俗物の夕暮れ

かええってきたぞーかええってきたぞー!

現実

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南にいた頃の僕

 父から最寄り駅まで迎えに来いという旨のメールを受け取り、苦悩すること小1時間。
 
 ピン!! ポーン!!

 玄関を開けるとそこには父の姿が・・・。

 父「・・・・・・・・・」

 僕「い、いらっしゃいませ(来たことあったっけ・・・)」

 聞いたところ僕の住所をたよりに自力でたどり着きなさったようです。
 その日僕の部屋では、滅多に聞かれることのないテレビの音が響き、蛍光灯の光量は最大、勉強用の机の上には、先だって押入から引き上げた「それらしい」洋書や学芸雑誌や文学書や辞書や紙束を無造作に配置。精神面以外では、父を迎え、偽ラスコリニコフ、つまり青白きインテリもどきを演出する準備は整っていたわけです。

 父はそんな僕の奸計には目もくれなさらず、無言で上がり込みなさり、さっさとコタツに入りなさるとテレビを見始めなさりました。
 姑息な企みが今ひとつ不発に終わったことに安堵しつつも、父の僕に対する失望観とも解せる無関心さには、内心薄ら寒いものを感じました。
 その後父の視界に入らない位置にそっと陣取り、かしこまって様子うかがいの体勢に入りました。
 
 父「・・・・・・」

 僕「・・・(お茶は出涸らししかないからなぁ。かといってコーヒーは飲まないだろうし)」

 父「・・・・・・」

 僕「・・・(居づらーい)」

 父「・・・・・・」

 僕「・・・(なんか言って欲しいような、そうでないような)」

 父「おい」

 僕「! ははあ」

 父「酒を飲みに行くか。適当な店でいいぞ」

 僕「安いところしか存じませんが」

 父「案内しろ」

 僕「御意にございます」

 駅前の魚が安い店に案内申し上げました。時間が早いと言うこともあり、店内は空席がほとんど。奥の方に座って注文を済ませます。
 
 いやあ、いじきたない話になりますが、僕お酒大好きなんです。タバコを飲まない代わりかどうかは知りませんが、酒の方は、あればあるだけ飲みたくなる質でしてはい。
 さすがに粗相(1回手ひどいのをやらかしてしまいました)への危惧や貧困によって自ずから酒を断って久しいのですが、父が勧めてくることもあるし、やっぱり飲みたいし、率直に言って酒でも飲まなきゃやってられない雰囲気だったので、遠慮なく相伴にあずかり候いました。

 僕「美味しゅうございますー!(もうどうにでもなれ!)」

 父「うん」

 僕「美味しゅうございます! 美味しゅうございます!(うほほー! ほっけ! さんま! さば! かつお! 本当に久しぶり! ずっとずっと大好きだったよ!!)」

 父「そうだな」

 僕は食べる方に気がいってあまり飲みませんでしたが、父の飲むこと飲むこと。くいくい飲んではおかわり頼んで、帰り大丈夫だろうかと心配になったくらいです。
 このように食べ、飲み、食べ、話し、また食べ・・・と進行し、国とか地元の政治や産業について、あるいは古典や歴史、哲学を肴にした駄話を、ほとんど僕の主導で展開していきました。
 僕は饒舌だったと思います。酒が入るとアルコール以外に、自分の口舌に酔っ払ってしまうというような恥ずかしい所があるのですが、それ以上に、父の訪問に対する真意を話題に挙げたくないために小細工を弄したというのが事実に近いでしょう。
 しかし、所詮小細工は小細工だったわけですよ。飲み尽くし、食べ尽くし、しゃべり尽くした後は、沈黙に帰結するしかないようで。

 父「・・・・・・」

 僕「・・・(うーむ、もはやここまでか)」

 父「・・・」

 僕「それで・・・本日はどうしてこちらへ?」

 父「ああ、こっちで研修(出張?)があるから、ついでに寄ったんだ」

 僕「さ、左様で・・・(「ついで」、か・・・。そっちか)」

 父「・・・」

 僕「・・・」 

 父「時にだなぁ、お前」

 僕「はあ」

 父「今自分をどう思っているんだ」

 僕「え・・・」

 唐突にこんな事を聞かれるとは思ってもみなかったもので、頬を掻きながら平静を装い、その実、心の中は凄まじく動揺しました。「お前は何なんだ」とかいきなり聞かれたってまいっちゃいますよ。

