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ふと、美しいメロディーが心に浮かぶように設計が出来れば・・・。

田園調布南のすまい

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nLDKについて

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「n LDK」について

オーナーさんが田園調布南の住まいに移り住んでから数ヶ月が過ぎた。

「最近やっとわかってきたよ」

と微笑みながら切り出した。


「何が?」


オーナーさんは一層目を細くして続けた。


「はじめは、どこまでが部屋で、どこまでが居間かよくわからなかった。

いくつ部屋があるかもよくわからなかったが、結局2階は吹き抜けに面して

3部屋しかないことがわかったよ。」


その言葉から設計の意図がうまく顕れていると実感した。

その場では、愛想笑いを返しただけだったが、心にさっと、さざなみがたった。


住まいの間取りを示す「n LDK」という言葉。

ご存知の通りn個の個室(寝室)とリビング・ダイニング・キッチン(L・D・K)

からなる間取りを示します。(浴室とトイレは当然この中には含まれています。)


「n LDK」という間取りの概念ははじめ住宅公団の集合住宅において

食寝分離−住まいの近代化とともに編み出され普及してゆきました。


住まいでの行為(機能)に対応するスペースを設けつなぎ合わせた間取り。

家族団らん、食事、調理、風呂。寝るなど、住まいで行われる行為には、

それぞれの専用のスペースが設けられます。

居間(リビング)食事室(ダイニング)台所(キッチン)浴室(バスルーム)寝室(ベッドルーム)

など・・・。

LDKに関してはスペースが確保できない場合や使い勝手などから

リビングとダイニングをワンルーム(LD・K)としたり、

オープンキッチンとしてダイニングとキッチンを一体化したり(L・DK)

またはリビングとダイニング、キッチンを一体化したり(LDK)

といったヴァリエーションがあります。

現在の住まいの設計の延長はおおよそこの n LDKという「形式」をベースに進められます。

とくに住まい手は、nLDKで間取りをイメージしやすいということもあります。

住まいでは、家族が同じ行為をする(食事をとる、テレビを見るなど)一方で、

別々の目的も持ちつつ生活しているので、

それぞれの目的やプライバシーの確保に合わせた空間が求められます。

その意味ではこのn LDKの間取りは機能による分離が図られ問題が生じにくいという特徴があります。

現代の生活スタイルと合致した考え方といえるでしょう。

しかし一方で、個室で区切られることは問題もあります。

特に都心では、建物のヴォリュームに制約があるため

個室や廊下がメインのリビング空間の広がりを圧迫します。

現実には狭い敷地に無理やりn LDKの住まいを作るため、

庭のない木造3階建ての住宅がひしめき合っています。

そのような自然とのつながりを持たない住まいは、人の心を貧しくすると思います。

多少狭くとも花鳥風月を愛でる庭のある住まいというのが日本人の理想とするところでしょう。

設計上の工夫が望まれるところです。


また、家の自然な空気の流れを得るために工夫が必要で、

機械空調への依存度が高くなります。

さらに過度なプライバシーの確保がかえって子供の成育に悪い影響を与える。

ということも近年話題となっています。

さらに、家族の構成は時とともに変化します。

多くの場合、住まいづくりは子供の成長を見越して、

家族が最大限増えた状態で個室を考えます。

しかし、子供が成人し巣立って言った後、残された夫婦家族にとって

そういった住まいは有効につかえるでしょうか?

