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二階建てアパート(2階左コーナーが小生の家)とその専用駐車場
『英国人の雑学』 1985年11月15日
食事は生活の基本であるが、英国人は概して味には頓着しないようだ。レストランでの英国料理ほど、まずいものはない。味付けは良くないし、料理の仕方にも問題がある。こう思うのは、外国人である日本人やイタリア人の友だちの意見である。その証拠に、中華料理のTake-Away(お持ち帰り)に人気がある。中国人の Take-Away は決して美味いとは思わないが、他に選択の余地がないので仕方なく買い求める。中国料理が英国でも繁盛しているのは、中国人の味覚が敏感である証拠だと思う。日本人も味にうるさい人種である。その証拠に素材を活かした微妙な味を出す料理が発達した。味に敏感な民族は、同時に美術的な感覚にも共通性がありそうだ。
フランス人がその典型である。フランス料理は、ほんの50キロのドーバー海峡を隔てただけで、雲泥の差が生ずる。お隣の英国とは比べ物にならないほど美味しいことは、世界が認めている。一般に、フランスも含めラテン民族の料理は美味しい。フランスと同様にイタリア、スペイン料理など、どれをとっても世界の一級品だ。食文化と芸術の間には、何か関連するのだろう。それとは反対に、北欧民族には、このような微妙な感覚が劣っているのではないかと考えるのは早計であろうか。カルパッチョのような生の魚の切り身を食べる習慣は、日本に似ている。
東南アジア、中近東、中南米の暑い地域の料理は、香辛料を使った刺激が強いものが多い。適度な料理は、温暖な地域に発達するという説はどうだろうか。多分、作物・家畜・魚介類の成長に丁度よい地域である。味覚の上でも優れたものが出来、年間を通して季節に沿った素材が豊富に手に入るので、自然に料理の味も創造されていったと考えられる。
芸術の中でも、音楽に関しては、欧州全体に優れた作品が存在し、南北の差は無いように思う。音楽は、味のセンスと直接関係無いのかも知れない。音楽は、国王や貴族や富裕層のたしなみであり、財力のある国に優れた作品が多く残っている傾向がある。優れた音楽家を金銭的に支えた背景も見逃せない。
英国人には悪いが、国内を旅してみて芸術的な感じのするものがあまり見当たらない。城の中の肖像画は芸術の範疇には入らないし、教会の装飾にも殆ど芸術的な香を感じないのは私だけではないと思う。十七世紀までの英国は、ヨーロッパの田舎であった。他のヨーロッパの国に比べ、富の蓄積において劣っていたと考えられる。富の蓄積は芸術の発展と大いに関係があり、富の蓄積の無いところには芸術は育たない。芸術の価値を認める人たちは金銭的に余裕のある階層だからだ。見栄っ張りで優雅な上流階級が存在しなくてはならない。エジプト、ギリシャ、ローマ時代にはそれが可能だった。芸術とは、それを財産として所有する階級によって価値が異なってくる。エジプトの石像も、当時の一つの素晴らしい芸術で、王の権威と財力の象徴だった。中世イタリアの芸術は、シルクロードを経由する東洋との交易品により富を得たイタリア商人たちによって支えられた。スペイン・ポルトガルによる海路の発見による輸送コストの低減に負けたイタリアは、芸術もそれと共に下降して行く。次第に海運国であるスペイン、オランダ、英国への富の集中が起こった。当時の海洋貿易では、今日のような適性価格での取引ではない。植民地では、只同然の労働力を利用し、または略奪に近い方法で手に入れた商品は、ヨーロッパで高く売れ、莫大な利益をもたらした。この莫大な富が、ヨーロッパの芸術の香をより高いものにしていった。フランスも早くからイタリアの影響を受けていたので芸術的には、ほぼ完成されたものを見ることができる。当時の英国は十六世紀まで、イタリア・スペインのカトリック教会の支配下に置かれていたことと、富の蓄積が無かったため、その発展が二世紀近く遅れた。英国は、十六世紀の終わり頃から、芸術より富国強兵に力を入れ、経済の遅れを取り戻そうとし、科学や技術に力を入れた。その技術力が、スペインの無敵艦隊を破る原因になったのである。その大きな理由は、大砲の発射するスピードが、スペイン艦隊のニ倍だったからである。これは、一艘の戦艦にニ倍の大砲があるのと同じことで、破壊力もニ倍になる。技術力の勝利と言える。
出遅れた芸術は、自分で創作せずに他国より略奪したり、戦勝の証として手に入れたり、または貿易で稼いだ財力で手に入れた。英国人は元来、芸術的な感覚に乏しく、味覚に鈍感な民族であると信じている。大英博物館やナショナルギャラリーに行って見ると分かるが、世界中から何世紀にもわたって収集した美術品や遺跡は多いが、残念ながら価値のある英国品にはお目に掛かれない。大英博物館は、世界史の宝庫であり、英国の世界支配史であり、独自の文化に基づくものではない。
今回の長期滞在以前に、想像したり英国人から断片的に聞いたりした英国のイメージは、今回の滞在で殆ど間違っていたことに気がついた。気位が高く、他国人、特に東洋人には心を開いてくれないだろうと想像していた。また、輸入物価が驚くほど高いのだろうと想像していた。このニ点については、私の先入観を訂正せざるを得なかった。六年前にブラジルで会った英国人は、十年も使った私の一眼レフカメラを原価で買ってくれたし、ヤマハのトランペットを買うために、わざわざブラジルからニューヨーク経由で帰国した人もいたのだからだ。町のショーウィンドウを覗いてみても、日本での店頭価格よりむしろ安いとさえ思えた。六年の間に、そんなに英国の物価が変ったのであろうか。また、以前英国人と英国以外の国で一緒に仕事をする機会が何回かあったが、悪い印象しか残っていなかった。インドネシアでもブラジルでも出会った英国人は、人を見下げるような態度があった。多分海外に出稼ぎに出るようなエンジニアは主流ではなく、英国で製図画きでもしていたような程度の連中のようだったのかも知れない。物価の点でもパリと同様にロンドンは安い。食料品は日本の70%、肉は30%、家賃は50%、土地付き中古住宅は半値以下、電気製品は秋葉原並み。ガソリンはほぼ同額だが、高速道路料金は無料。大都市間の高速鉄道の料金は、日本並みだが急行料金が不要なのでその分安い。これだけ取り上げたら天国のように思うかも知れないが、残念ながら言葉のハンデの点で壁にぶつかってしまう。南欧からの新鮮な野菜は、貿易障壁は無く関税も低く、英国の消費者はその恩恵に浴している。域内では輸入は無税に近い。柑橘類・葡萄・梨・野菜・バナナ・マンゴ・サクランボなど、何でも新鮮で安く、豊富に出回っている。ガス・電力も安く、北海油田の恩恵にも浴している。物価も安定しているようで、言葉と薄暗く寒い冬季を除けば、暮らし難い国ではないように思える。
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2015年08月18日
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