 身分の確立している人なら造作もないことなんでしょうけども。デカダン予備軍! とか下等遊民! だなんてふざけたこと言えないし、ニートというには語弊があるような気がするし(あくまで主観的現状認識)、かといってフリーターと名乗るためには、労働していなくてはならない・・・。

 一瞬悩んだのですが、そもそもこの質問は社会的身分を問われたものではないような気もしてきて、じゃあ素直に、最近の生活について感じたところを話すことにしました。
 
 僕「金儲けのことはともかくとして、真摯に生きるようになったと思いますよ。最近は1日も長いですし」

 父「納得しているのか」

 僕「実状ですか? 受け入れてますよ。父さんには謝ればいいのかお礼を言ったらいいのかわからないんですけれども」

 父「別にいい。それよりお前帰ってこないのか」

 僕「えー・・・(恐れていたことがあああ!!!)」

 父「三日後に帰るんだがその時一緒にどうだ。ずっと帰ってこいと言うのではなくてだな。お前黙っていると盆暮れ正月にも顔を見せないから」

 僕「うーん(どの面さげて帰れるっていうんですか・・・)」

 僕の田舎は、僕の家だけなのかもしれませんが、随分封建的というか、古くさい伝統みたいなものが残っており、親戚が集まる本家に赴く必要の生じる盆や正月に帰って、そういった人達と顔を合わせるのは辛いのでした。僕自身のことはまだしも、僕がいるために父母まで風当たりが悪くなってしまったりしたらたまらないというのもあります。
 
 その後、考えときますよとか適当なことをいって父を駅まで送り、別れたのですよ。







 で !!!!

 



 ですねえ、僕が今どうしているかというと、色々葛藤はあったものの、結局父に同行して実家に帰り、惰眠をむさぼりつつ怠惰一歩手前の生活を送っております。いやあ、なんか母はことのほか帰省を喜んでくれて。
 
 上げ膳据え膳で当然三食。シェスタの習慣を覚えて更に睡眠時間は加速した。
 屋根裏に格納してある思い出深い蔵書たちとの邂逅に感極まり、1日中整理したりして。
 スーパーファミコンに誘われるまま、聖剣伝説3を2周したところで、このままではいかんだろうと思い、なにかしら健全な行動を起こしていこうと、こうして実家のパソコンからまずはブログの更新をしたわけです。

 意図的に精神を研ぎ澄ましていかないと、だらけてしまう環境ですね。ここは。

東京も雪が降りましたね。日本の中では高緯度の出身なので、わけもなく嬉しくなって朋友に電話し、呼び出しました。駅前で合流した彼は、少なからず頭と衣服を濡らしていました。
 友「雪の日に傘をさすっていう習慣がなくてな」

 僕「僕らの故郷じゃ、雪はちゃんとした固体だけど、都会の雪は水気が多いからね」

 しばらくぶらりぶらりと雪の街を行く。履き潰した靴が瞬く間に浸水し、靴下を引っ張って歩きにくい。
 特に目的もなく、ひたすら雑談。自然たわ言の応酬になる。

 友「お前大丈夫こんなに濡れて。錆びない?」

 僕「有機物なんだけど」

 友「社会的には老廃物なんだけどな」

 僕「………」

 友「なんか学生くずれっぽいこといってみ?」

 僕「たやすいよ。耳かして。…あのねー」

 友(僕に耳を傾ける)

 僕「(小声で)……お金かして」

 友「ん………」何もいわずに万札を差し出す。僕無言で受け取りポッケに入れる。

 お互い黙したまま、しばらく歩く。

 僕「…愛してる」

 友「………………………俺も」

 こうして僕と彼は、古代ギリシア風の友愛を高めあったのでした。あらいやだ。僕ったらなに言ってるのかしら。前に読んだ藤野千夜の影響? そうでもないか。
 いや、そうでもないかというのはそういうことではなくてですね、僕と彼とはもう長い年月プラトニックな部分を突き抜けた清い付き合いをしているわけで………なんかこの言い方も語弊があるなぁ。
 とにかくそういう関係なんですよ。誤解しないでくださいねっ。……この表現もなんだか……言葉に惑わされちゃあいけませんよ!
 
