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 黒龍江省ハルビンには以前、重慶に駐在していた時にも上海に駐在していた時にも行ったことはある。昔の日本の影響が強く残っているのを河村は知っているので、親近感を覚えたりするが、現地の今の人々はそういうことを認めたがらない。ましてや若い人々はこの国の新しい政策である反日教育を受けている。日本が占領して、良好な関係を持っていたのも、もう今は昔の物語になってしまっていた。
  
 思ったとおり、その国営企業ハルビン鉱物建材公司との交渉には改めて曾官年に仲介の労をとってもらわないとそれ以上は話が進まないようだった。不足しているわけでもなく、豊富に産出する中国大理石やスレートなどの資材を外貨を持って買ってやろうと言うのに、買ってもらいたいという気はないのだから商売がやり難い。これが共産主義社会であり、社会主義経済というものなのだろう。これでは国が発展しないわけだ。自分は直接的には知識はないがソ連も同じような事をやっていたために崩壊してしまったのだろう。人の振り見て我が振り直せ、なんていうのは昔の中国の格言ではなかったのか。例えそうだとしても、そういった近代社会にも通じるような教えはみんなこの国では壊されてしまったのだ。毛語録みたいなものばかりが残っている。そんなことを思いながら河村は木造二階建て建物の二階にあるその国営企業の事務所を出て、一階の道路へ下りた。外へ出ると、まだまだ河村にとっては肌寒い風に吹きあてられた。


十一章 阿鼻叫喚の図「特権階級への不満」−1

 道路に下りた河村は異常に気がついた。そこでは周りの人たちが事件だ事件だと言って騒いでいた。何人もが走ってゆくので、その歳になっても足に自信のある河村は自分もその方角へ一緒になって走って行った。
 ちょうど河村が現場と思しきところへ着いてすぐの時だった。女性運転手がハンドルを握るその大型のBMWは群集の中に突っ込んで行った。始めは河村は自分が何か勘違いしているのかと思った。しかし次の瞬間、群集の反応を見てそれが映画の撮影でもなんでもなく現実に起こっていることだと理解した。
 河村がそこへ着いた時はまだその高級車は怒れる群集に囲まれていた。車の前には口々に何かを叫びながら腕を上げたりしている人々が多勢いた。周りにも少なからぬ人々が車を取り囲んでいた。と、突然その車は発進した。徐行ではない。車輪と路面との急激な摩擦で起きるキキーッという不快な音をさせて、砂埃を立て上げて、ほとんど全速力で発進したのだ。大型BMWの馬力は強い。間を空けてばらばらに立っている人間なら何十人でも跳ね飛ばすだけの十分な力がある。そこは阿鼻叫喚の図が出現した。群集の後ろにようやくたどり着いたばかりの河村は安全地帯にいたが、もう少し早くそこ行っていたら、あの轢かれた人数のうちに入っていたかも知れなかった。そう思うとぞっとしたが、それはしばらく後に生じた感覚だった。車はそのまま走り去った。
 路上に倒れている数人は明らかに重態だった。河村は、それも生きていればの話だと思った。その他にも生きているのは分かったが怪我をして路上に倒れているものも数人いた。何にでも興味を示し、物見高い河村も次には自分の安全に思いを巡らせた。これ以上そこにいるのは危険な可能性があると判断した彼はそっと身を引いて、もと来た道を引き返した。自然に足は速くなり、次には駆け出していた。

 河村は政府の高官にでも会うとき以外はわざとラフな服装というか、くだけた装いを心がけていた。だからこのときも地元の農民たちとは明らかに区別されてはしまうが、地元のビジネスマンという程度の服装ではあった。それでも、一朝何かあったときには、地元の人間ではないと言うことくらい簡単に見破られてしまう。言葉でも流暢に話せれば別かも知れないが、河村の上海語はここらではそういう時には役に立たない。

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