|
遺伝子操作、幅広く活用 (経産業新聞 2006/12/27(水))
高血圧を発症して苦しむラット、エサとしてコメを与えると、200以上もあった血圧が一気に15も低下した――。
こんな不思議なコメの開発を進めるのは、農業生物資源研究所の高岩文雄・遺伝子組換え作物開発センター長。「毎食食べれば、血圧をコントロールできるかもしれない」と期待をかける。
このコメには、鶏卵の卵白に含まれる「オボキニン」というたんぱく質断片(ペプチド)を作る遺伝子を改良し、効果を高めて組み込んである。高血圧の人が食べると血管を広げて血圧を下げる効果が期待できる。正常な血圧の人が食べても下がらないため食べ過ぎても心配はないという。
異なる2品種を人工的に交配する従来の品種改良では、もともとイネにある性質を強めることはできても、イネにない性質を新たに加えることはできない。だが、遺伝子組み換え技術を使えば別の生物の遺伝子を導入、し、品種改良の可能性を飛躍的に広げられる。高岩センター長らが目指すのは、食べるだけで生活習慣病の予防につながる未来のコメだ。
メタポリックシンドローム(内臓脂肪症候群)を改善するため、中性脂肪を下げるコメの開発にも着手。大豆に含まれる「βコングリシニン」というたんぱく質を組み込んだ。牛乳の機能性ペプチドを組み込み、悪玉コレステロールを下げるコメも開発中だ。
一方、約4年に一度の頻度で冷害が発生し、イネの収量が低下して農家を苦しめる北海道。農業・食品産業技術総合研究機穂の北海道農業研究センターはコムギ遺伝子をイネに組み込み、極めて強い耐冷性を持つ品種を作る研究に取り組む。
熱帯原産のイネが寒さに弱いのに対し、コムギはセ氏マイナス30度も平気だ。佐藤裕チーム長らが着目したのはコムギに含まれる「フルクタン」という糖。細胞内のたんぱく質や膜を寒さから保護する働きをしているとみられ、この糖をつくる遺伝子をイネに組み込んでみた。
人工的に冷害を起こして実験すると、通常のイネは収量が平年の2−3割にまで減少したのに対し、遺伝子を導入したイネは6割程度に抑制できた。
だが、遺伝手組み換え技術は生態系への思わぬ悪影響への懸念から、反発にも直面している。「遺伝子組み換えイネの花粉が飛べば周囲の水田のイネと交雑してしまう。屋外での栽培実験はやめてほしい」――。
同機構の新潟県上越市にある北陸研究センターが実施する遺伝子組み換えイネの屋外栽培案験に対し、こんな訴訟が地元生産者らによって起こされ、係争が続いている。歌手の加藤登紀子さんや漫画家のちばてつやさんら有名人が原告に名を連ねたことで全国的に注目を集めた。
屋外実験が進むのはカラシナというアブラナ科植物の遺伝子を組み込んだイネ。カラシナは「ディフェンシン」という抗菌作用を持つたんぱく質をつくる。これを組み込めば、いもち病など様々な病害にまとめて耐性を待つようにできるというのが研究の狙いだ。
だが「ディフェンシンが効かない耐性菌が現れて生態系に影響を与えるのではないか」との懸念も招き、反発はやむ気配がない。最近は地元品種への“風評被害”を嫌う地方自治体が、独自に研究に規制を設ける動きも出てきた。遺伝子組み換え米が食卓に並ぶまでには技術的な課題に加え、なお高い社会的なハードルも残されている。
こう見る 主要穀物への波及効果期待
2004年にイネゲノム(全遺伝情報)が解読されたとき、日本は全体の55%を解読する中心的な役割を果たした。ヒトゲノム解読では国際的にも後れを取った日本だが、イネ研究における蓄積は高い水準にある。
穀物として初めてゲノムが解読されたイネの品種改良は、一足早く「ポストゲノム時代」に入った。同じ単子葉植物であるトウモロコシやコムギなどほかの三大作物への波及効果が期待できるという意味でも、研究にかかる期待は大きい。
日本が東アジア諸国と自由貿易協定(FTA)を張り巡らせ、グローバル化の恩恵を存分に受けるためにも今後、国内農業の自由化は避けられないとの見通しが強まっている。イノベーション(技術革新)をテコに国際競争のなかでも勝ち抜ける強い農作物を作り出せるかどうか、イネ研究が試金石となる。
(本田幸久)
|