 御託が長くなりましたが、そういう心温まる(主観的表現)やり取りがあった後、僕たちの会話は以下のように続きます。

 友「でもなんに使ってんの? 親搾取するだけじゃ足りないの?」

 僕「電気代とか、色々」

 友「ネットばっかやってさ。最低だよな。霊魂不可触賎民(スピリチュアル・パリア)だよな。今考えたけど」

 僕「僕んちネット繋がってないよ…」

 この辺から主に僕のことが問題になり始める。危険な空気。

 友「なんでそうなんだよ。お前結構いい大学だったのに(この一言が過去の僕の自惚れとプレッシャー、劣等意識、社会的恐怖、失望、無計画性、そして現在持つに至った終末観などを渾然一体化したカオティック・アローとなって蜘蛛巣城のごとき猛攻をしかけてきました)」

 僕「(こうかはばつぐんだ!)フッ、履歴書に空欄を持たぬものにはわかるまい…」

 友「生産性がないから白眼視されるんだぞ」

 僕「人間すなわち生産力だなんて権力中枢みたいなことを君に言われたくはないんだけど(ボソボソと)」

 友「あ? あんだって?」

 僕「だっふんだ」

 友「……………………」

 僕「……………………」

 先ほどの沈黙と打って変わった重苦しい静寂が場を支配しました。
 僕の思考『しまったなぁ…。ずけずけ言うくせに他人の冗談は理解できないタイプだったっけ……』
 
 友「おまえ! 人がまじめに話してるときに茶化すやつはくとぅるふるるいえうがふなぐるふたぐん!!!!」

 僕「………(言ってることがわからなくなったぞ。むしろ聞こえてはいけない言葉のような気さえしてきた…)」

 友「聞いてんのか!」

 僕「君の言うことはいちいちもっともだ。明日からがんばるよ!」

 友「……がんばれよなぁー。…あとごめんな」

 僕「いあ、いあ、僕が悪いんだよ。いつも君は僕に活力をくれるよ」

 友「そりゃあよ……」

 ここでよせばいいのに「やっぱりお金返そうか?」なんてふざけて聞いちゃったもんだから、本当にそっぽを向かれてしまいました。
 そのまま駅までいって別れましたが、自分の行いに罪悪感を感じますね…。ん? 罪悪感って自分に感じるものですよね。合ってるよね。 文字だけでは伝えられないと思いますが、あのときの雰囲気はまさに一触即発といった感じでした。すごく怒ってて怖かったです。
 
 どうにも、精神に負荷がかかってるのかもしれません。最後の一言は、多分悪ふざけというよりも彼を心底怒らせたくていってしまったのではないかという気がいたします。上っ面剥いだらどうせ本心から僕を嘲っているんだろうという自意識過剰な疑いを、抱いていないなどと確信をもって言えません。
 僕は嫌なやつですよ。卑屈になっているんではなく。

 大人同士の関係にしてはあまりに近しいから、たまにこんなんなっちゃうんでしょう。
 彼とはもう次に会う約束してまして、その時にはお互いわだかまりもなくなっているといいんですが………。
 

父殺しについて

よく考えます。いや、本当に殺すわけではないですが。

 家庭での父の地位を奪いたいという欲望は、その必然性の欠如から抱いたことなどなく……
 さりとて父はやはり厳然と僕の前に立ちふさがる……
 乗り越えるというよりは比肩すべきものの代表として、無防備に、あたかもこちらを意識してさえいないように憮然と、泰然と、僕の意識の中に権力を持ち続けている……

 父は農家の長男という出自で地方官吏となり、うだつの上がらない人生を送っていました。少なくとも高校時代まではそう認識し、僕は心中で密かにあざ笑ってすらいました。
 「僕が父に負っているのは経済だけだ。しかもそれは経済支配ですらある」
 などと若輩特有の地に足の着かない思い上がりを平然としていたのですね。

 父はその後大学に通わせてくれ、こうしてうだうだしているだけの僕を、何も言わずに経済支配し続けています。

 ……………。
 
 経済的自立……ここに打開の糸口があるのは確実です。しかしそれだけで、僕の意識の流れの中に鎮座してそびえる巨岩を取り除くことはできるのか…できるのか…
 
 このような状態で父という男に対峙したとき、今の僕はどうするのでしょう……。

 いやね、近々父が僕を訪ねて来るらしいんですよ。目的を告げず。
 ううー……戦慄を禁じえません…。

 念のため刃物は隠しておこう…。念のため…

 こんにちは。
 
 今日は友人が僕の部屋に置き去りにしていったパソコンからの更新です。
 年末は図書館やってないのでパソコン使えず難儀ですよ。自宅にネット環境が整っていれば、こんなに落ち着いて作業できるものなんですね。ま、持たざるものに許されるのは夢想だけですが。

 Q:無職も年末は忙しいんですか?

