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世界はいま、静かなように見えて、実はとても不安定な状態が加速しています。
この2週間で最も世界を混乱させているのは、イラクにおける内紛でしょう。米国が攻め入ったイラク戦争によって排除されたスンニ派が、アル・カイーダ系のテロリスト集団ISISに率いられ、欧米によって後押しされてイラク戦争終了後の現政権を担ってきたシーア派を駆逐すべく、イラク国内で勢力を日に日に拡大していっています。
ここまでであれば、イラク国内におけるスンニ派とシーア派の単なる派閥争いに見えるかもしれませんが、皮肉にも米国が先導して浸透したグローバリゼーションによって、イラク情勢の混迷はインドやインドネシアにまで即時に影響を及ぼすことになってしまっています。
改革派のモディ氏が首相に選出された5月中旬以降、インドの株式マーケットは世界中から再び注目を集めるようになり、株価上昇率は年初来20%を超えていました。多くのマスコミが「世界の投資はインドに向かう」と大きく囃し立てました。
しかしながら、イラク国内のISISによる反政府運動問題が急速に悪化してからというもの、インドの株式指数はそれまでの右上がりムードから一変、膠着〜下落ムードへと潮目が完全に変わりました。為替ルピーも、6月17日には対米ドルで一時、過去2か月間で最低水準にまで売られ浴びせられました。
急落の原因は、インドの石油需要の約75%が輸入に依存していることにあります。すなわち、ひとたび何らかの理由で原油価格が上昇すると、インドのマクロ経済には少なくないマイナス影響が即座に、そして包括的に働いてしまうという因果関係にあります。
今回のイラク情勢混迷は、イラクからの石油輸出に影響が出てインドのみならず世界全体に対する供給量に負の影響が出てくると市場が見越していることにより、原油価格が上昇していて、これが遠因となってインドの金融市場を混乱させています。
インドだけではなく、インドネシアもターゲットにされつつある感じです。
インドネシアも、産油国ではありながら、自国での石油精製事業の基盤・設備がまだ弱く、中東諸国からの石油輸入に大きく依存している国のひとつです。したがって、イラク情勢混迷によって高騰する原油価格は、インドネシアにとっても重大な問題であり、下手をすれば自国の経済成長見通しに深刻なネガティブ・インパクトを与えることさえ想定され得ます。
実際には、インドネシアの金融市場は、イラク問題に対するウォッチを皆が続けているのはインドと同じでしょうが、それ以上に、7月9日に迫った大統領選挙とその結果の方に意識が牽引されていっているのは間違いないでしょう。
特に、昨年あたりから「出馬すれば大本命間違いなし」と言われ続けてきた現ジャカルタ特別州知事のジョコウィ(future)に対して、プラボウォ・スビアント元陸軍上級将校(past)との選挙を通じた戦いが繰り広げられていますが、プラボウォの熱狂的な支持者も徐々に増えて行っています。
すなわち、インドネシアに限って言えば、原油価格の高騰ももちろん大きな課題ですが、7月9日の選挙でだれに投票すべきか、Are you going to vote for the Indonesia’s future, or past?という難しい質問が飛び交っているのも大きな心配事として市場にネガティブな影響を与えています。
中国の海域・空域問題に関しては、いまだに揉めています。ウクライナ問題も、いまだ根本的な至っていません。タイの政権もいまだにはっきりしません。米国でさえ、雇用なきリカバリーが進もうとしています。ほかにも、世界各地で内戦、民族間紛争、経済低迷が続いていますが、過去10年間でそれらを補完するために牽引役となってきた中国自身も、決して持続的な経済成長が約束されているかと言えば、そうでないことが指摘され始めています。
このように、世界中の多くの地域・国で不安定要因が発生しているこの時に、東南アジアの華人資本家達は世界の中でも安定性が見込め、利回りを確保出来、商慣習上も投資が反故にされにくい投資対象の地域と国を常に精査し続けています。
その対象として、日本の不動産投資が最近見直されています。日本の不動産投資信託(REIT)は今春以降上昇基調にありますが、単なる年度末(3月)の駆け込み需要的なものだけでなく、比較的に安定的に大型の投資が今も続いて流入基調にあります。
華人資本家達にとって、アベノミクスで一定程度2013年中に上昇したと考えられている日本国内の不動産の価値も、実はまだ2020年の東京オリンピックなどを見据えた将来的な価格の成長性利回りを考えれば、まだまだ割安のものも多い、というソロバン勘定になるようです。事実、日本の森ビルも、今後10年間で総額1兆円規模の投資を行っていく、と虎の門ヒルズ完工時の報道会見で発表したりしています。
この背景には、今まで投資先として先行して想定されてきた中国の不動産(特に住宅)価格の下落が鮮明になってきている、ということもあると考えられます。
しかし、日本の不動産価格を考えた場合、すでに世界水準でとても高価で、一本調子で天井知らずに上昇し続けるとは考えにくいことからも、天井を打つのは遅くないという考えもあります。ただし、逆説的には、(不動産価格が)急激に下がるという要因が現実的にはあまり見当たらないというのも遠因になっています。
したがって、アジアの華人資本家達は、中国不動産から日本不動産へのシフトを一定程度完了したら、次はどこへ向かうのでしょうか。
答えは様々有り得ると思いますが、価格や利回りの上昇チャンスというのは、常に需要が供給を上回るタイミングに発生します。すなわち、現在はダメだと見られても、実は半年後または1年後には今から想定も出来ないほどパワフルな成長ゾーンに入っているはずの地域・国になるということでしょう。
例えば、現在は観光客も寄り付かず、経済成長も滞って土地の価格も下落傾向にある、タイのような。
華人資本の動きをみていると、まさしく投資の基本(下げ相場で買い、上げ相場で売る)そのもの、ということを学ぶことができます。
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