一点入魂!

全券種一点予想に挑んでいます。笑っちゃうほど当たりませんが(笑)

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…昼食用の弁当や飲み物をコンビニで買い揃え、二人はまたもデート…に近い、行為をする事となった。


奈津美が当座の目的地に挙げたのは、石本山(いしもとやま)という山の頂上付近にある観光公園…金太刀平(かねたちだいら)だ。

石本山は晴西地区の中心にそびえる山である…いや、晴西地区自体がこの山の事を表すと言っても良い。

晴西地区は石本山のふもとや山中を切り開いて造成されたモノで、優斗が住む所の様に、結構の斜度の坂道が多いのはその為だ。

その坂を登ると、頂上付近は観光道路も整備されていて、金太刀平にはそこを通って向かう…

こうして市民生活と密接に関わり、観光地としても機能している山なので、ちょっとした散策やピクニックなどには大抵この山…そして、金太刀平に向かうのは晴西地区民の定番である。

二人も子供の頃、小学校の遠足やらなにやらで、よく訪れている。


「…ホントは、寄るつもりではなかったんだけどね…」

…奈津美は観光道路の道すがら、優斗のトコロに訪問しようと思い立った理由を話し始めた。

「母さんから…ユウくんがよく、アパートの近所で歩いてるって聞いて…」

「ああ…おばさんとも会った事あるぜ」

「うん、それも母さんに聞いた…ほぼ毎日、欠かすことなく頑張ってるって…」

「…そうか」

「…それで、さ」


奈津美は…笑顔を見せて語ってはいるが、何かを言い辛そうにしているのは明らかな語り口である…


「…どうした?、聞きたい事があったんじゃないのか?」

「…イヤな気持ちにさせたら、ゴメンね…母さんに、近所のウワサ話を聞いたんだけど…」

「…『ほぼ毎日、変質者らしき男が見かけられてる』って、ハナシか?」

「…!」

「その男は…

『30代くらいで、小柄な小太り…いつもショルダーバックを背負っている』

…だろ?」

その変質者の特徴は…明らかに優斗の姿を連想させるモノだった。

「惜っしいなぁ〜!、杖もちゃんと見とけっての!」

優斗は…笑いながら腕組みをした。

「ユウくん…どうしてその事を?」

「…そうなるだろうと思ってはいたさ。

端から見りゃあ、イイ歳した男が仕事もせずに毎日、散歩(ウォーキング)してんのは、不自然な光景だろうさ」

優斗は目を瞑り、助手席のシートに寄りかかる…

「父さんも…似たような目に会ってたしな。

歩き始めると決めた時から覚悟してたよ」


優斗の父…繁も、帰宅後は熱心にウォーキングに取り組んでいた。

だが、何度か…不審者として、通報される事もあったのである…


「うん、覚えてる…でも、その子供の頃から思ってたけど、頑張って歩行訓練(ウォーキング)してる人を、そんな風に思うなんて…ヒドイよ」

奈津美は悲痛な表情で唇を噛んだ。

「いつから…ウワサの事を知ってたの?」

「ん〜…気付いたのは親子連れとすれ違った時に、子供の方が俺の歩き方が不思議なのか、ジ〜っと見てきたから、目が合った時に笑い掛けたら、親がその子を抱えて逃げた時…かな?」

