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セカヒト外伝・重力僧(5)

ウルフは何やら語り足りないようで、
「私はここに来る以前から、この重力操作を使って一人で戦ってきた。力を求めるあまり……」
とつぶやいた矢先、また障子が開く。
「怪我はどうだ」
「まだ痛むな……」
「なに、何週か、一ヶ月は安静だ」
「それにしても、これほどの怪我人は久しぶりだった」
「手間かけさせたか」
「何、これが俺の本業でもあるし、鈍らないからいい」
ウルフに話しかけてきたのは医者だそうだが、風貌は医者のそれではない。
目元が見えないくらいまで伸びた前髪をはじめ、不規則に乱れている。
しかも普段は面倒臭がりだというが、ウルフはそこまでは知らない。

「お前さんは、何処から来た?」
「……」
「名前は何だ?」
「……?」
「何で首をかしげる」
「ちょっと待って、様子がおかしいよ」
「確かに。あの感じは本当に覚えて無さそうだ」
「名前……だと?」
ウルフは何やら記憶喪失まで起きてしまっているらしい。医者の質問に答える事もできなかった。
その上質問されるたびに痛みがどこかに来るらしく、意せずして顔を歪めていた。
さらに雨は強まっているらしく、木乃の相棒らしい黒い竜も建物の中に移っている。

「どうした、さてはさっきの質問で?」
「わからぬ。だが確かに質問された時に……ぐっ」
「わかった、無理せず眠ってな」
「すまぬ」
「気にするな。俺も悪かった」
ウルフはその一言を合図に眠るが、まだ痛みは引かず強まる一方。
外も雷が鳴り始め、いよいよ低気圧の中心であることを感じさせる。
半蔵の心身にも雷雨が轟いているのだろうか、眠ろうにも眠れず常に顔が梅干しのよう。
動くこともままならないまま、時間だけが雨の如く流れて行った。

その裏で敷平、木乃と医者は何か話している。
「あの重力使いのお坊さん、記憶がないんですか?」
「重力使いであることぐらいしか覚えてい無さそうだった」
「これは大変ね。そうなるとどっかヘ送り届けるなんてできないし」
「確かにさっき、チームと聞いて戸惑ってましたわ」
「なんだと?チームに入ったことがないのか」
「なのかしら。私も会った時は一人きりだったみたいだし」
「何かわけありなのかもしれんな」
「今は回復だけを考えさせましょう、あの様子はいくらなんでも危ないですわ」
「勿論さ。チームの者たちにも連絡しよう」
「それならさっき私がしたわ。あなたのついでにね」
「すまんな。何か言ってたか」
「一度会っておきたい、ってリーダーが言ってた」
「ここはまぁ、山のふもとだが、わかるか?」
「私が案内しますわ」

雨は降りしきり風も吹きつのる。ウルフは言葉も発せず、孤独を楽しむ彼でも辛い孤独を味わっていた。

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