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書庫非・日常の溜息

非日常的な? 日記。。。?
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上高地は河童の世界に


 7月のある雨の日、妻と二人で信州、上高地へ出かけた。

 芥川龍之介の小説、「河童」の舞台になった地である。

 芥川はよく上高地を訪れていた。

 おそらく、彼は河童と出会っていたのだと思う。

 「そう言えば、尾瀬ではあんなにカエルの鳴き声が聞こえたのに、上高地ってカエルの声が聞こえないね」
 「そうね、それに、蛇も見かけたことないね」
 「なぜだと思う?」
 「なんで?」
 「河童が食べちゃうのさ」
 「うっそ〜」

 私たちはそんな話をしながら、霧の中の道を歩いていた。
 すると、笹の茂った中でがさがさと音がして、笹が揺れた。
 まさか、熊!?

 すると、熊にしては小さすぎる獣が少し前に歩いて出た。
 「え?!熊??」 と妻が私の腕をつかんだ。
 「いや、まさか、ずいぶん小さいよ。あれは猿だよ」

 上高地の猿は人を恐れないし、人に近づいてきたりしない。
 道ですれ違っても何食わぬ顔だ。

 「そっか、猿だね」
 「芥川も、こんな日に猿を見て河童だと思ったのかもしれないな」

 その時だ、視界が定かではない中で、四つ足だった小さな体が、すっくと立ちあがったようだった。
 あれ?人間? ビニールの雨ガッパにザックを背負ってる。

 そして一瞬、風が動いて霧が切れた。
 そこに見えたには、ザックを背負ったハイカーでも、もちろん小さな毛だらけの猿でもなかった。

 ビニールと思ったのは、ぬめりとした感じの肌だった。リュックと思ったのは、カメのような甲羅だ。
 振り向いた顔には、嘴が、と、思ったときにはまた霧が深くなり、そいつは笹の中に隠れてしまった。

 「今見た?」
 「え?何を?」

 言ったところで信じてもらえるわけはない。自分だって自分の目を疑っているのだから。

イメージ 1
  しかし、今は疑っていない。それというのも、帰ってから写真を整理していて見つけたのだ。
  河童の世界への入口を。

  あの河童を見かけた少し前に撮った写真だ。
  木の根が、又のように口を開けている、その向こう側を見てもらいたい。切り取られたように空間がずれて、その向こうから、何者かがこちらをうかがっているではないか。





  いかがであろうか。。。




バラの咲く下に

 我が家の近所に、綺麗な白バラが咲く家がある。

 無造作に植えられた白いバラは、大輪の花が終わり、無造作に切り戻されると、春には驚くほど元気なシュートを伸ばす。

 やがてまた見事な白バラを咲かせるのだ。

 ところがこの家、住人がしょっちゅう入れかわる。

 4年ほど前それまで住んでいた家人が引っ越すと、すぐに次の住人が越してきた。

 一年ほど住まっていただろうか。

 白バラが咲くころ引っ越してしまった。

 次の住人も1年ほどで越してしまう。

 引っ越しがあるたびに、荷物の搬入の邪魔になるのだろうか、バラはバッサリと切られてしまうのだが、驚くほど見事に再生する。

 そして次の住人がやって来る。

 どうしてこんなに落ち着かないのだろう。

 閑静な住宅街で、角地とはいえ、2方とも住宅道路で、特に交通量が多いわけではない。

 築後6年程度、日当たりのよい一戸建て。良い物件なのだ。

 気になるところと言えば、丘を開いて開発された住宅街の入口近く、つまり一番低いところのせいだろうか、道路の排水溝やマンホールの周囲がいつも濡れている。

 水の集まるところは、ある種の気が集まると言うが。

 最近の住人は、わずか3カ月程度で引っ越してしまった。

 ふと気付くと、例のバラが大きく伸びている。

 そして、今まで気付かなかったのだが、いくつかのシュートの先に、なぜか深紅の花が付いていた。

 まるで、血のような深紅の花が。



                         おわり



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 宇宙開発計画のひとつ、『ハニームーン・プロジェクト』をご存知だろうか。