「もう…!、ユウくんのどこをどう見たら、そんな発想になるのかなぁ!?」

奈津美は口惜しそうにハンドルを叩く。

「…障害を装って、女の子にイタズラしようとしたなんてニュースもあるしな…

見た目若いから、こんなビョーキになる訳がない!…って、ソッチを疑われたんだろう…」
 
「ユウくん、達観し過ぎ!、怒ってもイイ事だよ!」

奈津美は妙に冷静にこの事柄を受け入れている、優斗の態度に苛立つ。

「達観しなきゃあ…このカラダとも、世の中とも…上手く付き合って行けねぇよ。

…生き抜くと、決めたからにはな…」

優斗は遠くでも観る様に、車内灯を見つめた…


…優斗が積極的に動くコトを決めたのも、その『生き抜く』という決意からだ。


『馬生』に関わる怪我をしても、戦う気持ちを絶やさないクロテン…

そんなクロテンを、あの致命的だとも言える状況でも、決して諦める事無く、強い意思でそれを支え、その思いに報いてやろうとする石原(にんげん)たち…

そんな彼らとの邂逅が、彼の気持ちを変えた。


『たとえ勝てなくなっていたとしても…、どれだけの時を要しても…、必ず戦場(けいばじょう)に復帰させる』


…その姿勢に、彼は心を打たれた。

自分も…たとえ何も出来なくても、生きていられるのなら、精一杯生きてみようと…

彼(クロテン)の様に…一縷の希(のぞみ)に賭け、そして、足掻いて…


「私は…決意を知っているからこそ、余計に口惜しいんだよ…」

奈津美はそうつぶやき、口を結んでアクセルを踏み込んだ…






金太刀平に着いた二人は車を降り、鬱蒼とした木々に囲まれた散策道を二人で歩いた。

「はぁ…標高が上がると、良い具合に涼しくなったねぇ…」


奈津美の言う通り、山の頂上付近という地形もあるが、生い茂った木々も恰好のカーテンの役割を果たしていて、強い日差しを上手く遮断してくれている。

観光地として整備されている金太刀平には、駐車場から少し歩いた所にBBQなども出来る、広めの敷地が整備されている。

二人はソコで昼食を摂ろうと決め、ゆっくりと歩を進めていた…


「…あ?」

駐車場に向かっているのか、前から近づいて来た父娘(おやこ)連れの父親が、優斗の姿を見て声を挙げた。

「ひょっとして…臼井かぁ?」

「あ…!?、若松(わかまつ)さん…」


…声を挙げたのは、若松 慎平(しんぺい)という、例の養鶏場で補鶏(ほちょう)班に属している男…

部署の違いはあるが、面識や接点も多い、優斗の元同僚である…


補鶏班とは文字どおり、出荷出来る段階までの飼育を終えた鶏を捕獲し、鶏舎から出荷するセクションである。

…同僚とは言っても、彼は労引社の人間ではない。

『曾孫請け会社』の労引社ではなく、その一社(ひとつ)手前…労引社の『協力企業』である『山根通運(やまねつううん)』の人間だ。

『協力企業』と言えば聞こえは良いが、補鶏作業を請け負ったのは山根通運の方で、労引社とは足りない労働力を補うためのカンケイ…つまり、労引社は『下請け会社』だ。


…だが、山根通運は『一種の』人材派遣の元請けという立場である。


『一種の』と強調したのは、これは法律上の『人材派遣』の定義には当たらないからだ。

当時の優斗は『労引社の正社員』であるワケで、肩書きからいえば列記とした『正規労働者』である…

つまり、山根通運からすれば非正規の賃金で雇(つか)える正規労働者となるわけで、なんとも都合の良い存在なワケだ。


…若松の姿を自認した優斗は、明らかにイヤな顔を覗かせた。


以前、養鶏場の労働環境には『ワーカーズカースト』的な序列が存在すると述べたが、部署ごとよりも会社間の序列はもっとヒドイ…

いわゆる『パワーハラスメント』に因る、侮蔑や恫喝の類も日常だった…

それが…日本の『底辺』の現状であり、真実の姿なのである…


「こんなところで…つーかお前、歩けるのかよ?」


開口一番、優斗の姿を見た感想がコレである…

確かに…肉体労働者間に、知性や教養を望むのは贅沢かもしれないが。


「それに喋れるんじゃねぇか…ハナシと違うだろ」


…口調を聞いても粗暴で、いかにもガテン系の人間だというのは解って貰えると思うが、それにしても大病を患い、障害までが残った元同僚と再会した時に掛ける言葉ではない…


優斗はイヤな顔を強くしたが、若松はまったく気付かずに話し続ける。

「どうしたのよ?、ナニしに来たんだ?」

「友達に…誘われましてね」

「…誘われたぁ?」

…と、若松は反復し、優斗の隣にいる奈津美の姿をギロっと凝視した。

奈津美も先程からの優斗に対する若松の態度に怒りを模様していたが、ソコはグッと堪え、小さく会釈を返した。

「へぇ〜…」

若松はジロジロと、奈津美の全身をナメ回すようにさらに凝視した。

(…なに?、失礼な人だなぁ…)

奈津美も優斗と同様に嫌悪の表情を見せるが、若松はまたも気付かずに居た…

「若松さんは…家族サービスですか?」

「おう、まあな…ところで、臼井よぉ…」

若松はニタニタとイヤらしい、笑みを見せて…

「『彼女』連れで、遊びに歩いてるてるなんて、良い御身分じゃねぇかぁ…?」

…と、嫌味丸出しの言い方と表情で、今度は優斗をナメ回すように観た…


本来なら…

『彼女じゃない!』

…と、二人揃って否定するトコロだが、それを忘れてしまう程、若松の言い方は実に勘に触る…


「もう働けねぇって聞いてたが…今、ナニしてんだ?」

「何って…何もしてませんよ、働けませんからね…」

「ハァ?!、じゃあどう生活してんのよ?」

「今は…社会保険の傷病手当が出てるんで、それで…」

「あれって確か…休んでから一年半までじゃねぇか?、…切れた後は?」

若松はやたらとプライベートな部分にまで突っ込んでくる…それは職場での会話でも同じだった。

「後は…障害年金で暮らすしかないでしょうね」

「…年金!?」

若松は顔色を変え、あんぐりと口を開ける。


「はぁっ〜その若さで、優雅な年金暮らしですかぁ〜!」


…若松はさらに嫌味ったらしく優斗を罵る


「俺たちから、お国は散々絞り取ってるクセに、使い方がこれだよ!

