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「二重行政」の難点

 安倍政権は、総理と気の合う仲間たちを官邸に集め、官邸主導の政治を実現すべくスタートしたわけですが、安倍総理のその後の軌道修正の余波が、この官邸主導の政治の実現という面においても、徐々に暗雲が立ちこめてきているような気がします。

 10月25日付けの読売新聞によれば、安倍総理は5人の首相補佐官の前で次のような指示を出したとのことです。
「そのままにしておくと、所信表明演説で打ち上げた政策を誰もやらないかもしれない。きっちりフォローするのも補佐官の仕事と思ってね」
(10月25日付け読売新聞)

 安倍総理の所信表明演説は、各省庁がタマ出しをして積み上げたというよりも、むしろ安倍総理の周辺の意向によって盛り込まれた施策が多く含まれているわけですが、どうも、その実施責任省庁が不明確であり、施策の実現が思うように進んでいないという感じがいたします。
「鳴り物入りで設置した首相補佐官チームはまだ十分機能しているとは言えない。」
という読売新聞の上記記事の指摘は、現状を見ればそのとおりと言わざるを得ないでしょう。

 首相のリーダーシップというのは、近年の我が国の政治において大きなキーワードとして取り上げられてきたテーマであり、首相公選制などが提唱されるのも、結局は首相のリーダーシップをいかに強化するかという課題を解決するための方策としてであったわけです。

 安倍総理は、おそらく、官邸の取り巻きが決めたことを各担当省庁が実行すればよいというやり方を当初思い浮かべていたように思われます。それは、米国のホワイトハウスのようなやり方をイメージしていたのでしょう。

 しかし、我が国の議院内閣制度の建前は、そのような仕組みになっていません。内閣法においては、次のように規定されています。
第三条  各大臣は、別に法律の定めるところにより、主任の大臣として、行政事務を分担管理する。
2 (略)
第六条  内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基いて、行政各部を指揮監督する。

 まず、内閣法第3条は、各大臣が行政事務を「分担管理」することが定められています。つまり、各行政事務についての責任は、各大臣が負うことになっているわけです。
 それから、内閣法第6条においては、内閣総理大臣が行政各部を指揮監督することが定められていますが、それはあくまでも「閣議にかけて決定した方針」に基づかなければならないのであって、総理といえども、少なくとも法律の建前の上では、閣議に諮らずに勝手に行政各部に対して指揮監督権を行使できないことになっているわけです。

 では、総理補佐官については、どう規定されているのでしょうか。
第十九条  内閣官房に、内閣総理大臣補佐官五人以内を置くことができる。 
2  内閣総理大臣補佐官は、内閣の重要政策に関し、内閣総理大臣に進言し、及び内閣総理大臣の命を受けて、内閣総理大臣に意見を具申する。
3・4 (略)
 この規定を見る限り、総理補佐官は、あくまで総理に対して進言したり、意見具申したりすることが想定されているに過ぎず、各省庁に対して物申す立場にないわけです。

 つまり、法の建前からすれば、現行制度下においては、官邸が施策を決めて各省がその施策を淡々と執行するという仕組みにはなっていないわけです。

 では、現行制度下においては、首相がリーダーシップを発揮するやり方はないのか。この点については、以前の記事「怒りは敵だと気づいた」でも紹介しましたが、現行制度下においても、内閣総理大臣の「解散権」を活用することによって、大統領制並みのリーダーシップを発揮することが可能であるわけです。それを現に実行したのが、言うまでもなく小泉純一郎前総理であるわけです。

 小泉前総理は、ある意味、議院内閣制の本質をよく理解した上で、これを自らのリーダーシップの発揮のために十二分に活用したわけです。他方、安倍総理はといえば、議院内閣制の本質を理解しないままに、官邸主導の政治を思い描いてしまったために、これがあまり機能していないのだといえるのではないかと思います。単に、官邸に人を何人か貼り付けて、他省庁に対して注文をつけるだけでは決してリーダーシップは発揮できません。官邸のリーダーシップを発揮するためには、解散権や人事権を活用しながらのしたたかな戦略が必要となるわけです。