もし子供が結婚して家族が増え、再び一緒に住むようになった場合どうでしょうか・・・。

家族構成の変化に対して、n LDKの住まいは個室に分節しているため制約を受けそうです。



一方、かつての日本の住まいは間取りという言葉が示すとおり

「間」という概念で成り立っていました。

住まいは柱と柱のあいだのスペース「間」の連続としてとらえられていました。

それを、襖、障子といった軽量な建具で仕切っていたのです。

「間」において、機能は未分化で、食べる・くつろぐ・寝るなどの行為は、

家具(道具)などを用いて時間的に使い分けられることがあたりまえでした。

食事の時間になるとちゃぶ台と呼ばれる折り畳みの卓で食事を取り、

寝る時間になるとたたみの上に布団を敷く。

そういった空間利用をしたコンパクトで効率の高い住まい方が主流でした。

家具や調度品を除けば豊かに床が広がる住まいでした。


一方、プライバシーは乏しく家族が個々に別々の行為をする上で制約が生じます。

これは現代人にとっては致命的であるといえます。

しかし空間を共有することで、たとえ狭くても比較的広いスペースを感じることが可能でした。


田園調布南の住まいでは、ベースにはn LDKの間取りとして考えながらも、

そういったすまいの日本的な「間」のスペース良さのようなものをうまく取り入れられたら、

と考えました。

それは、オーナさんの年齢、暮らし方などの考え合わせても、しっくりとゆくものでした。

風や光が通り、住まいのあり方として、部屋をなるべく開かれたスペースとして考えます。

十分な平面的な広がりは確保が難しいので、立体的につながる空間が、

単純にnLDKと感じさせない豊かさを住まいにかもし出すのではと考えたのです。


突然、話が抽象的で大きくなりますが

社会や組織を維持するために

誰でも共通に認識し従うことができる

ある決まった型−「形式」をつくります。


日本人は「形式」化することに長けています。

創造のエネルギーの多くは「形式」化することに費やされています。


いったんこの「形式」が定まると

組織や社会は惰性的にも維持されます。

その「形式」を根底から破るものは排除され

内部で「形式」に従うものには安定した状況が保障されます。

言葉は悪いですがいわゆる「村社会的」なものが維持されます。

明治以降急速に近代化し、先進国の仲間入りができた根底には

勤勉で「形式」化の得意な日本人の国民性によるものではなかったかと感じます

なぜかくも形式化が得意になのでしょうか?

誤解を恐れず言えば

長年にわたるさまざまな因果の帰着の果て。

多様な気候風土に順応して狭い国土で効率よく多くの人が

生活する環境が「形式化」を必要としていたと思います。

「形式」はやがて本来の意味を離れて

また社会自身の変化から置いてきぼりを食って

形骸化してゆきます。

しかしそういった「形式」によって半分無意味に束縛されながらも、

従うことのよって「自由」が得られると考えます。

「形式」の裏に自分の意思を潜ませる。

この形式に潜む2重性こそ日本人のものをうまく運ばせる考え方の根底にあると感じます。

「形式」さえ守っていればある範囲で自分の欲求は満たされます。

対立を表面化せず、真実を裏に隠し、自らの欲求をかなえる」。

お互いの共存が可能となります。形式にはそんな魅力があるのです。


「nLDK」という「形式」もそういった魅力をもっています。


不動産の流通のなかで社会共通の指標として認識され定着しています。

住まいを含め建物の設計は公共性をもち社会的、文化的意味合いを問われることがあります。

さらに経済的・法的な拘束の上に成り立っています。

田園調布南の住まいはそういった中で住まい手との共通認識を持ちながら、

個別の要望をかなえ、それによって単なる「nLDK」とは異なる空間しいては「形式」を模索しました。

田園調布南の住まいが必ずしもその意味で意図した結果を指し示したとは思っていません。

しかしオーナーの言葉は、設計でやろうとした意図をある程度汲み取っていただいたと思います。


常々よき設計というのは定まってしまった「形式」とは別のところにあると思います。

それは住まい手の要求する条件を純粋に実現するために、

目の前にある困難を解決することによって導いてくれる。新しいものだと思います。

それが今の「形式」に風穴を開け、価値を生み出す新しい「形式」につながれば。

そんな気持ちがあります。個別解から始まって一般解につながるような、

新しい空間そして形式。それが目指すところです。

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