 長期滞在型の宇宙ステーションで、無重力空間における人類の生殖行為、妊娠、出産についての研究、実験の国際プロジェクトである。

 人類が宇宙空間へその生活圏を拡大するうえで、大変重要かつ実際的な研究テーマで、参加各国からも大変注目されているプロジェクトなのだが、テレビ中継や放送などというかたちで地球にレポートするにはいろいろと難しい事情もあり、あまり大々的な宣伝は行われていない。

 実験は、長期滞在型宇宙ステーションに夫婦の研究者を送り込み、子作りに励んでもらおうというものだ。きわめて興味本位の報道になる可能性などが議論された。

 夫婦は個人情報保護の立場から、ミッション名で呼ばれた。はじめ、アダムとイブでどうかという提案がなされたが、その目的が容易に推測出来すぎることと、キリスト教以外の宗教、特にイスラム教に配慮されて取りやめになり、結局、グランパとグランマというコードネームに決定した。

 ただ、グランパとグランマにはなかなか妊娠の兆候はあらわれなかった。正直なところ、二人はやや焦り始めていた。

 ある日、グランマは船内で整備を、グランパは船外で太陽電池パネルの掃除を行っていた。

 グランパがふと月の方を見やったとき、巨大な桃のような形をした、船としては小型の宇宙船が漂流してくるのが見えた。

 レーダーで監視しているはずなのに、こんなに接近してくるまで気付かなかったとは、大きな問題だった。しかし、まずはその宇宙船を拾い上げることが重要だ。

 二人は協力して強大な桃の形の小型船を拾い上げ、格納庫に取り込んだ。

 「どうする?」

 「どうしましょう」

 「開けてみよう」

 「本部の指示を仰がなくていいでしょうか?」

 グランマはやや心配そういったが、グランパは、「大丈夫、大丈夫」といって、船のハッチらしき所を探しはじめた。

 「ないなあ」

 「船じゃないんでしょうか」

 「よし、これで切断しよう」

 そう言ってグランパは高出力レーザー切断機を取り出した。

 それから間もなく、レーダーに巨大な宇宙船が映ったかと思うと、その宇宙船はたちまちステーションに接近してきた。

 『こちらは門星宇宙パトロールです。応答願います』と、巨大宇宙船がコンタクトしてきた。

 「こちら宇宙ステーション、ハニームーン」

 応答すると、船内のモニターに、なんとも恐ろしげな形相の宇宙人の顔が映し出された。

 ギョロギョロと大きな目玉。 おおきく胡坐をかいた鼻。 耳まで裂けた口からは、黄色い牙がにょっきりとはみ出し、同じようにまがまがしい角が、額の両側に生えていた。

 『われわれは、わが星から大切な財宝を盗み出した宇宙海賊を追っている。この辺りで見失ったのだが、何かご存じないだろうか』

 恐ろしげな鬼は、案外礼儀正しくそう言った。

 「宇宙海賊ですって?」

 『そうです。本船は拿捕したのだが、首魁とその側近は脱出用のポッドで逃げ出したのです』

 「そのポッドをこの辺で見失ったと?」

 『ちいさなポッドで、しかもステルス機能に優れているので、補足が難しいのです』

 「大きさはどのくらいですか」

 『直径にして2.5m程度で、やわからいボールを二つ押し付けたような形をしています』

 グランパとグランマは互いの顔を見合った。

 「それは、桃のような形ですか?」

 『モモ? なんですかそれは?』

 「いえ、それで、財宝というのはどんなものですか?」

 『巨大なエネルギーを秘めた宝です。どんな願いもかなえる力があると聞いています』

 鬼は真顔で、いや、ずっと真顔だったのだろうが、そう言った。

 ふたりは再び顔を見合わせた。

 「そうですか、あいにくですが私たちは何も知りません」

 今度は鬼は悲しげな表情をして見せた。いや、そう見えただけで、疑いの表情だったのか、さらに厳しい決意の表情だったのか、本当のところはわからなった。

 『そうですか。もう食料もないはずなのです。小さな脱出用のポッドですから、きっとどこかで補給しようとするはずです。もし接触があったら、この周波数でご連絡をお願いします』

