伊藤哲司の「日々一歩一歩」

茨城大学で社会心理学を担当している伊藤哲司のページです。日々の生活および研究活動で、見て聞いて身体で感じたことを綴っていきます。

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イメージ 1  サイゴンのツーズー病院を訪れるのは、10年ぐらいぶりのことになります。約500人の医師がいるというこの病院では、1日あたり200人ぐらいの子どもたちが生まれるといいます。そのなかに「平和村」と名づけられたところがあり、枯葉剤の影響をうけたと見られる障害をもった子どもたちや若者たちが、たくさんそこで暮らしています。今日の午前中は、医師の高橋くんと地元でカフェを開いている江渕さん、それに師範大学4年生で通訳を務めてくれるヒエンさんと一緒に、そこへ向かいました。
 わりと直前になって見学のお願いをしたところ、それなりのお金がかかり何だなと思うところはなきにしもあらず。またお金に絡むあまりよくない噂も耳にするのですが、行ってみなければ批判もできまいと思い、出かけてみることにしたのでした。ミン・チャンさんという比較的若手の女医が、丁寧に私たちを案内してくれました。そして子どもたち・若者たちが暮らしている部屋だけでなく、二重胎児などで生まれてくることができなかったホルマリン漬けのサンプルがたくさん並べられたところも見せてくれました。
 瓶の中で苦しそうな表情をしたままの胎児たちの姿は、見るのも辛いというかんじです。実はここで、このサンプルを見せてもらうのは今回が初めてではありません。約20年前の1992年ごろ、まだベトナム事情もよく知らないままここへバックパッカーで1人来たときに、思いきってこの病院を訪ね、見学を申し込んだその翌日に見せてもらうことができました。いまはそんな見学の仕方は許容されていないでしょう。当時はまだ、わりと大らかだったのかもしれません。突然訪問した外国人旅行者によく見学を許してくれたものだと思います。あのとき見た胎児のホルマリン漬けの衝撃は、今でも忘れません。
 あのとき会った「ベトちゃんドクちゃん」のドクくんは、まだ子どもでした。今はお父さんにもなって、スタッフとして働いており、今日は名刺の交換をすることもできました。もっとも彼にすれば私たちは、たくさんいる見学者の一団に過ぎなかったのだろうと思います。
 ミン・チャウ医師が教えてくれたのですが、枯葉剤の影響が今は3代目(孫の代)まで及んでおり、これから先4代目(曾孫の代)まで出るかどうか調査していくとのことです。ベトナム戦争終結からまもなく40年。本当に根が深く、深刻な問題だなと思わないではいられません。枯葉剤の影響を受けたと見られる人々の苦悩やいかにと思います。
 午後は、その枯葉剤被害者たちの写真も撮り続けているカメラマンの村山さんも合流して、サイゴン解放の日もサイゴンにいて写真を撮り続けていたカメラマンのクオンさんを自宅に訪ねていきました。私にとってはもうすっかり馴染みなったクオンさんですが、とくに村山さんにとっては印象深い出会いになったようです。沢田教一さんは、先生であり、兄であり、友であると語るクオンさんは、60歳代半ばになってなお熱く、沢田さんとの思い出などを語ってくれました。通訳として同行したヒエンさんも、こういうベトナム人と出会えるとはとちょっと興奮した面持ちでした。
 クオンさんは、戦前にアメリカの通信会社であるUPIのカメラマンだったことが災いして、長く「再教育キャンプ」に入れられていたという苦労人です。今の政府にもいろいろ言いたいことはあるのでしょう。それでも国外に出ることはなく、ベトナムに踏みとどまっている彼のような人が、もう少し自由に語れるようになったときに、ベトナム社会の潜在化したコンフリクトも、少し和らぐということになるのではないか。私はそんなふうに見ています。
 (写真は、ツーズー病院の平和村で、小さな男の子のオムツ替えの世話をしてやっている膝下がない青年)

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いとうてつじ
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