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終戦後の闇市隆盛の頃、大阪日本橋の外れに
ドロボウ市場と言われた五階百貨店が在った。
名前は五階だが、地べたに戸板一枚ほどを並べた
大露店集団である。
主として、ラジオ部品・カメラ部品・電気・機械部品
等々、各種工作部品はネジ一本から在った。
其の他日用雑貨は総て揃っていた。
自宅の玄関先で
靴や下駄・長靴や蝙蝠傘などが盗まれたら翌日には
五階市場に並ぶらしい。泥棒市場と言われる所であった。
晴れた青空が雲を北へ流している。
空を見上げると涼しげだが、街中は大勢の人の群れと
ざわめき、所構わず商品を広げる露天商の
掛け声などで暑苦しくごった返していた。
ラムネ・アイスキャンデーを売る屋台へ人々は群がっている。
時々流れる生暖かい風は、滲み出た汗を含みすえた臭いがした。
難波よりの外れに、あらゆる香具師・たたき売り屋を
集めた。たたき売り専門のステージ小屋が在った。
みのもんた風の香具師の親分が面白おかしく
名調子で人々を呼び集める。
何時も大変な人だかりであった。
真っ黒に日焼けした蝦蟇の油売り
綿布・洋服生地を売りさばくもの
ズボン・靴下・スカート・ジャンバー
靴・鞄・ボストンバック・リュックサック・手提げ袋
帽子・メガネ・入れ歯迄ある。
勿論定番のバナナのたたき売りは主役だ
集まった群衆は何がしかの金を懐に
出物は無いかと狙っている。
此の頃の僕は此れを見るのが大好きだった。
見るだけだが
此処は何時来ても、終日笑いに溢れていた。
いい買い物をした人には周囲から拍手が湧く
下手な買い物にはブーイングが出た。
今日もたたき売りのステージは最高潮に盛り上がっていた。
本革で出来たピカピカの革靴の番だ
色は茶と黒の二色を両手に掲げ
「さあ!1足1万5千円からどうだ!」
反応は無い
「8千円でどうだ!」
「6千円!」
「えーい!最後の一声!」
「5千円!」
「畜生!えーい貧乏人!1000円でこれもってけ!」
「買った!貰った!」
突如隣にいた若い兄ちゃんが大声を出した。
「おめでとう!兄ちゃん。」
と、言ってよこした靴は
左側片方だけだった。
「俺が持ってけ!と言って掲げたのは片方だけだぜ」
「両方欲しいなら。5千円頂こう」
隣のお兄ちゃんは声も出ない
青ざめている
全財産をこれにつぎ込んだようである
突然救いの神が現れた。
「買った!」
「僕に千円で譲って呉れないか」
「左足の靴を探していたんだ」
「サイズもピッタリ!」
振り返ると
松葉つえを突いた傷痍軍人だった。
笑顔だった
右足は無かった。
周辺から大拍手が巻起こった。
おわり
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小説・つむじ風
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