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高校3年生の秋、文化祭のときの出来事です。
そのころ私はすごく悩んでいました。好きな人が出来たのです。もちろん相手は男子。同じ演劇部のクラスは違うけれど同じ3年生です。
私は私立の男子校に通っていました。本当は男女共学の公立に行きたかったのですが、落ちました。私の志望の公立高校は、昔高等女学校だった歴史がある学校で、自由な校風。しかも制服はなく、私服での通学が可能なところ、中学校時代から髪の毛を長く(ボブカット)していた私は、短髪にしなければならない制服の学校はいやで、そういう自由な校風のところに行きたかったわけです。模擬テストなどでも何とか合格ラインだということで受験したのです。ところが入学試験の日に高熱を出してしまい、無理を押して受験しましたが集中力が続かず散々な答案になってしまったはずです。公立の試験が終わってから二次募集では入れる学校といえばその男子校しかなかったのです。
それでも何とかその学校にも慣れ親しんできたのです。演劇部に所属していました。3年生のときの演目は、そのとき演劇部の部長であった3年生が書いた台本で演出も彼でした。「てごな」と題するその台本はよく出来ていました。内容についてはまた機会があれば書きます。万葉集にある歌を下敷きにしたものでした。男子校ですから当然女子はいません。できるだけ女性が登場する場面を少なくしてあります。そしていつもは、女性が主役というものはありませんでした。ところがこれは、初めて女性が主役の劇でした。「てごな」はそのヒロインの役の上での名です。
しかも私がその主役。作演出をした部長が決めたのでした。
実はこの部長を私が好きになり悩んでいた相手です。
選ばれたときはすごくうれしかったのを覚えています。
当然役の上で女になるわけですから、女性の姿になるわけです。万葉時代の服装ですが。やはり女性の姿ですし化粧もします。
劇は成功のうちに終わりました。演劇が終わったあとこった服装で演じるわけですからしばらくは舞台衣装で校内のあちこちを回るのが恒例になっていました。いわば仮装行列というか。わたしも「てごな」の衣装のまま出演者や演出の彼と一緒に校内のあちこちの出し物を見て回りました。きれいだとか何とか、ほんとの女のようだったとかいろいろとほめられたり、冷やかされたり。
彼が私の耳元でささやきました。「話があるんだ。少し人のいないところに行こう。」私はびっくりしましたが彼についていきました。会場からは離れた裏庭のほうに二人で歩いていきました。私は胸が高鳴っていました。
「ずっと君が好きだったんだ。」
そういわれたとき、あの感覚は忘れられません。言葉では表せません。
私は何も言わず。というより言葉が出ませんでした。よろめくような感じで彼の胸に身体を預けました。
彼は私の身体を受け止めやさしく片手を背中に回して、片手で私の首筋を支えて、私の顔を引き寄せました。彼の顔が近づいてくる。後は何があるか直感でわかったので、目を閉じました。彼の唇が私の唇をふさぎました。ほんの一瞬の出来事。そして二人はそっとはなれたわけです。これが私の初キッスです。
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