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オバマ米国大統領の来日が嵐のように過ぎ去りました。
水曜夜に来日し金曜午前中に離日するという、実質滞在1日半の強行日程であった前代未聞の「国賓」でしたが、日米両政府間にとって間違いなく本論であった環太平洋経済連携協定(TPP)協議を通じて、今後のアジア経済を考える上で多くのことが浮き彫りになった意味深い「国賓」来日でもありました。
いみじくも、オバマ大統領離日直後のタイミングで、麻生副総理・財務相が「TPP合意は秋の米国中間選挙まで無理なのではないのか。今のオバマ大統領に議会をまとめる力はないと思う」という失言がありましたが、実態的にはこの発言は的を得ていたのかもしれず、安倍政権全体の本音だったのかもしれません。
昨日(4月26日)付けの日経朝刊にも、今後のTPP交渉について3つのシナリオ(夏までに決着/米中間選挙後の11月に合意/交渉難航し越年)が予想されていましたが、どれが最も可能性が高いかは別として、いずれもオバマ大統領が難しい調整を余儀なくされている国内議会との折り合いをどう付けるのかというのがコントロールポイントであることは変わりありません。
言わば、もはや世界の民主主義のお手本を自認してきた米国が民主主義に振り回されているという、歴代最もリベラルと言われるオバマ大統領にとっても、自身の頭痛が民意で選出された議会であるという、ジレンマと言う以外何者でもない状況が、ここでも明らかになっています。
今朝の同誌朝刊では、「すきやばし次郎」での夕食を交えた会話の一部や出席者選定を巡る経緯が書かれていますが、これが真実かどうかの判断は読者に任されるとしても、現時点での支持率が自分よりも安倍首相の方が数値的に高いことを引き合いに出したことは他メディアでも紹介されていることから、如何にオバマ大統領が支持率と議会対応に悩まされてTPPにしても日中韓関係にしても自らの考えを貫き通せない実情があるのかが、もはや疑いのない事実であると言えます。
TPPが善か悪かは、もはや日本国内では安倍政権が君臨する限り、二者択一で議論すること自体愚問でしょう。
しかしながら、真に重要なのは、TPPがどのような内容で最終的に合意され、その結果参加する12ヶ国にとって何がメリット・デメリットとなり、さらにはTPPの実現がその後の環太平洋経済圏全体、アジア経済圏全体、ASEAN経済共同体、世界経済全体にとってどのような影響を及ぼしうるのか、この先行きを考えていくことでしょう。
特に当研究所は、TPPの行方が、中国も参加する東アジア地域包括的経済連携(RCEP)と、ASEANにとって大きなマイルストーンになる来年の東南アジア経済共同体(EAC)発足にどのような影響を及ぼすのか、どのようなビジネスチャンスを作り出すのか、それが域内経済で最も大きな影響力を持つインドネシア華人資本家達にとってどのような意味を成すのか、という点に尽きます。
その観点から、先週のオバマ大統領来日とTPP合意延期という結果が確定した直後に、マレーシアのムスタパ貿易産業相が「両国はTPPでは合意に至らない」と記者会見でコメントしたことは、ある意味ショッキングでした。
マレーシアは、TPPオリジナルメンバー4カ国(ニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイ)に次いで、日本よりも早い段階でオーストラリア、ペルー、米国、ベトナムなどと同時期からTPP協議に入っている「第2古参組」ですが、米国が強引に交渉をリードする近年の経緯に対して違和感を示し始めており、ベトナムとともに「TPP離脱可能性の高い国」と言われていました。
ベトナムとマレーシアは、特に国営企業に対する保護的産業政策が強い国であり、米国にとってはTPPによって各国国営企業が独占していた国内市場に入っていけるメリットがある一方、両国にとっては国営企業改革は大きな痛みを伴うことが想定されることから、国内からはTPP参加に対して厳しい声が多く出されてきました。
そんな中、ベトナムのディン・ティエン・ズン財務相が来日し、ベトナム国営企業の民営化を加速させるために外資の出資比率を今までの最大49%から60%まで引き上げることを検討を開始したことを公表したことは、大きな衝撃でした。
実際には、まだベトナム国内での検討と議会承認などが必要とされますが、財務相が方針を表明したということは大きなコミットメントを意味しており、ベトナムの政治構造を鑑みれば条件付にはなるかもしれませんが、おそらく表明された方向どおりで決着が付くのではないかと言うことは容易に想像できます。
これは、ベトナムがTPPに対して死に物狂いで喰らいついていくぞ、と言っているのも同じであり、マレーシアにとってはトランプのジョーカーをベトナムから出されたような、そんな衝撃的出来事でしょう。
こうなると、この衝撃を市場で誰が一番喜ぶかと言うと、日本や米国のメーカーでもありますが、実はTPPに参加する12ヶ国以外の国々、たとえばタイやインドネシアの華人財閥なども、大きく身を乗り出してソロバンをはじき始めたに違いありません。なぜなら、ズン財務相は「日本からの投資は最優先だ」と述べてはいるものの、他国からの投資を排除するなどとは一言もいっていません。
日本や韓国以外のアジア域内の資本としては、ベトナムに対する投資は台湾がドイモイ開始後から先行し、中国が近年は大きな投資を連続的に行っています。しかしながら、ベトナムは中国からの投資に対して敏感な部分があり、すべてを歓迎している訳ではありません。ここ数年では、タイのCPグループが資本力と華人ネットワークを生かして、ベトナムの資源と消費材などを中心に、じわりじわりと影響力を強めていっています。東南アジアでは有名な百貨店「ロビンソン」も3月にハノイに開店し、ホーチミンにも10月開店予定だそうです。
TPPの行方とアジア経済圏への影響、そしてその中で華人資本がどのように暗躍するのか。ますます目が離せない状況になってきました。
来年はASEAN経済共同体発足も重なり、本当にエキサイティングでもあり、成長する市場の取り合いさえ発生する戦国時代にもなりそうな気配です。
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