俗物の夕暮れ

かええってきたぞーかええってきたぞー!

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東京も雪が降りましたね。日本の中では高緯度の出身なので、わけもなく嬉しくなって朋友に電話し、呼び出しました。駅前で合流した彼は、少なからず頭と衣服を濡らしていました。
 友「雪の日に傘をさすっていう習慣がなくてな」

 僕「僕らの故郷じゃ、雪はちゃんとした固体だけど、都会の雪は水気が多いからね」

 しばらくぶらりぶらりと雪の街を行く。履き潰した靴が瞬く間に浸水し、靴下を引っ張って歩きにくい。
 特に目的もなく、ひたすら雑談。自然たわ言の応酬になる。

 友「お前大丈夫こんなに濡れて。錆びない?」

 僕「有機物なんだけど」

 友「社会的には老廃物なんだけどな」

 僕「………」

 友「なんか学生くずれっぽいこといってみ?」

 僕「たやすいよ。耳かして。…あのねー」

 友(僕に耳を傾ける)

 僕「(小声で)……お金かして」

 友「ん………」何もいわずに万札を差し出す。僕無言で受け取りポッケに入れる。

 お互い黙したまま、しばらく歩く。

 僕「…愛してる」

 友「………………………俺も」

 こうして僕と彼は、古代ギリシア風の友愛を高めあったのでした。あらいやだ。僕ったらなに言ってるのかしら。前に読んだ藤野千夜の影響? そうでもないか。
 いや、そうでもないかというのはそういうことではなくてですね、僕と彼とはもう長い年月プラトニックな部分を突き抜けた清い付き合いをしているわけで………なんかこの言い方も語弊があるなぁ。
 とにかくそういう関係なんですよ。誤解しないでくださいねっ。……この表現もなんだか……言葉に惑わされちゃあいけませんよ!
 
 御託が長くなりましたが、そういう心温まる(主観的表現)やり取りがあった後、僕たちの会話は以下のように続きます。

 友「でもなんに使ってんの? 親搾取するだけじゃ足りないの?」

 僕「電気代とか、色々」

 友「ネットばっかやってさ。最低だよな。霊魂不可触賎民(スピリチュアル・パリア)だよな。今考えたけど」

 僕「僕んちネット繋がってないよ…」

 この辺から主に僕のことが問題になり始める。危険な空気。

 友「なんでそうなんだよ。お前結構いい大学だったのに(この一言が過去の僕の自惚れとプレッシャー、劣等意識、社会的恐怖、失望、無計画性、そして現在持つに至った終末観などを渾然一体化したカオティック・アローとなって蜘蛛巣城のごとき猛攻をしかけてきました)」

 僕「(こうかはばつぐんだ!)フッ、履歴書に空欄を持たぬものにはわかるまい…」

 友「生産性がないから白眼視されるんだぞ」

 僕「人間すなわち生産力だなんて権力中枢みたいなことを君に言われたくはないんだけど(ボソボソと)」

 友「あ? あんだって?」

 僕「だっふんだ」

 友「……………………」

 僕「……………………」

 先ほどの沈黙と打って変わった重苦しい静寂が場を支配しました。
 僕の思考『しまったなぁ…。ずけずけ言うくせに他人の冗談は理解できないタイプだったっけ……』
 
 友「おまえ! 人がまじめに話してるときに茶化すやつはくとぅるふるるいえうがふなぐるふたぐん!!!!」

 僕「………(言ってることがわからなくなったぞ。むしろ聞こえてはいけない言葉のような気さえしてきた…)」

 友「聞いてんのか!」

 僕「君の言うことはいちいちもっともだ。明日からがんばるよ!」

 友「……がんばれよなぁー。…あとごめんな」

 僕「いあ、いあ、僕が悪いんだよ。いつも君は僕に活力をくれるよ」

 友「そりゃあよ……」

 ここでよせばいいのに「やっぱりお金返そうか?」なんてふざけて聞いちゃったもんだから、本当にそっぽを向かれてしまいました。
 そのまま駅までいって別れましたが、自分の行いに罪悪感を感じますね…。ん? 罪悪感って自分に感じるものですよね。合ってるよね。 文字だけでは伝えられないと思いますが、あのときの雰囲気はまさに一触即発といった感じでした。すごく怒ってて怖かったです。
 
 どうにも、精神に負荷がかかってるのかもしれません。最後の一言は、多分悪ふざけというよりも彼を心底怒らせたくていってしまったのではないかという気がいたします。上っ面剥いだらどうせ本心から僕を嘲っているんだろうという自意識過剰な疑いを、抱いていないなどと確信をもって言えません。
 僕は嫌なやつですよ。卑屈になっているんではなく。

 大人同士の関係にしてはあまりに近しいから、たまにこんなんなっちゃうんでしょう。
 彼とはもう次に会う約束してまして、その時にはお互いわだかまりもなくなっているといいんですが………。
 

閉じる コメント(3)

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ディティールを削ぎ落とすと、友情も愛も変わらないものだなぁ
と思わせる会話ですね。
越えられない一線を持つ男女の会話と心の機微を描いた話に読み替えても
ゴハン3杯はイケます。

ところで、ご友人はやはりインスマスご出身ですか?

2008/2/6(水) 午前 0:02 深夜休憩

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履歴書に空欄の辺りで少し泣きました(笑)
孤独では無いというのは幸せなことだと理解しつつ、借金をした人には逢いたくなくなるのが人情。
私も学生の頃は生活のための借金でよく泣きました。

2008/2/9(土) 午後 7:21 [ 浮草人 ]

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深夜休憩さん
結びつき方自体はそんなに違わないのかもしれませんよね。
あとは「愛情するよりこんな時、友情し・た・い」みたいな
状況的な優劣とか社会的な価値比重があるってだけで。

くとぅるふはなんとなく書いたんですが、
分かって下さると嬉しいものですね。
アーカムは魂の故郷です。
なぜなら彼もまた、特別な存在だからです。

浮草人さん
はじめまして。コメントおありがとうございます。
借りる側がいうことではないのですけども、
例えば喜捨という功徳も貧者がいなくては成り立たない訳で、
貧しいことは罪ではないのですよー!
卑しいのとは話がまた別ですから、金が自分に回ってくるまで
力をかしてくれる人がいるのは、
単純に心強いことだと思って感謝してます。

2008/2/13(水) 午後 2:58 [ 上和 慎太 ]



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