|
過去にこれほどまで、「Silver」という単語が世界中で注目されたことは、果たしてあったでしょうか・ 日本中が震災後の長期GWでゆったりモードになっていた先々週、世界のマーケットでは、実は大きな地殻変動がありました。 時系列的に整理しますと − 1)4月25日 米連邦準備理事会(FRB)が公表した、4月18日の週における米国ドルの主要通貨に対する実効為替レートは、2008年3月の安値を下回って変動相場制導入以来の歴史的な安値となった。(*この時点で、「ドル安の恩恵を受ける他通貨保有投資家の資金が国際商品市場へ流入し、国際商品が一段高になる」と想定されていた) 2)4月28日 世界の貴金属取引市場において、銀(Silver)の取引価格が1オンスあたり50US$に迫る最高値を記録した。 3)5月2日 WTI(West Texas Intermediate)先物原油価格が、1バレル113S$まで上昇した。金(Gold)先物も1トロイオンス1,577.4US$の過去最高値を更新した。 4)その後、シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループが、急騰していた銀の証拠金を引き上げたのを契機に、銀価格は急落。5月6日までに、4月28日の最高値から30%近く下落した。 世界の商品価格も全般的に10%下落した。原油も100ドルを割り込み、金も5月5日には1,460US$まで下落した。 5)5月9日 急落していた銀価格が下げ止まり、底入れ感が広がり、NYダウ工業株30種平均は45US$高となった。原油も100ドル台を回復。ゴールドマンサックス証券も「原油は、来年は最高値が有り得る」と顧客へ報告。 6)5月13日 銀価格は35.3US$/オンス、原油価格(WTI)は99.34US$/バレル、金価格は1,495.20US$/トロイオンス − といった感じです。 上述の「CMEが銀の証拠金を引き上げた」というのは、正確には何月何日かは報道されていませんが、The Wall Street Journalなどによれば、CMEは銀先物の証拠金率を2週間で4回引き上げたそうです。 ちなみに、この「証拠金率」というのは、商品の価格上昇局面で投機を抑えるためにも引き上げる必要があるものですが、2週間で4回もの引き上げは、銀をショート(空売り)している大手銀行(特にJPモルガン、と言われています)がどんな手を使ってでも価格高騰を食い止めようとしているという一部の主張が巷でありましたが、これを裏付けるかのような動きです。 要すれば、CMEはJPモルガンの利益を助けるために証拠金率を4回も引き上げ、これによって銀の価格は急落し、伝播的に原油はじめその他商品価格も急落した、という説がはびこっています。 一方で、「銀の価格乱高下は、中国投機家の存在が大きい」という説を出しているのは、Financial Times紙です。 同紙によると、上海交易所における銀の取引高(ロンドンやニューヨークより下ですが)が、年初から30倍近く(2837%)まで最近は膨らんでいて、「価格の乱高下を主導するのは中国の一般投資家に違いない」「計り知れない投機が起きていて、誰もが殺到している」という金融関係者のコメントを紹介しています。興味深いです。 ここで重視すべきなのは、世界の経済が、このような「JPモルガン」や「中国の一般投資家による投機」などによる「Silver」という過去には主役になり得なかった国際商品によって、いとも簡単にNYダウまでもが乱高下してしまうほど脆弱な一体性をもってしまっていることです。 換言すれば、いまや世界では東京⇒上海⇒香港⇒シンガポール⇒ロンドン⇒ニューヨークと、24時間どこかで何かが売買されている市場において、リーマン・ショック後の世界を安定させるために米国が行った第2次量的緩和(QE2)がもたらした大量のマネーが、つねに高利回りを求めてリスクに敏感に動く仕組みが完全に定着していることが、今回のケースでも実証された、というわけです。 マネーは、高利回りであれば、行きつく先はどこでも良い訳で、それは株式の時もあれば、為替の時もあり、今年は完全に商品相場、しかもSilverという価格の乱高下で有名なニックネーム「悪魔の金属」が主要活動場所になっているわけです。 時代はいつになっても、金融が高利回りを求めることは不変なので、この仕組みや動きをどうこういっても市場の持つ能力には到底かないませんが、重要なのはこれらの動きが各国の経済に、特に当研究所が主眼をあたているアジア経済、インドネシア経済、華人経済圏にどのような恩恵と不利益を与えるのかが、考えるべき点です。 例えば、アジアで最も有名な大富豪であるLee Ka Shing(李嘉誠)の主たる収益源は不動産です。マレーシアのRobert Kuok(郭鶴年)は砂糖です。インドネシアのAnthony Salimはパーム油とインスタント麺です(金融は別として)。様々な投資対象があり、様々な収益源を華人実業家たちはフレキシブルに備えていますが、果たしてこれほどまでに連帯が強まった世界の金融ネットワークに対して、現在の華人資本家たちの資産ポートフォリオは耐性があるのでしょうか。本当に「ポスト・リーマンショック型」に強化されているのでしょうか。 アジアの好景気には様々な要因があることは確かですが、実際にマネーと実権を裏で握っている華人資本家たちが世界の脆弱な一体性に翻弄され始めているようであれば、アジアのマクロ経済も不安信号がともる可能性が否めません。あらためて注意深く研究したいと実感した、今回の「Silver」価格急落でした。 ( tknaito 研究主幹 ) Copyright © tknaito 1999-2011
|
全体表示
[ リスト ]





