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トコトコで西へ

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去年お世話になったホテルの屋上からは、こんな夕日が見ることができたんです。

携帯電話がつながらなかった不安は的中、ナリン君の姿はレセプションにはありません。
「お泊りですか?」
そう言った若い女性には見覚えがあります、言葉はほとんど交わさなかったけれど何度かルームキーをもらった記憶があるのです。

「私を、覚えていますか?」
「……」
「去年の3月に3週間ほどステイした…」
「あ、日本人のミスター…」
「そうです!」
思い出してくれました。

「今日は宿泊じゃないんです。アンコール遺跡から戻ってきて、プノンペンでフリータイム。だから去年お世話になったミスター・ナリンにこのアオザイ人形を持って来たんです」
「オー、マイ・ブラザーは、今このホテルにはいないんです」
どうやらナリン君の妹さんのようでした。



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「どうぞこちらへ。お茶にしますか、コーラがいいですか?」
「お茶をください」
気の利くナリン君だったら、絶対ビールを勧めてくれると思います。
この隅の席で、毎日朝食をとっていました。

「マイ・ブラザーは今、○○ホテルで働いているんですよ」
「○○ホテルって、5ツ星の高級ホテルじゃないですか!でも、ここは彼のおじさんが経営していると聞いたんですけど」
「私たちのおじさんには子供がありません。マイ・ブラザーにこのホテルを譲ることになっています。それで」
「それで?」
「ずっとこのホテルで仕事をしてきたので、チャンスがあれば大きなホテルのサービスやシステムを勉強したいと言っていました。今年3月に紹介があって、3年間の約束で働いています」

彼なら修行中にいろんなことを身につけて、立派なホテルマンに、いや、オーナーになると思います。
おみやげを手渡した時に「プライベート・フォーンは禁止されているんです、午後8時からだとだいじょうぶです」と電話番号の書かれたメモをいただきました。
今日帰ってしまうからと言ってから、そのメモの裏側に『目指せ、ナンバーワンのホテルマン!』と書いて、アオザイ人形と一緒に渡してもらうようにお願いしました。



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去年のカンボジア記事を読まれた方、覚えておられるでしょうか。
翌日に隣の州のあるお寺めぐりを予約したら、その前祝でお酒を飲み過ぎて寝過ごしてしまったトゥクトゥクドライバーのこと。

ホテルを後にしてからふと彼を思い出して、たむろしていたドライバーたちに聞いてみました。
「ミスター・ロンというドライバーを知らないかい?」
「ミスター・ロン??」
「ルンかも知れない」
ひとりが通訳係になって、こんな話はなぜか盛り上がります。

「どんな顔?」
「あごに無精ひげを生やして、ゆっくりしか走らないドライバーなんだけど」
「いつもこの辺りにいたのか?」
「そう」
「トゥクトゥクに何か広告を張っていたか?」
「何もなかった」
こんな会話を交わしている時に、歩いて現れました。
「アイアム ロン!」

みんなから大ブーイングが発生。
「彼の名前、ロンじゃないよ!」
それでもロンはまったく気にする様子もなく、「アイアム ロン!」を繰り返して握手を求めてきます。

みんなにありがとうを言ってから、ロンのトゥクトゥクが停められてある場所に歩いて行きました。

「オレはオマエがレストランに入るときも、ビールを飲んで出てきた時にも手を上げた。オマエは気づかなかった」
「それは悪いことをしたね。誰もが手を上げるから、気づかないんだよ」
これは本当の話、反応していては乗る羽目になってしまうんです。



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「今日は、どこへ行く?」
彼の持っている観光案内は、もうどれも行ったことのある名所旧跡の写真ばかりです。
それに、もうあと2時間半ぐらいしか残っていません。
「11時45分に、セントラルマーケットに行かないと。今回はバスツアー旅行だから」
「今日から、キャンセルすればいい」
相変わらず無責任さは健在のようでした。

「リバーフロントから西の方はまだ行ったことがないから、1時間走って戻ってこよう」
「どこでもいいのか?」
「街を見ながらだと、そのうち(見たいところがあったら)ストップを掛ける」
「OK!」
「2時間半で、いくら?」
これからが重要です、価格交渉。

「20ドル!」
「キミねぇ、去年1日8時間のレンタルで18ドルだったじゃないか。2時間半なら5ドルだろ」
「…15ドル!」
一気に5ドル下がりました。
たぶん私が半額の10ドルで折り合うと読んでいるのでしょう。
そうはイカの……です。

「5ドルでなかったら、バイクタクシーで行くよ」
「オマエが去年来た時から、物価は上がってる。ガソリンも2倍だ」
今度は泣き落としに来ましたね。
ビールが値上がりしていないことはよく承知しています。
私にはいちばんわかりやすい物価の指標、それでも久しぶりに会ったのだからボーナスを弾むことにしました。

「8ドルにしよう、それでダメならバイバイ〜〜」
いったん乗った座席から降りるそぶりを見せます。
「OK、OK」
相場より安ければ、まず引き止めることはありません、悪態を吐かれても。

では、出発。
やっぱりゆっくり走るのも変わりませんでした。
トゥクトゥクではなく、トコトコなんです。

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