働けなくなった年寄りを支える…とかってんなら、百歩譲って納得出来っけど、障害やビョーキなんて、自己責任だろうよ?!」


(…!!!、なっ…!?)

この若松の発言に、奈津美は嫌な顔どころか、憤怒の表情を浮かべた。

…いや、無知という表現すら足りなく、怒りというよりも呆れと言った方が正しいその発言に、奈津美は我を忘れそうになった。

「ちょっ…!」

奈津美は若松の発言を制止しようと動こうとするが、若松の口は止まらない。

「な〜んで、俺たちの税金(かせいだかね)で!、自己管理の悪いヤツらの尻拭いをさせられ…」


ガシッ!


…と、その時…誰かが若松の肩を掴んだ。

「…ちょっとアンタ、黙って聞いてりゃあ、バカ丸出しの演説して…」

「…あっ!、ママ!」


…肩を掴んだのは、若松が連れている子供のこの反応を見る限り、どうやら若松の妻のようだ。


「おっ、お前…」

「…ソーシャルワーカーの夫(ダンナ)が、そんだけ無知だと宣伝されちゃあ…恥ずかしくて出勤出来なくなるわよ!」

若松の妻はそう言って、若松の頭を小突いた。

すると若松は、まるで塩を掛けられたナメクジの様に小さくなり、急に黙り込んだ。

若松の妻は優斗たちに目を向け、苦笑いを見せながら二人に近付く。


「…すいませんねぇ、ウチの夫(バカ)が失礼な事を…って、アレ?」

若松の妻は奈津美の顔を見て、驚いた表情を見せた。

「もしかして…小野ちゃん?」

「えっ…?」

「ほら!、アタシよ!、泉別病院で一緒に…」

「…あっ?!、住田(すみだ)さん?」

「そう!、うわぁ〜!、久し振りねぇ〜!」

「ナツ…知り合いか?」

「うん!、7年前まで、泉別病院(ウチ)でソーシャルワーカーを勤めていた人で…

そういえば、旧姓で働いてるって…」

…若松の妻は、なんと奈津美の元同僚だった。

「そう…でも、危惧ねぇ〜!、こんなトコロで再会するなんて…

私たちは、娘を連れてのピクニックだけど…小野ちゃんは彼氏とデートかなぁ?」

「ちっ!、違いますよぉ〜!、『友達との』散策です!」

…奈津美はようやく、優斗との間柄を否定する事が出来た。

「…ま、そーゆーコトにしとくわ。

えっ〜と…」

若松の妻は、優斗の方に目線を移した。

「あっ、臼井と言います…

ご主人とは養鶏場で…」

「…ええ、こう言っては何ですが、お噂は夫から聞いています…

脳…疾患を、患った方が居ると…」

若松の妻は鎮痛な面持ちで、優斗に向けた頭を下げた

「…ごめんなさいね。

私が病気の事を浅く教えたせいで…この人、それを鵜呑みにヒドイ事を並び立てたんでしょう?」

「いえ、そんな…」

「年金の事も詳しくは知らないクセに、アレもテレビや週刊誌の受け売りでしょう…ホント、お恥ずかしいです…」

謝り続ける妻の姿に若松は顔をしかめ、だんまりを決め込んだままだ。

「どうかお気になさらずに…

障害年金や障害者手帳は当然の権利なんですから…引き目に思う必要は無いんですよ?」

若松の妻はそう言って、優斗の手を強く握った。

「では…小野ちゃん、これからもお元気でね。

…ほら!、アンタ!、行くよ!」

妻はギロっと若松は睨み、彼の尻を叩いた。

「へ〜い…じゃあな、臼井」

「…はい、養鶏場の皆さんにもよろしくおっしゃってください…」

優斗はそう言って会釈し、若松ファミリーと別れた。

…二人から少し離れた所で、若松がまたも妻から小突かれる姿を見ながら…


「…ナツ、早く行こうぜ。

ちょっと…疲れたわ」

「あっ!…うん、公園部分まで、もう少しだから…」

二人はまた、公園部分に向けて歩き出した…


…その道すがら、奈津美は思った。


自分(りょうほうし)たちが懸命にリハビリを施し、退院(しゃかいふっき)させても、病院の外で待っているのは…今日、見せつけられた優斗に対する世間の反応なんだと。

皆が患う苦しみや、せつなさを共感出来る場所に居る奈津美は、自分がいかに無知だったのかと思い知らされた…そんな中で『生き抜く』のには、こんなにも勇気が必要なのかと。


一歩一歩…ゆっくりと歩く、優斗の姿を後ろから見ている奈津美は…

(…深い縁があって、こうして今も自分の目に留まる…ユウくんだけでも、可能な限り手助けしてあげたい…)

…と、思っていた。

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