以前にも来日したことがあるそうですが、生で見るのはこれが初めて。 作品(本)からは、ナイーブで気難しく華奢な人物を想像をしていたのですが、 実際にはそんなことはなく、長身でお肉も適度に付いていて、ユーモアのあるにこやかな人でした。 十数年前、処女作の「浴室」を読んだのですが、 読んでいるあいだの時間の流れ方が、妙に心地良かったのを覚えています。 一定のリズムで、トントントンと進まずにはいられない、 もうどうにも止まれない・・・ランナーズ・ハイに似たような感覚です。 知らない単語が出てきても読み進められたのは、ひとえにトゥーサンの文体のおかげ。 浴室に引きこもってしまった主人公がどうなっていくのか、 初めのうちこそストーリー展開が気になりましたが、 読み進めていくうちにだんだんと、なにがどうしてどんな結末か、なんてどうでもよくなり、 ただただその簡潔な文章のリズムと、心地よい場面展開に乗っかって、 本の世界の中を、揺られて運ばれていった感じです。 描写や表現も映像的で、映画を観ている感覚に近いかもしれません。 それから、あの妙な安心感。 出口の見えない話に不安になるかと思いきや、なぜか心地良く、 個人的には、プールの底に沈んで、晴れた空を透かした揺れる水うっとり眺めてたら、 いつのまにか川に流れ込んでて、じゃあこのまま海まで流されみようかしら、って感じでした。 今回の講演は、「逃げる」という小説の一部を切り取った短編映像を上映し、 その映像の解説、該当する小説抜粋の朗読、質疑応答という内容。 「浴室」にも見られる『水』のモチーフや、映画的な場面展開については、 やはり心地よく感じていた人が多かったようで、その点についての質問がありました。 トゥーサン自身も、ハリウッド映画では無駄と思われるようなショットこそが自分には大切で、 ストーリーを説明しない『水』のショットや『空』の描写から、 ひらすら情感を味わってもらいたい、とのことでした。 |
全体表示
[ リスト ]