 鬼たちはそう言って去って行った。こんな騒動になっても地球の本部からは何も問い合わせてこなかったところを見ると、彼らの技術力が地球のそれをはるかに凌いでいて、下の連中は気付いてさえいないに違いない。

 グランパとグランマの二人はそう思った。そして、格納庫の方へと向かった。

 「どれが、そのお宝なのでしょうね」

 格納庫には、高出力レーザー切断機で、真っ二つにされた脱出ポッドがあり、わけのわからない形のガラクタが大量に散らばっていた。

 そしてその中には、獣の毛皮が二枚と鳥の羽毛、小型の動物らしき骨、そして、生命維持用のカプセルと思われる容器と一緒に真っ二つにされた、陣羽織のような錦の宇宙服を着た童顔の海賊の遺体が、乱暴に放り出されていた。

 それから数時間後の地球本部の監視センターでは、当直のスタッフたちが苦笑しながらある作業に追われていた。

 「おい、また少し軌道がずれたよ。修正するこっちの身にもなってほしいよ」

 「あのふたり、盛んだからなあ」

 「その割に結果が出ないけどね」

 「それで余計がんばってるんだろうよ」

 「でも、軌道がずれるほどというのはなあ」

 「次はもう少し淡泊なペアを選んでほしいもんだな」

 この日から間もなくして、グランマの妊娠が伝えられた。

 生まれた子が桃太郎と名付けられたのは言うまでもない。


                       おわり



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見るからに

 あなたは、浦島太郎のお話を知っているだろうか。

 ある日の通勤途上、私は数人の不良達がひとりの被害者を取り囲み、明らかに恐喝に及んでいる場面に出くわした。

 不良たちは、遠目にも見るからに不良のいでたちで、だいたいあの被害者は、どうしてあんな連中に近づいたりしたのだろう。

 それにしても、私も浦島太郎なみの出しゃばりだ。なまじ、学生時代には、彼らと同類かそれ以上の不良であったのが悪かったのだろう。

 私は、その一団に歩み寄り、声を掛けた。

 彼らは、凶暴な表情で私を睨み返したが、どんな巡り会わせか、「けっ、今日は勘弁してやる」と、その被害者と私を解放して去って行った。

 すでに充分に目的を果たしていたせいであろう。いくら昔はストリート・ギャングのメンバーだったとはいえ、今では白髪さえ染めないノーマルの髪を七三に分け、誰が見ても地味すぎるだろうというような眼鏡をし、いまどき就職活動の学生さえ着ないような紺色のスーツを着込んだ私を恐れたということはあるまい。

 助け出した男を見て、私は、なんとなく不良たちの標的にされた理由がわかったような気がした。
 身長は150cmに届かないだろう。妙に光る玉虫色のスーツはヨレヨレで、あちこちに泥や土がついているのは、彼らに足蹴にされたせいに違いない。そんなスーツの上からも、とんでもなく痩せ細った体格が見て取れた。

