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大阪近郊の大邸宅に住んでいて、外車が二台と国産車がやっぱり二台の持ち主。 それに大排気量のバイクも同じく二台を持つ、代々の資産家でした。 「他人の痛みも分からずに、15分ごとに金儲けしやがって」 「君らには分からんやろうけど。眼医者と違うて歯医者は肉体労働なんやで」 これを『歯医者、眼医者を笑う』と申します。 私だって、歯医者の治療は好みません。 私だって、圧縮空気を使ったリューターやドリルは使うけれど、相手はプレスや樹脂などの金型です。 これは削り過ぎると元には戻せない、歯は違うと信じているから嫌いです。 バス停を三つ先で降りて、いつもの散歩道に、その歯科診療所はできていました。 『MIEN PHI』とあるのは『免費=無料』のこと、それに『20%オフ』なんて初めてお目にかかります。 写真に撮って、あとで辞書で調べてみようとしたら、ドアを開けて若い男性が出てきました。 外国人と分かって、すぐに英語で。 叱られるのかなと思ったら、チェックは無料ですからどうぞと言われました。 「これで完璧!お前は幸せな奴」 そう言われたのに、左上の奥歯から詰め物が取れたのは半年後。 すぐにアロンアルファで再びくっ付けたのも、一年で取れてしまいました。 そのまま放ったらかして10年、欠けた部分はだんだんと大きくなってくるのは当たり前。 それでも歯医者に行かなかったのは、医療の発達した日本だってこんな状態だから、ベトナムでは…といった不安があったから。 「治療室を見せてください」 設備だけでも見ておきたいと思いました。 ひとりで二〜三人の患者の間を駆けずり回る『外車のおっさん』と違ってここには診療台が一つだけ。 ちょっと興味が湧きました。 それに、検査は無料ですからね。 今日はこれから用事がありますからと、前置きしてしておきました。 患者は外国人、治療が終わってどれだけ吹っかけられるかの不安もありましたから。 チェックが終わって『見積もり』を聞いて安さにびっくり、あとは腕次第なんですけどね。 明日の9時に再訪することにしました。 10年分の歯石も取ってもらわなきゃ、それにクリーニングも提案されました。 「1時間ちょっとかかります」 いつも15分の診察に慣れていたのでちょっとびっくり、でも期待も半分かな。 予約制ではなく、忙しい時は待たなければいけないみたいでした。 1時間も『ウィ〜ン、キィ〜ン』に耐えられるのかな。 口を開いているだけでも大変そうに思えてきました。 まずは回転ブラシでのクリーニング、その次にかぎ爪での歯石取り。 これだけで30分はかかったでしょう。 たいてい歯石を取る時には血も一緒に出るもの。 それがなかったというのは腕がいいのか、はたまた歯間にかぎ爪を深く入れないのかは分かりません。 ここは前者にしておきましょう、それが平安。 あとの30分は歯の治療、やっぱりダイヤモンド砥石を使うのは同じです。 痛みを感じたら右手を上げることだって同じ。 あ、顔をしかめる手もありましたかね。 「お上手です」 そう言ったら、若先生の顔がちょっとほころびました。 「クリーニングと歯石を取るのが15万ドン、歯の治療がやっぱり15万ドンです」 「え、30万ドン(¥1670)ですか?」 「(歯に)樹脂を詰めていますから、1年ぐらいは大丈夫だと思います」 受付で痛みのある時にと薬の処方箋を貰って、次はいつ頃来ればいいのかを訪ねました。 「痛ければ、いつでもお越しください」 若先生が、こう答えました。 爾来、痛みもないので終わり。 結局何が二割引きか分からないままに、1670円で治療は終了しました。 ベトナムの歯医者さん、まだまだ当分は外車には乗れないだろうと思いながらの一幕は、これでお終い。 しかし気になることが一つだけ、歯のレントゲンを撮らなかったので、万一の時の本人特定はできません。 今はDNA鑑定があるから、気にしなくてもいいのでしょうね。 おや、こんな日本の薬も売るようになったんですね、うれしいことです。 ちょっと分からなかったのは「痛い時に、食後お飲みください」 食間に痛くなったらどうしたらいいんでしょうね、なんて馬鹿なことを言うのは気分のいい証拠です。 どなたも、ありがとう。 おまけ。
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日々平安
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