|
日本は参議院選挙の開票真っ最中ですが、事前の予想を超えるレベルで、自民党の圧勝が報じられています。
大方の市場関係者は、というか、世の中の大方は、すでに自民党の圧勝を「織り込み済み」でしたので大きな驚きには必ずしもなっていませんが、これほどの圧勝になると、かえって今後の「揺り戻しリスク」を心配したくなるのが常でしょう。
明日、月曜日以降の市場がどのように反応していくのか、圧勝した自民党に対してこれまで以上に「3本目の矢」を追求すべく株価を下押ししていくのか、丁寧なモニタリングが必要になってきます。
一方、参院選フィーバーの影に隠れてあまりお茶の間の話題になっていませんが、モスクワで過去2日間にわたって開催されていた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、日本を含む今後の世界経済がどのようにならなければいけないのか、という非常に重要な方向性が確認されました。
G20 では、世界経済が「依然弱過ぎる」という非常に厳しい見解を共通のものとして表現し、短期的には財政健全化よりも経済成長を優先する姿勢を世界が示していくことが重要、という方針が合意されました。
一見、当たり前、もしくは既定路線と思われるかもしれませんが、4月にワシントンDCにて臨時で開催された前回G20とは打って変わって、世界経済が「ちょっと焦りモード」の言葉を連ねて声明を公式に出したのは、市場関係者にとっては若干意外感があったに違いありません。
4月のG20の段階では、世界経済にはまだ勢いがありました。日本では黒田氏が日銀総裁に就任した直後に「異次元の金融緩和」を実施した直後のタイミングであり、日米欧の緩和マネーが世界中に出回り、特に新興国への大量流入がピークを迎えようとしていた時期でした。この「異次元のマネー流入」により、世界経済は新興国の成長加速にリードされる「順風満帆」の時期でした。
したがって、G20も「経済成長」よりも「今後の財政規律」について心配が先行し、あまりに大規模すぎる金融緩和や財政出動は中長期的な財政規律の妨げになる、といった議論が中心に有りました。
その前段として、2012年6月のロスカボス・サミットにおいて、2013年9月のサンクトペテルブルグ・サミットまでに、「先進国は、2016年以降の債務対GDP比についての信頼に足る野心的な各国毎の目標が現在存在していない場合には、それを達成するための明確な戦略とタイムテーブルとともに特定すること」が合意されていたことがあります。その後、2013年2月にモスクワで開催されたG20では、「先進国は、ロスカボス(・サミット)で我々の首脳が行ったコミットメントに沿って、信頼に足る中期的な財政戦略をサンクトペテルブルグ・サミットまでに策定する」ことが確認されて、4月のG20でも、こうした方針が再確認されました。
しかしながら、米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ議長の発言が5月以降揺れ続けたことが、今回G20声明におけるトーンの変化、引いては世界経済のトーンを変えてしまいました。
バーナンキ議長は5月以降、米国内の経済指標改善を受けて、5月22日には量的緩和縮小を示唆しました。また、6月19日の会見では、雇用情勢の改善が続けば「今年後半に購入ペースを緩めることが適切」と明言しました。
この発言が、5月以降、一気に新興国からの資金流出を加速させました。要すれば、米国の景気改善が明らかになってきたので量的緩和(QE3)も縮小・出口を具体的に検討する時期になってきたので、当然の如く今までは米国よりも金利が高く株価も堅調だった新興国へ緩和マネーが流れて行っていたのが、米国に一気に戻り始めたというわけです。
この点については、前回の本欄でも解説していますので、どうぞ前回を御参照頂ければ幸いですが、当事者である新興国の代表格であるBRICs、インドネシア、トルコ、メキシコ等々が参加しているG20の場で、「世界経済は依然弱すぎる」という認識が共通的に認識されたということは、やはり特にこれら「当事者」も最近3か月の状況に対して相当危機感を持っている、ということの裏返しではないかと考えられます。
新興国からのマネー流出で、各国の外貨準備高が急減していることなども報道されていますが、大きな視点で見れば、これはまだまだ深刻に受け止めるべきレベルではありません。中国を除く新興12か国(インドネシア、インド、ブラジル、ロシア、etc.)合計の外貨準備高は10年前に比べていまだ3倍の水準にありますし、1997年のアジア通貨危機後に「教訓」として設置された「チェンマイ・イニシアチブ」によってアジア域内で通貨危機が発生しそうになれば通貨を融通し合う枠組みもバックアップ体制として生きています。しかも、このイニシアチブの創設に注力された日本の財務省出身の中尾氏が、現在はアジア開発銀行(ADB)の総裁として控えているので、アジアで通貨危機が起こりそうになった場合は中尾氏も自身のメンツをかけてあらゆる手段を使って「チェンマイ・イニシアチブ」を発動させてくることでしょう。
ただし、G20に話を戻せば、世界全体が「日本や米国の景気改善は悪くないのだが、その反対の影響で新興国の景気が悪化し、結果として日米を含む世界全体が新たな景気低迷のトラップにはまることだけは避けなければならない」という不安モードに入りつつあることは、無視できない事実です。
この不安を打破するためには、以下の2点がまず重要でしょう −
1)「影の銀行」問題による過度な経済成長下降リスクを抑えるためにも、中国は下限金利制度を撤廃して、金融自由化への舵を徐々に切っていかざるを得ない。
2)「緩和マネー」が新興国経済の下支えをしていることは明白なので、欧州や日本、そして中国の景気回復が軌道に乗らない限り、米国はQE3の縮小を自国都合だけで急ぐべきではない。
− これら2点はいずれも、米中2大国にとっては胃の痛くなる話でしょうが、これらを前向きに検討しない限りは、インドネシアなどの重要な新興国経済の下振れリスクが益々高まり、引いてはそれが米中にとってもブーメラン現象として自国の景気下振れリスクを増長させることからも、結局は検討せざるを得なくなることは自明です。
参院選で大勝した自民党も、明日以降の市場からの厳しい突き上げに対して、どこまで市場と噛み合った対話をしていくことが出来るのか。欧米の市場関係者は長期の夏休みを取得している人が多いこの時期なので、大きな商いにはなりにくいと思われますが、自民党にとっては「試される夏」になるでしょうし、日本市場の動き次第ではアジアや欧米の市場も連動せざるを得なくなってきます。
日本と米国、そして中国の財政・金融政策が、まだしばらくの間は世界経済を左右するトリガーであることは変わりがない、それが今回の参院選とG20で確認できたことなのでしょう。
( tknaito 研究主幹 ) Copyright © tknaito 1999-2013
|