 そのやせ細った身体に、全く不釣合いな大きな金柑頭にはひと目でそうとわかる帽子のようなかつらが、やや左に傾いて載っている。

 不良達に襲われた恐怖のせいだけとは思えないほど顔色が青く、大きいが卑屈そうな表情の目は、それでまっすぐ前が見えるのだろうかというほど左右に離れている。

 鼻は凡そ立体感がなく、薄い唇は驚くほど横に広がっている。

 例えると、青い風船に研なおこの似顔絵を描いて、かつらをかぶせたような男だった。

 ひとを外見で判断してはいけないと、わかってはいるのだが、「それでも」の感である。

 「どうもどうも、ありがとうございます」

 その小男は、半分は息が抜けてしまったような声でそう言った。

 「ひどい目に合いましたね」

 「はい、どうしてこんなことをされるのか」

 「まったく、ひどいやつらです。しかし、なんだってあなたは、あんな見るからに危ない連中を避けて通らなかったのですか」

 私は、気の毒だとは思ったが、「あんな連中に捕まったあんたが悪いんだ」と言わんばかりに尋ねた。

 「そうなのですか?見ただけで悪い連中が判るのですか」

 「だって、どいつもこいつも金髪で、ガングロやらガンシロやら、どうみても悪そうだったじゃないですか」

 「そうですか。勉強になりました」

 その男はポケットをまさぐると、「これはお礼です」と言って、小さな箱を取り出した。

 「え」

 私が戸惑っていると、いつの間にかその男はその場を立ち去っていた。

 私は、その日のことも、小箱のこともすっかり忘れていたのだが、数日後に大変なことになった。




 それは全く唐突に、やってきた。

 空を埋め尽くすのではないかと思うほどの宇宙船が飛来したのだ。

 しかも、宇宙船は有無も言わさずに人類に対して攻撃を仕掛けてきた。

 一見それは無差別な攻撃のようだったが、実は確実に標的を選別した攻撃だったのだ。

 テレビニュースを見入っていた私は、ダイニングテーブルに放り出してあった小箱が、「ピー、ピー」と音をたてているのに気づいた。

 なんだろう。私は小箱を取り上げて、ようやくあの日のことを思い出した。

 あの後、開いてみようと思っても開かなかった。それで、投げ出しっぱなしになっていたのだ。

 私は、今一度その小箱を開いてみた。

 今度は、「プシュッ」と音をたてて開き、中から白い煙が立ち上った。

 「わ」と驚きはしたが、これといって匂いも何も変化がなかったので、気づかなかったが、実は私自身にある変化が起きていたのだ。



 恐怖の攻撃が終わって、宇宙船が去って行った後、地球上には、黒髪の黄色人種の子供と中年、老人だけが残った。

 つまり、金髪や茶髪で、色黒や色白の、眉の薄い若者たちが一人もいなくなっていたのだ。

 宇宙船で拉致されたのか、私たちが知らない兵器で抹殺されたのかわからない。

 そして、私はいかにも生真面目そうな、黒髪に眼鏡の中年男に変身していた。



 「これで、この星も平和でやさしい人ばかりの星になりましたね」

 鏡の前で呆然とする私の背後に、いつの間にかあの小男が立っていた。

 「あんたを恐喝したのと同じ外見の人をみんな抹殺したのか」

 「悪い奴らは見ればわかりますからね。あなたには、万一間違われることがない様に、その姿になっていただきました。これでこの星には、争いや犯罪がなくなります」

 小男は表情を歪めた。微笑んだのかもしれないと思った。

 「たぶん、そううまくはいかないと思うよ」

 私は手近にあった金属バットを手に取り、思い切り金柑頭に叩きつけた。

 私の弟は有名なロックバンドのボーカリストで、きれいな金髪が自慢だった。



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ダビング 何回 ?

 近頃の私の楽しみは、DVDの観賞だ。

 もちろんレンタルで・・・。

 アダルトものではない。 念のため。

 毎週金曜日の会社帰りに、3本位借りる。

 多いときは5本位になることもある。

 おもに連続ドラマ2〜3本と、映画を1〜2本。

 今続けて借りているのは、「木更津キャッツアイ」、「炎立つ」、「プリズン・ブレイク3」

 深作欣二の「仁義なき戦いシリーズ」である。

 さて、実は以前から私はあることが気になっている。

 それはなにか。

 私は連続ドラマを借りるときは、少し旬を外したところを借りている。

 新しいものや、話題になったばかりのものは、貸し出し中になっている場合が多いから、たとえば楽しみにしていた続きの巻が、借りられないと、ずいぶんとがっかりしてしまうからだ。

