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柳沢吉保 赤穂浪士事件の処分(五味康祐氏著 吉保佞臣説の拠り所 一部加筆)
【老中らの評定】
次に赤穂義士の処分である。
 大石ら四十六士が・吉良邸に討ち入り、上野介の首級を挙げた一件は満天下の耳目をそばだたせたが、彼らの処分について、幕府では老中阿部豊後守正武・土屋相模守・小笠原佐渡守・稲葉丹後守ら評議のうえで、
 「右の輩(赤穂浪士)は仇討ちの宿意これ有り候とて、或は町人または日雇い人足の姿に身をやつし殊さら深更に人家へ忍び込み侯次第、武士道にあるまじき致し方に供えは、夜盗のたぐいと変わらぬのだから全員斬罪人打ち首の処分しかるべしと決し、これを綱吉に上申した。
 ひとこと言っておかねばならないが、大石ら義士の討ち入りはむろん、主君の恨みを報じたことに武士道ではなっている。しかし松の廊下で浅野内匠頭が吉良上野介に刃傷に及んだのは私憤による行為だった。
 当日は勅使を江戸城に迎える儀式の日で、内匠頭は馳走役いってみれば幕府という大会社で接待役を命じられていた社員が、接待すべき勅使(宮内省の役人)を迎える宴会の会場で、後見たる(接待担当重役)上野介と内輪もめの喧嘩をし、重役に暴力をふるった、それがあの刃傷事件のありさまである。いかに上役たる吉良が意地悪をしようと、腹が立つなら後日接待役の任務を終えたあとで晴らすべきだ。しかるに宴会場でまさに勅使を迎えんとする直前、刃傷に及んだのは、大会社のサラリーマンとしてはもってのほかの振る舞いであり、内匠頭が献首になった(切腹を仰せつけられた)のは当然といわねばならない。それを、喧嘩だから両成敗で吉良上野介もクビにすべきだというのが浅野家の遺族、大石らの主張なのだが、こんな理屈が通らぬぐらいは今日のサラリーマンでも自覚していよう。
 さらに、これも重要なのでいっておくが、将軍綱吉という人はいわは当時のインテリで、きわめて皇室への尊崇心のあつい将軍だった。内匠頭の刃傷沙汰は、単に自己抑制のたらぬ(接待役たる任務を忘れた)所業であるのみならず、勅使を迎える場所を血で稜すという不敬罪を働いたわけなので、日本人として、皇室への不敬を犯したかどで切腹させられたのである。短慮者内匠頭に綱吉が激怒したのも不敬を彼が犯したからで、単に喧嘩をしたからではない。
 とすれば、皇室への不敬を犯したものの遺族が徒党を組んで上野介、きわめて京都の公卿たちと親密だった、の屋敷へ殴り込みをかけるのは、いわば二重に綱吉の尊皇心をないがしろにした行為ともいえる。老中阿部正武らはその辺の綱吉の心情も汲んで極刑を評定したのである。
 

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