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 河村は旧知、旧友への挨拶を済ませると先ず事務所開設を図った。上海では事務所開設に特別に難しい手続きが要る訳ではない。こんなことのために今はそれぞれ高官となった友人のコネを使うわけには行かない。正面から役所に乗り込み、だんだんと思い出してきた上海語を駆使して、担当者にはそれぞれ正規の料金の他に賄賂を払い、必要手続きを済ませた。追って通知があるまで、というのはそれまで待てばいいことだった。事務所そのものについては何も特に急ぐ必要は無かった。 

 曾官年や黄邦正に建設資材を扱っている信用できる業者を紹介してもらった。日本では信用できる業者という言い方をするが、河村は今では中国の業者はだいたいみんな信用出来ると考えることにしている。信用できるかどうかの基準を何に取るか、どこに取るかで、相手が信用できるかどうかは決まる。何も中国で商売をする時に、中国人を判断するのに、日本の価値判断の基準を持って来たってうまく行くわけが無い。郷に入っては郷に従えだ。 

 中国とのビジネスに誠意とか、誠実、約束履行、―――というものは存在しない。そもそも、そういう概念と、商取引という概念とは共存しないものなのだ。 
 中国人が商取引をする際は、当然に何とかして相手を騙してうまく儲けてやろうと考えている。相手が中国人あるいは支那人である限りこれには例外はない。例外と見える場合があれば、そう見えたその人はもうその時点で半分は騙されているのだ。

 そうして騙して儲けてやろうと考えている当の中国人に悪意はない。悪いことをしようなどという気は全くないし、悪事を働いているなどという意識はさらさらない。商取引というものはそういうものなのだから、とただそれだけのことなのだ。それを後から自分は中国人に騙されただの、中国の役所に搾取されただのというのは全く正しくない言いがかりなのだ。自分の国際化が充分でなかっただけの話だ。自分の無知と文化の違いを正しく理解できていなかったと言うだけの話だ。それが分かっていれば、日本人なら恥ずかしくて人様に言えるようことではない。言い換えるとそれは商取引に負けたというだけのことなのだ。中国の商取引には勝ち負けがあるのだ。

 そういう中国人とのビジネスに誠意だとか、誠実だとか、あるいは約束の履行などということを期待するほうが間違いなのだ。だからといって、商取引の実際に入る前に、そういう近代的というか西欧的な商取引以前の基本的な概念についての約束をしても、そうして始まった商取引も、その約束自体が総体としての商取引の一部である以上、その時点で既に相手のペースにはまってしまっていると考えなければならないことなのだ。

 ましてや親切、親身、好意、―――などというものは、ビジネスをする以上はじめから全く存在すらしていないのだから、中国人とのビジネスというのは異文化間の交流というよりも、日本人としては異星人との交流と考えてやらないといけないのだ。河村のように実体験をしない限り、国際化ということの出来ない日本人というものは、そういう風にでも頭の中で理解してことを進めないと、損ばかりすることになる。実際中国へ進出した日本人で損をしなかったというのは一つの例外もないくらいだ。 ただ、本人が恥ずかしいからか、そうとは白状しないのでいつまでたっても日本人に知られることがないだけなのだ。

 河村は九年余に渡る中国は重慶と上海での支店長時代の経験を本に書こうと思っている。日本の同胞ビジネスマンへの警告書として書きたいと思っている。しかしその前に自分のビジネスを立ち上げるのが先決だ。

( 河村は旧知、旧友への挨拶を済ませると先ず事務所開設を図った。上海では事務所開設に特別に難しい手続きが要る訳ではない。こんなことのために今はそれぞれ高官となった友人のコネを使うわけには行かない。正面から役所に乗り込み、だんだんと思い出してきた上海語を駆使して、担当者にはそれぞれ正規の料金の他に賄賂を払い、必要手続きを済ませた。追って通知があるまで、というのはそれまで待てばいいことだった。事務所そのものについては何も特に急ぐ必要は無かった。 

 曾官年や黄邦正に建設資材を扱っている信用できる業者を紹介してもらった。日本では信用できる業者という言い方をするが、河村は今では中国の業者はだいたいみんな信用出来ると考えることにしている。信用できるかどうかの基準を何に取るか、どこに取るかで、相手が信用できるかどうかは決まる。何も中国で商売をする時に、中国人を判断するのに、日本の価値判断の基準を持って来たってうまく行くわけが無い。郷に入っては郷に従えだ。 

 中国とのビジネスに誠意とか、誠実、約束履行、―――というものは存在しない。そもそも、そういう概念と、商取引という概念とは共存しないものなのだ。 
 中国人が商取引をする際は、当然に何とかして相手を騙してうまく儲けてやろうと考えている。相手が中国人あるいは支那人である限りこれには例外はない。例外と見える場合があれば、そう見えたその人はもうその時点で半分は騙されているのだ。

 そうして騙して儲けてやろうと考えている当の中国人に悪意はない。悪いことをしようなどという気は全くないし、悪事を働いているなどという意識はさらさらない。商取引というものはそういうものなのだから、とただそれだけのことなのだ。それを後から自分は中国人に騙されただの、中国の役所に搾取されただのというのは全く正しくない言いがかりなのだ。自分の国際化が充分でなかっただけの話だ。自分の無知と文化の違いを正しく理解できていなかったと言うだけの話だ。それが分かっていれば、日本人なら恥ずかしくて人様に言えるようことではない。言い換えるとそれは商取引に負けたというだけのことなのだ。中国の商取引には勝ち負けがあるのだ。

 そういう中国人とのビジネスに誠意だとか、誠実だとか、あるいは約束の履行などということを期待するほうが間違いなのだ。だからといって、商取引の実際に入る前に、そういう近代的というか西欧的な商取引以前の基本的な概念についての約束をしても、そうして始まった商取引も、その約束自体が総体としての商取引の一部である以上、その時点で既に相手のペースにはまってしまっていると考えなければならないことなのだ。

 ましてや親切、親身、好意、―――などというものは、ビジネスをする以上はじめから全く存在すらしていないのだから、中国人とのビジネスというのは異文化間の交流というよりも、日本人としては異星人との交流と考えてやらないといけないのだ。河村のように実体験をしない限り、国際化ということの出来ない日本人というものは、そういう風にでも頭の中で理解してことを進めないと、損ばかりすることになる。実際中国へ進出した日本人で損をしなかったというのは一つの例外もないくらいだ。 ただ、本人が恥ずかしいからか、そうとは白状しないのでいつまでたっても日本人に知られることがないだけなのだ。

 河村は九年余に渡る中国は重慶と上海での支店長時代の経験を本に書こうと思っている。日本の同胞ビジネスマンへの警告書として書きたいと思っている。しかしその前に自分のビジネスを立ち上げるのが先決だ。

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