 だから私が1本目を借り始めたとき、たいていそのシリーズは全巻がきれいに棚に並んでいる。

 ところがである。

 私が2本目、3本目と観ていくと、急に1本目、2本目が借り出されていることに気づいた。

 そして、必ず突然私を追い越し、4本目、5本目あたりで貸し出し中になってしまう。

 なにしろ旬を外れたものを選んでいるので、そう沢山は在庫されていない。

 だから一本ずつしか在庫していないものなら、多少は仕方ないとあきらめるのだが、少ないとはいえ2〜3本ずつ置いてあったものまで、突然貸し出し中になると、偶然とばかりは思えない。

 おかしい・・・と思わないか?

 はじめは気付かなかった。さらには、ただの偶然だと思った。

 しかし、それまでだれも手をつけていなかった、「仁義なき戦いシリーズ」でもそれが起きた時、どう考えても誰かが私の後を追ってきているのではないだろうかと思うようになった。

 昨日、「炎立つ」の続きを借りようと、いつものレンタルショップに寄った。

 先々週まで、他の連ドラを見ていたので、次の候補作品を物色していたのだが、この作品は、数年前のNHK大河ドラマで、2本ずつ在庫がおいてあるが、貸し出しで欠品になっているのを見たことはなかった。

 それが、私が3本目を借りた日には、1〜2本目がなくなっていた。

 そしてその日は遂に、私が見たかった4本目を含む最終巻までがすべてなくなっていたのだ。

 私はずいぶんと残念でかつ不思議な気持ちになったが、ないものは仕方ない。

 そこで私は、「木更津キャッツアイ」の2本目を借りたあと、その棚の周辺をしばらくの間ブラブラしながら見張ってみた。

 いったいどんな奴が、後を追うように、同じ作品を借りていくのだろう。

 それを是非見てみたくなったのだ。


 私の見張っている通路を、ミニスカートの女性が、棚を物色しながら歩いてきた。

 しかし、その女性は、「き」の棚を素通りして、私の目の前を通り過ぎた。

 今度は若いカップルが、レンタルビデオ店では不必要なほどに身を絡めあいながら、通過していった。

 そのとき・・・グラリ・・・。

 地震? 私は少し緊張した。 しかし、揺れは大きくなることもなく、すぐに止んだ。

 またしても、ミニスカートの女性が、棚を物色しながら歩いてきた。

 さっきと同じ女性だ。隣の棚でも意中の作品が見つからなかったのだろうか。先ほどと同じように棚を物色しながら歩いてくる。

 そしてさっきと同様に、「き」の棚を素通りして、私の目の前を通り過ぎた。

 まるで、デ・ジャ・ブゥ のような違和感。

 さらに、先ほどと同じ若いカップルが、これも同じようにレンタルビデオ店では不必要なほどに身を絡めあいながら、歩いてきた。

 そして、男は先ほどと同じ場所で、同じ手つきで女の尻をなでまわし、女はいかにも能天気にしなを作って男の腕に乳房を押しつけながら、同じ笑い声をあげた。

 なんだこれは。

 次に男が一人で現れた。男は「ほ」の棚の前で一度立ち止まって小さく首を傾げたのち、「き」の棚の前に進み、ほとんど迷うことなく一本のDVDを取り出した。

 そしてその男は、私の立っているほうへと足を向けた。

 男は私を見た。そして、なぜか一瞬戸惑ったように、背後を振り向いたが、すぐにまた私の方を向き、今度は明らかに驚愕の表情を浮かべた。

 おそらく私は、あの男と全く同じ表情をしていたに違いない。

 そう、完全に全く同じ表情を。

 ドッペルゲンガーを見たものには死が待っているというが、いったい彼我のどちらに死が訪れると言うのだろう。

 いったいこの世に私は何人いるのだろう。

 DVDなら・・・10回コピーができるようなったらしいが・・・。





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