 ただし、私は、官邸のリーダーシップが発揮されることがよいことだとは決して思いません。官邸が各省庁と戦っている姿は、マスコミ的にはうけるかもしれませんが、ともすれば、官邸の取り巻きたちだけによる「密室」で政策が決まるということにもつながりかねません。また、実際の制度の運用の責任を負わない官邸が単に頭の中でだけで物事を考えて施策が決まるということになれば、執行に支障を来すことにもなりかねません。昨今、郵政造反組の復党問題がクローズアップされてきていますが、これも小泉総理の過度なリーダーシップの発揮による弊害といえるのかもしれません。総理のリーダーシップにも「節度」が必要です。


 最後に、現在の「二重行政」の弊害の現れとして、以下の記事に注目させられます。
文科省も再生会議も自民も続々現地へ 福岡・いじめ自殺
 政府は24日、福岡県筑前町の中2男子自殺事件の事実関係を把握するため、教育再生会議の委員を兼務する義家弘介担当室長と山谷えり子首相補佐官(教育再生担当)を25日に急きょ現地に派遣することを決めた。文科省も同日に小渕優子政務官を派遣する。自民党は今週末に調査団を送り込む方針で、「いじめ自殺」への関心の高まりに政府・与党が背中を押される格好となった。
 義家氏らは25日午後に福岡県に入り、小渕氏とともに事件が起きた学校や教育委員会の関係者、遺族から話を聞く予定。安倍首相はいじめ問題を再生会議の重要テーマにとりあげる意向で、現地調査結果を会議の議論に生かしたい考えだ。
 一方、自民党の調査団は文科相経験者を団長に、副幹事長数人が現地入りし、県・町教委や遺族らから聞き取りする。
2006年10月25日01時04分asahi.com

 福岡のいじめ自殺の問題はもちろん大変痛ましい事件であるわけで、文科省が小渕政務官を送り込むことは納得できるのですが、なぜそれに加えて山谷補佐官までが派遣されなければならないのでしょうか。官邸自らがこうした問題に直接乗り出していっては、大局的な施策立案などできっこないでしょう。官邸はせいぜい文科省からきちんと報告を受け、教育再生会議における大局的な議論に反映させればよいのだと思うのですが、これも官邸主導の在り方が定まらない間の迷走の一過程ということなのかもしれません。

閉じる コメント(4)

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政策の決定とフォローは選挙で選ばれた政治家が行なうべき(官僚は仕組み作りと実行)だと思います。現在の議院内閣制で限界があるのならば、官邸や補佐官の役割を見直せばいいと思いますが。 とにかく政治家の質を上げないと日本はおかしくなる。

2006/10/25(水) 午後 9:43 [ 妹尾晶夫 ]

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>miyoshinokatainakaさん コメントありがとうございます。私は政治家の質を上げて政治主導とすべきということに全く異論はないのですが、ならば、総理大臣は各省大臣に役人を使いこなせるような優れた政治家を充てて役人をコントロールするのが現在の内閣制度のあるべき姿なのだと思います。「官邸vs各省庁」の対立は「政vs官」の関係ではなく「政vs政」の関係であるはずです。にもかかわらず官邸主導を唱えるということは、総理大臣自らが、信頼の置けない人物を大臣に送り込んだのだと言っているに等しいのではないかと思います。

2006/10/27(金) 午後 10:50 [ the*d*r_w*00* ]

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政治家は現場(国民)ニーズを吸い上げ政策にするのが仕事、官僚は政治家の政策について他法律との整合性を考慮し法律を作るのが仕事では。政治が主導権を持つためには政治家が深い洞察にもとづいた政策を作る能力を涵養すべき。そのためには与党の若手政治家は全員(副大臣や政務官、補佐官に任じ)役人と一緒に仕事をさせ政策の専門家にしたらいい。一方、官僚は現場を知らないし発想も保守的。補助金配分などの業務に追われ国家、国民の計画を考える時間が無い。中央省庁の権限やお金はすべて地方に移せばいいと思うが。

2006/10/29(日) 午後 10:45 [ 妹尾晶夫 ]

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あまり本文とは関係ありませんが、現在の宗教の腐れ果てた姿をトラバさせて頂きます。

2006/10/31(火) 午前 3:49 mtdcx048

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