 A:はい。社会との関係性を完全に排除できない以上、社会の忙しさの影響は、やはり及んでしまうようです。

 この数週間、結構色々な人に会いました。
 再会だったり新しい出会いだったり。
 中でも旧友と久しぶりに飲んだときには、考える、というか、考えさせられるところがありました。
 自分の生活、それが具体的なでも部分も精神的な部分でも、外部から別の認識を授かるのというのは、ありがたいし新鮮ですね。「自分探し」という言葉は、僕にとっては自己省察を意味しました。自分は自分の中にしかいないじゃないか、と考えていましたし、今でもそう思います。
 でも、他の人は僕に語りかけてくるし、僕はその影響なしでなかなか生きていけない・・・。
 他の人の中にも「自分」=僕はいるんですよねぇ。当たり前のことですけど。

 それで、その他人の中にいる「自分」というものを最大限豪気に、誇らしくして高らかに現前してくれるのが友人なのではないかと。僕の場合は思ったりしました。

 
 友よ、わかっているんだ。生活とは人生だ。僕が今の生活は、確かに怠惰と甘えの産物だ。しかし、その生活の中に、僕の主体性、実存があるというのも事実なんだよ。君の前では全てのことが言い訳と愚痴とたわ言だ。本当はわかっているよ。何がもんだいなのか。でも君を前にすると、「自分がどうしたいのか」ってことが、自分で思うよりもひどく明瞭に見える気がする。確信に近く感じるよ。



 ・・・・・・勢いとともに書き下しましたが、おセンチってものは爆発すると手に負えないですねー。 

 先日、久しぶりに会ったとある友人と昼食を食べました。
 何が羨ましいって、最高ランクの弁当を躊躇なく注文できるその精神力、その経済力…。
 方や大名が食べるようななんかもう色々入っちゃってる弁当のご飯大盛り、方やのり弁。
 着るものなんかも違いが際立ちますね。高そうなジャケットに高そうなジーンズ、高そうな靴、高そうな帽子、高そうなかばん、高そうなアクセサリ……そして何より高そうなお弁当。
 数年でこうまで違うものか…。格差社会はやはり我々の心胆寒からしむるにたるもののようですなあ。

 弁当を買った後、だらだらと公園で食べていたのですが……気になる……。彼の、お弁当が…。
 まあそんなことは尾首にも出さずに会話していると、不意に彼が、その体ごと弁当を僕の方に寄せてきました。

 僕(何だ何だ? なにかくれるのか…? 卵焼きおいしそうだな…)

 友「ねえ……」

 僕「な、何…?」

 友「あのさー……」箸で弁当箱の中をかき分ける。

 僕「うん………(焼き鮭……)」

 友「就活…どう…?」

 僕「え…?」

 しゅ・うかつ? しゅう・かつ? しゅうか・つ? しゅうかつ?

 ………シューカツ!!!!

 僕は驚きを隠せなかったと思います。シューカツ………。
 わかるんですよ。なんとなく。アイスクリームの天ぷらとかもありますしね。シューカツ…。
 正直、弱りました。普段からあらゆる文化習慣に関しては先入主を持たないように気をつけているつもりです。特に食文化については。だから猿の脳みそでもてなされたら喜んで食べるし、カレーを手で食えといわれたら迷わず食べるでしょう。
 しかし……シューカツ。僕その時、胃がもたれ気味だったんですよね…。

 僕「ちょっと、きびしいかな……あは」

 友「ああ〜……」

 空気の読める友人は、それ以上無理に勧めてくることはありませんでした。
 ただ別れ際に、こんなことを聞いてきました。意図はわからないですが。
 
 友「やっぱあれ? ジャガイモがダイヤモンドよりも大事だと思ったら人間は……ってやつ?」

 僕「ん? まあ、どっちも大事だよ」

 再開の約束はしませんでした。会ったのも偶然だったし。
 家に帰ってから、やっぱりシューカツもらっておけばよかったなあと思ったくらいです。
 シューカツ…ねえ。失礼になりますけど、おいしくなさそうですよねえ。

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