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「突破口を開いてほしい。」
「誰が訪ねても居留守で出てきやしない。」
「住所は○○○、中年男性、家族は亡くなって独り暮らし、孤独死の可能性あり。」
これだけの乱暴な依頼で、僕等は車を飛ばして行った。
壊滅した集落、残ったのは、たった一軒。
入り組んだ地形の影響で、津波は激烈だったのだろう。
三階建てのコンクリート製の建物の窓も戸口も、黒い断末魔の開口部から、無作為の呼吸を非情な自然の風に委ねている。ボロボロのカーテンが生き物のように踊っていた。
木造の民家は、当然跡形もなく、基礎が残るだけだ。
重機に潰されたぬいぐるみが、官製のガレキ撤去完了への無言の抗議を続けている。
空は澄みとおるように青いのに、日陰にはまだ霜が光っている。
白い息を吐きながら、かじかんだ手で玄関の戸を叩いた。
電気のメーターも、庭に停めた軽トラも、彼の在宅を証明している。
僕等は彼の名を呼び、ドアを叩き続けた。
まるで、昭和の時代の借金取りのように、20分くらいかな。
ドアの向こうでよろめくような気配がし、鍵を開ける音に僕等は寒さを忘れた。
多くの言葉なんて必要じゃじゃない。どのみち、彼は朝から泥酔しているし、こちらは「気」を届けるためにここまで来ているんだ。
伝えるべきことだけ伝え、僕等は別れた。。
先日、「彼」が、行政による巡回訪問を受け入れたという報らせが入った。
名もなき多くの想いが少しだけ結実した。 きっと彼は僕等のことなど覚えていないだろうけど、そんな事はどうだっていいんだ。 彼が孤独の酩酊の底からドアを開けてくれた。 僕は与えてもらった今日の役割に充分満足だし、感謝している。 *事実に即した内容ですが、プライバシーに関わる記述になるため、意図的に日時や時系列、細部の描写などを
訂正、加筆した内容にしてあります。 |
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