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日本はようやく春の天候になってきた感じで、関東から西日本側ではちらほらと桜の開花も聞こえる季節になりました。年度の変わり目を迎え、終わっていくことと新しく始まるものが交差する、一年中で最も季節感が豊かな、心機一転の時期です。
世界に目を向けると、クリミア自治共和国のロシア編入に伴うウクライナ問題は混迷を極め、マレーシア航空機の行方不明事件はもはや国際問題に発展し、明日(24日)からオランダ・ハーグで開催される核安全保障サミットではG7でロシアへの対応が協議される予定であり、並行して急発展の兆しが出てきた北朝鮮との日朝間協議の方向性もあり、そして米国が仲介する形でお膳立てされた日米韓首脳会談が現地時間の25日夕方に予定されています。
世界では、特に国際政治の面では、常にどこかで何らかの力学が働いて、何らかの懸案が生じ、それに対して国際協調や対話、はたまた対立が常に起こっています。
本欄で解説しているのは、主にインドネシアを中心とした東南アジアにおける華人資本の動向にまつわる時事ネタですが、本ブログの前身であるホームページを1999年に開設した時の発想と現在の記事発信の状況をあえて比較して自己分析してみれば、華人資本の動きを追う際に10年前は全く気にもしなかったロシアの動きや、果ては南米やアフリカの動きなどを鳥瞰的に把握しなければ記事を書けなくなってきていることに改めて気付かされます。
もはや当たり前となった「グローバリゼーション」という世界のつながりは、国だけでなく地域、そして華人経済圏特有の経済ネットワーク性という側面にまで強く影響を及ぼすようになってきており、例えば欧米によるロシアに対する経済制裁の側面など、無視して物事を考えられなくなってきていることが、面白くもあり難しくもあります。
さて、前置きが少し長くなりましたが、そんなこんなで世界の政治経済におけるホットトピックを俯瞰しながら、今週も華人資本の動きを少し考察してみたいと思います。
3月19日(水)、米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長が世界のマーケットを震撼させました。
FRBがゼロ金利政策を解除する時期について、記者がイエレンに「(米連邦公開市場委員会で発表された声明にある)『相当の期間』というのは具体的にどれぐらいの期間なのか」と詰め寄った時に、イエレンは「おそらく6か月程度」と答えてしまいました。
それまでの大方の市場予想は、利上げは2016年にずれ込むとの見方が大勢だったので、「6か月」というのは「現在継続中のFRBによる証券購入(量的緩和)規模減額が今後も同じペースで続けば、今年10月までには購入規模はゼロになる。そこから『6か月後』ということは、2015年春が政策金利(FF金利)引き上げのタイミング」ということを意味するので、市場は一気に大慌て状態に陥りました。
FF金利がゼロ解除になれば、今までアジアを中心に流入していた「緩和マネー」の一部は、米国へ戻っていくことが想定されます。このため、『イエレン・ショック』直後から日米で株安状態となり、インドネシアでも平均株価が3%弱下落、ルピアも対米ドルで1%超下落しました。
このイエレンの突然の「6か月」発言には、当研究所も「えっ?」という感じで虚を突かれましたが、心配したほど大きなネガティブインパクトがインドネシアやフィリピンあたりの「選別され始めている優良新興国」の市場に対して働いていないことを確認できたので、ひとまず「驚いたけど、逆に耐性を確認できた機会」と捉えています。
ブルームバーグによる最近の発表によれば、2013年第4四半期(10−12月)においてインドネシア・タイ・フィリピンの東南アジア主要3か国から約42億ドルの海外資本が流出したとのことですが、一方で今月(2014年3月)は同3か国に対する海外資本の流入が既に16億ドルに上っており、これは単月ベースで見れば2013年1月以来最大の月間流入となっているとのことです。
すなわち、イエレン・ショックまでの流れとして、既にインドネシアを含むこれら3か国に対する投資マネーは還流トレンドに入っていた、ということです。実際、インドネシアだけでもジャカルタ総合株式指数が年初(4327ポイント)と3月21日終値(4700ポイント)の比較だけでも、8%の上昇を記録して出来高も順調に増えています。
ミクロのスナップショットで見ても、イエレン・ショック勃発後2日目の3月21日(木)の株式市場では、大きな動揺を見せることなく、冷静に中期的な有望株に資金が集まっているように見受けられ、出来高上位20社を見るとBumi ResourcesやBakrie Sumatra Plantationsなど資源系が下落基調を見せる中、Sentul CityやNirvana Development、Waskita Karyaなど建設・不動産開発系の内需株がしっかりと買われて値を上げていました。
このあたりは、国内華人資本家が安定的に資本投下している国内成長関連銘柄であり、これらの概観の印象から言えば華人資本はイエレン・ショックに対して大きなネガティブ・リアクションをとっているようには見えません。
少し見方を広げると、タイでは政治混乱が長引いているにもかかわらず、バンコクでは非常事態宣言も解除されて商業や流通も少しずつ平常時に戻りつつあり、経済も徐々にBack to normalになりつつあるのがインドネシアを含む周辺国に良い影響を与えています。
先週の本欄で、バンコクからリスク回避した資本がインドネシアに特需的経済効果をもたらしたことを御紹介しましたが、一時的にインドネシアにとって特需は嬉しい話であったとしても、バンコクを中心としたタイでのビジネスが中長期的に停滞することは、今やグローバルに展開されるサプライ・チェーンが滞ることを意味することは2012年11月のバンコク洪水で証明されているので、インドネシアにとってもアジア全体にとっても、そして世界全体にとっても決して良い話ではありません。
その観点からも、あれだけの政治混乱が長引いているにもかかわらず、バンコクが少しずつ回復して投資も根本的に引き上げていないということは、アジアノサスティナビリティにとって非常に良い現象と言えます。
イエレン・ショックは市場を本当にびっくりさせましたが、ブラジルやインドや南アフリカなどの脆弱性と比較してインドネシアなどの底力がより明確になってくる、そんなリトマス試験的な意味になってくるかもしれません。
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