伊藤哲司の「日々一歩一歩」

茨城大学で社会心理学を担当している伊藤哲司のページです。日々の生活および研究活動で、見て聞いて身体で感じたことを綴っていきます。

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イメージ 1  夕べ国際演習に参加していた学生たちが全員帰国していき、今回のプーケット滞在最後の朝を一人で迎えました。今回泊まったのは、プーケットシティにあるパールホテル。2005年3月に、初めて津波被害調査に来たときに泊まったホテルです。泊まり客が以前と違ってあまり見当たりません。すでに「古き良き」という形容詞を付けたくなるような風情がどこかあって私は好きなのですが、ホテルの位置づけとしては中途半端になってしまっているようです。それに、パトンビーチを初めとしてビーチ沿いに観光客が集中し、プーケットシティに泊まる人が少ないという事情もあるようです。ここに初めて来たときは、津波によって行方不明になってしまった人たちの情報を求める張り紙がたくさんホテルの入口あたりに貼ってあったことを思い出します。
 昨日までずっと学生ともどもお世話になっていたホットラクル玲子さんに、今日もまた案内役をお願いしました。彼女には、最初の津波調査団の時からずっとお世話になっています。すっかり気心が知れているので、安心感もあり、大変ありがたい存在です。彼女がアレンジしてくれた車で、まずプーケットの防災センターに行ってみました。何もアポなしで行ってしまったのですが、幸運なことに所長に面会することができ、地域や学校の防災教育や啓発活動で使われているらしい資料をいくつもいただくことができました。そうした活動が、私が思っていたよりあるらしいことを知りました。一方で、津波被害の記録を残し展示するなどして人々に伝えていくという役割は果たせていないようです。やはりそのあたりが日本のやり方とは違うところです。日本のそれを良しとして教えようなんていう気持ちはありませんが、紹介ぐらいはしてもいいかもと思い、そうした情報交換が今後できるといいですねと話すと、所長も合意をしてくれました。
 その次に足を運んだのは、シーレー島やラワイと呼ばれる、海の民・モーケンの人々が暮らす地域です。以前にも何度か訪れたことがあり、長老から海の怪物・ガッシーの物語などを聞いたことがありました。もうそうしたことを信じる長老がこの世を去り、もともとの自分たちの言語であるチャオレー語よりも南部弁のタイ語を喋る人が多くなっているようです。漁業を生業としている彼らは当然海辺に住んでいるわけですが、開発の手が徐々に伸びてきて、立ち退き問題が起きているとのことでした。ビーチを中心とした観光開発をさらに進めようということなのでしょう。しかし、ここを離れて街に土地をもらっても仕方ないと、あるベテランの漁師は呟いていました。そのとおりだと思う一方で、すでにビーチとして賑わっている地域でも、かつて同じような立ち退き問題があったのかなと想像します。ビーチリゾートになる前に、きっと誰かが住んでいたのでしょうから。
 空港に向かう前に、カマラビーチにも立ち寄りました。ここには、インド洋大津波の犠牲者を追悼するプーケットで唯一の慰霊碑があります。タイ人自身がつくったものではなく、当地の日本人会が建立したもので、そうだと聞けば納得できるものがあります。あれだけの津波災害であっても、タイ人たちには、このような慰霊碑を建てるという発想が感じられないためです。もちろん、批判してそう言うのではありません。慰霊碑というかたちには残さないというのも、ひとつの「慰霊」の仕方かもしれず、むしろ現実の日常生活に再適応していく方策からもしれないわけですから。
 そのバンタオビーチ近くの民家で、旧知のニーさんに再会することができました。最初の津波調査で、被災直後にもかかわらずユーモアのある語りでまわりを笑わせていた彼女は、私の2歳年上。「伊藤がしばらく来ないから、(東日本大震災の)津波でやられてしまったのかと思ったよ」と言って、以前と同じく豪快に彼女は笑いました。3ヶ月ほど前にご主人をガンで亡くされたとのこと。にもかかわらず、一時期たよっていた精神科の薬ももう不要になり、糖尿病の治療で少し体重も落ちたようで、元気そうな様子でした。すでに10人近いお孫さんがいるという彼女、私は昨年、息子が生まれたという話をすると、「成長に間にあわないね。孫を抱けないよ」と言って、またさらに笑っていました。彼女の家には妊娠5ヶ月だという娘さんの他、近所の人たちがたむろしていて、誰も孤立していない様子がうかがえました。こうしたコミュニティの中の人間関係が、一人一人を支えているのだと思います。当初から「心のケア」がクローズアップされない所以です。
 短い時間でしたが、ギュッと中身の詰まった1日フィールドワークを行うことができました。本当はまだ数日かけて調査をしたいところですが、今回はこれで時間切れ。かなりの大きな縁ができたプーケット、再訪の機会をまた探りたいと思います。

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いとうてつじ
いとうてつじ
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