索して悩み続けたのかも知れない。この時代、印象派は下降線を辿っており、個性的な抽象画の台頭が始まっていたので、ゴッホはその時代背景の波に乗っていたのであるが、本人はそれに気付くことはなかったのであろうし、気付いていたら自殺などすることはなかった筈である。自殺したことを幸いに、ゴッホの絵画は、才能を予見していた親戚の画商が引き取り、莫大な利益を得たという事実は、実に皮肉なことである。
(挿絵 Gogh「星空」(アルル地方) 1889年6月)

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